ロームシアター京都がオープン!
昨年9月に竣工したロームシアター京都が今年の1月10日にオープニングを迎えた。施設の詳細やオープニング公演についてお伝えしたい。
施設概要
本施設は1960年に開館した前川國男氏設計の京都会館を改築・改修したものである。再整備までの経緯や基本計画については本ニュース334号をご覧いただきたいが、前川建築や付近の景観を継承・維持しつつ、ホールの高機能化をはかるという基本方針で、メインファサードとなる第2ホール棟と会議室棟は残して改修し、第1ホール棟は解体して2,005席のメインホールとして建て替えている。また、第2ホールも内装が全面改修されてサウスホール(716席)として生まれ変わり、メインホールの下階にはリハーサル室としても使えるノースホールが新たに計画されている。弊社は再整備工事への技術提案の段階から参加し、施設の遮音計画と各ホールの室内音響計画を行った。
遮音計画
施設の外観をみると、改修前の京都会館と同様、前川建築の象徴であるコンクリートの大庇が切れ目無く連続しているように見える。しかし、既存改修棟と増築棟からなる本施設では、両建物の間にエキスパンションジョイントが設けられていて、実は既存の庇(写真左側)と新設の庇(同右)から構成されている。音響的には、このエキスパンションジョイントを舞台が隣接するメインホールとサウスホールの間の遮音構造として利用している。また、メインホールの直下に位置するノースホールには防振遮音構造が採用され、メインホールと他ホール間ではD-70以上の遮音性能となっている。
メインホール
旧ホールと同敷地に舞台を拡大させた2,000席のホールを計画するという条件から、客席はメインフロアに3層のバルコニー席を積み上げる構成になっている。しかし、上階のバルコニー席でも舞台への視距離が30 m程度に抑えられており、2,000席規模とは思えない舞台の近さを感じさせる。客席の壁は積層ボードの上に金属スタッコの左官仕上げとなっていて、LED照明に照らされた金色の壁面と緑青色の柱にはスタッコの微妙な濃淡があらわれる。天井については、本舞台・オーケストラピット・前舞台からの音を客席全体に反射させるような曲面形状としており、側面にのびた多層のサイドバルコニー席と照明ギャラリーには音響的な庇の効果も期待している。舞台音響反射板については、オペラ等への対応を優先して吊りバトン数をなるべく確保するため、正面反射板のみ舞台袖に収納する方式(Wenger社製の組立式反射板)となったが、天井と側面の反射板にも客席と連続するような曲面形状と庇の要素を取り入れている。反射板設置時の残響時間(満席時推定値、500 Hz)は1.6秒で、同規模施設と比べるとやや短い値ではあるが、十分な反射音が得られ、上階にいても舞台が視覚的・聴感的に近く感じられた。
オープニング公演では、オーケストラが本舞台上で演奏する「演奏会形式」でオペラ「フィデリオ」が行われた。京都を拠点に活動する三浦 基(もとい)氏による演出で、オーケストラピットから歌手が登退場したり、舞台奥に設置した仮設スクリーンに字幕や演出映像をリアプロジェクションで投影するという演出であった。フィナーレのシーンでは、そのスクリーンを取り払って演出の仕組みが種あかしされたのだが、通常客席からは見えない舞台裏まで見通せて、あたかも舞台裏までお披露目をしているかのようであった。このような演出は旧ホールでは出来なかったことで、さっそくホールの新しい機能を活用しているように感じた。
サウスホール
サウスホールは京都会館の第2ホールを改修したもので、旧ホール同様、伝統芸能や演劇、講演会の利用を想定している。内装も旧ホールのデザインを踏襲していて、木ルーバーがつく折れ壁は音響的な拡散面にもなっている。700席という手頃なホール規模から、演劇公演だけでなく、市民の音楽発表会にも利用されると考え、響きが短くなりすぎず、壁や天井からの反射音でセリフや生音が補強されるように、一部の後壁以外は反射面で構成した。オープニング公演「能楽特別公演〜伝承 日本人の心〜」では、翁の能面越しに発する声がホール全体に響き渡って、さらに迫力を増しており、その効果を十分に体感することができた。
