No.340

News 16-04(通巻340号)

News

2016年04月25日発行

チャップマン大学の多目的ホールがオープン

 本ニュース2012年11月号でご紹介した、アメリカ・カリフォルニア州南部オレンジカウンティにキャンパスを構えるチャップマン大学の新しい施設Musco Center for the Artsが、着工から約3年半の工事期間を経てこのたび竣工し、3月19日にグランドオープニングを迎えた。

 施設は8,189m2(88,142平方フィート)の建築面積を持ち、総工費は約8,200万ドルで、1,044席の多目的ホールのほか、計9つの楽屋、録音室および会議室などを含む。施設の核となるJulianne Argyros Orchestra Hallと名付けられたホールは、大型のステージ・フライタワーを持ち、本格的な舞台音響反射板や、最大で約70人のミュージシャンを収容できるオーケストラ・ピットを舞台装置として備える、多目的な用途を想定したプロセニアム形式の劇場である。

 設計チームを組んだ建築設計担当のPfeiffer Partners Architectsと劇場コンサルタントのTheatre Projects Consultantsは、これまで数多くの劇場・ホール施設を手掛けており、与えられた条件の中で経験豊富な担当者たちとお互いの主張をぶつけ合い、詳細を詰めていく仕事は、とてもやりがいのあるものであった。

 チーム内では、当初から、ホールの舞台と客席のあいだの視覚的な連続性あるいは親密さをデザインコンセプトとして共有した。ホール客席の平面形状は六角形で、二段のバルコニー席を持ち、両サイドには合計16のボックス席が配置されており、舞台と客席の距離をできる限り短くしている。正面バルコニー席最上段から舞台の鼻先までは29m(97フィート)となっており、パースペクティブな形状の効果もあって、かなり近く感じる。鉄骨のフレームや照明器具などを合わせて総重量約55トン(約120,000ポンド)の舞台音響反射板の内部には、サイドバルコニー席から連続するような形で二段の庇を設け、視覚的に一体となるような工夫がなされている。プロセニアム開口は、幅19m(62フィート)、高さ11m(36フィート)だが、オーケストラ・ピットの床面をステージの床面と同じレベルまで上げられるようにしてフル・オーケストラ用のステージ面積を確保しており、この場合、オーケストラはプロセニアム開口から客席側に迫り出す格好になり、観客との一体感がより大きく得られるようになっている。

 クラシック音楽のコンサートだけでなく、電気音響設備を使用するイベントにも対応できるよう、響きを抑える目的で、電動式の吸音カーテンを多数設置した。側壁には花弁状のパネルの合間に昇降式のバナーが、また天井には照明ブリッジに沿って横引きのカーテンが、個別のボタン操作で簡単に出し入れできるようになっている。残響時間については、舞台音響反射板を組んだ状態の一番長い条件で2.1秒(空席時の実測値から推定した満席時の計算値、500Hz)、また、舞台音響反射板を外して舞台幕を設置し、すべての吸音カーテンを設置した状態の一番短くなる条件で1.4秒(同上)となっており、大きな差を作り出すことができた。多目的ホールとして十分な可変範囲を確保している。

 3月19日に開催されたオープニング・ガラ・イベントでは、ロサンゼルス・オペラ・オーケストラの演奏により、Placido Domingo、Deborah VoigtおよびMilena Kiticなどの有名ソリストに卒業生が多数加わってオペラ・アリアが次々と披露され、まさに華々しい幕開けとなった。また、4月2日にはパシフィック・シンフォニーによるグリーグのピアノ協奏曲(ピアノ:Grace Fong)とベートーヴェンの交響曲第5番の演奏会が開催された。オペラ・アリアとオーケストラの計2回のコンサートからだけの印象ではあるが、ホールの音響効果については申し分の無いものであることを確認した。

 今後、本施設は、大学内の教育施設としてだけではなく、周辺地域の団体との連携を深めながら、パフォーミングアーツの制作・発表あるいは人材育成の場として、幅広く利用されることが期待されている。(菰田基生記)

新しい施設のホームページ: http://muscocenter.org

詳しく知ろう!移動間仕切 ― A 遮音性能を得るための様々な配慮 ―

 移動間仕切のシリーズ1回目(本ニュース338号)では、メーカーのカタログに記載されている遮音性能の値が何を示しているのかについて述べた。本号では、遮音タイプの移動間仕切を採用するにあたって、期待する遮音性能が得られるようにするため、移動間仕切周囲の納まりについて、どこに気をつける必要があるかを取り上げてみたい。

天井を経由して音が洩れないために

 まず最初に、移動間仕切上部の天井内について考える。一般的に天井は、石膏ボード捨貼り+岩綿吸音板等のボード系の仕上げが施されることが多いが、天井内を経由して隣接室へ音が伝搬するのを防ぐためには、この天井仕上げだけではなく、移動間仕切上部の天井内に遮音用の垂れ壁が必要となる。垂れ壁の仕様は移動間仕切に期待する遮音性能に応じて決めることになるが、遮音タイプともなると、下地の両面に石膏ボードを2枚貼り(移動間仕切の仕様によっては、内部にグラスウールを設置)することが多い。

 また、移動間仕切のレールは、前述のようなボード系の吊り天井によって隠れる納まりが標準的な仕様になっているが、天井を設けない、又はグリッドパイプ等を用いた視覚天井のようにレールが露出する場合には、遮音上弱い個所が生じないように垂れ壁とレールとの取合いに注意が必要である。あわせて、垂れ壁を貫通するダクト・配管等の設備の遮音貫通処理も忘れないようにしたい。

吊り天井がある場合の天井内遮音壁
移動間仕切のレールが露出しないように側面を鉄板でカバーした事例

壁面にも遮音壁が必要

 移動間仕切の戸当りが取り付けられる壁面についても、移動間仕切と同等の遮音性能を持つ構造が必要となる。特に内装に吸音仕上げを用いる場合には、その背後に遮音用の壁が必要になるので注意したい。

床にも構造に応じた配慮を

 移動間仕切が設置される室の床構造には、コンクリートスラブに仕上げが直貼りされる場合、乾式ニ重床(置き床)や木軸組床により床下に空間が出来る場合、防振遮音構造が採用されてコンクリート浮き床になっている場合などがある。

 移動間仕切と床仕上げ面との隙間はスライド式の圧接機構で塞ぐ仕組みであるが、床面に不陸があると、圧接機構のみでは隙間を防ぎきれなくなる。特に、コンクリートスラブや浮き床に直に仕上げが貼られる場合には、移動間仕切直下の床に出来るだけ不陸が無いように施工に注意する。

 室に音が伝搬しないように配慮する必要がある。その方法については、移動間仕切や床の仕様を考慮して決めることになるが、例えば、右図の様にスラブにコンクリートの立上りを設けて、立上り上面と床下面との隙間を塞ぐ方法がある。

 また、コンクリート浮き床の場合には、浮き床を介した固体伝搬音が隣接室間の遮音性能に影響を及ぼした事例がある。隣接室間に高い遮音性能を実現するために2重に移動間仕切を設置する場合、又は1重であっても高遮音性能の移動間仕切を用いる場合には、間仕切直下で浮き床にスリットを設けて、浮き床を介した固体伝搬音の影響を防止することも考えなければならない。

移動間仕切りの収納庫

 移動間仕切収納のために別途に収納庫を設ける場合、そのスペースが倉庫と兼用で計画されることがある。室を間仕切で仕切った際に倉庫を両方の室から使えるようにしたい場合、倉庫を経由した音洩れが生じないように、倉庫入口扉を防音仕様にするなどの対策が必要となる。

レールからも音が漏れる?

 移動間仕切で仕切られた室間の遮音性能を低下させる要因のひとつとして、移動間仕切の走行レール部分からの音洩れが挙げられる。レールのルートは、室内を移動間仕切でどのように仕切りたいか、移動間仕切の収納場所をどこに設けるかによって異なってくるが、間仕切設置時にレールが横切るT字あるいは十字ルートの場合には、その部分に穴が開いた状態となり、音洩れが生じる。移動間仕切で仕切った隣接室間に高い遮音性能を求める場合には、間仕切をレールが横切らないように、仕切り方・収納場所等を検討することが望ましい。

 移動間仕切で仕切った室間で期待通りの遮音性能を得るためには、適切な製品を選択することに加えて、移動間仕切周囲の納まりについても上記のような配慮が必要になる。そのために、少しでも参考になれば幸いである。(箱崎文子記)