また、舞台音響反射板を備える本ホールでは、客席前方の可動式の天井反射板と合わせることで、音楽の催し物にも対応する。舞台天井反射板は薄いゴムシート製ではあるが、「真っ暗な舞台空間のなかに、あたかも舞台装置のような反射板が存在する」という設計監修者のイメージの通り、客席空間の木調のイメージとはガラリと変わったシルバー色の反射板が舞台に浮かび上がる。
ノースホール
今回新たに出来たノースホールはメインホール・サウスホールのリハーサル利用の他、演劇やダンス等が想定されており、天井グリッドパイプやバレエバーを備えた平土間(約21×14×5m)のブラックボックスになっている。内装仕上げは、折れ形状の壁・天井に有孔板とグラスウールによる吸音面を分散させ、響きの可変のための吸音カーテンを技術ギャラリーの下に配置している。暗色のボードとカーテンで構成された室内は完全なブラックボックスのイメージであるが、四周のギャラリーに取り付くLED照明が変化して、様々な雰囲気を感じさせる。
オープンから1ヶ月が経ったが、話題性のある公演も今後多数予定されている。また、改修された旧会議室棟にはテナントとしてスターバックスと蔦谷書店が入ったこともあり、ホール利用者以外に、平安神宮周辺を訪れる観光客や地元の人も多く集まっているようである。
京都という土地柄もあったのだろうか、建築的価値のある建物の保存や景観保全という点から、再整備計画には否定的な声も多かったように感じる。そんななか、本施設は築50年を機に生まれ変わることになった。建物としてのホールを残すのではなく、時代にあわせて使われ続け、利用者が非日常的な体験が出来る機会をより多く提供することを選んだのだと思っている。オープニング公演のオペラで歌った少年合唱団の子供は大人になった時にこの経験をどう伝えるのだろうか、改修を楽しみにしていた居酒屋の大将のお子さん(習い事:バレエ)はこの先何度サウスホールの舞台を踏むのだろうか、数十年後にこの記事を読んだ人はどのように感じるのだろうか、非常に気になるところである。(服部暢彦記)
ロームシアター京都: http://rohmtheatrekyoto.jp/
詳しく知ろう!移動間仕切 ― @ 遮音性能 その値は何を示しているのか? ―
「移動間仕切(スライディングウォール)」をご存じだろうか。公民館や文化施設の会議室等で見かけることの多い、室を仕切るための移動式のパネルのことである。今回から数回に分けて、この移動間仕切の遮音性能等について取り上げたい。
本題に入る前に、似たような名前で「可動間仕切」というものもあるので、まずはその違いについて確認しよう。どちらも「動かせる壁」を連想させる名称だが、「可動間仕切」についてはJIS A 6512に“非耐力壁の間仕切として建物の内部空間に取り付けるもので、分解、組立または移設して再使用の出来る可動間仕切”と記載されている。軽量鉄骨下地で作られることが多い間仕切壁が壊さずに移設することが出来ないのに対し、「可動間仕切」は分解・移設を前提としているのが特徴の“固定の壁”であり、日常的に動かして使う「移動間仕切」とは別物であるので混同しないようにしたい。
「移動間仕切」は空間のフレキシブルな利用を可能にすることから、会議室にとどまらず、結婚式の披露宴会場・展示施設など様々な用途の施設に導入されてきたが、その際に問題となってくるのが遮音性能である。移動間仕切で室を仕切った場合に、仕切った両側の室を別々の利用者が同時に使用するのであれば、各室の使用目的に見合った遮音性能が求められることになる。各メーカーでは以前より遮音タイプの移動間仕切を扱っており、高遮音性能をうたった製品もある。一方で、最近、その移動間仕切の遮音性能について相談を受けることが多くなった。設置後に「遮音タイプなのに、こんなに音が洩れるの?」ということにならないために、導入時に何を確認する必要があるのかを整理しておきたい。
まず、移動間仕切の操作方法であるが、天井面に取り付けられたレールに吊られたパネルを1枚ずつ所定の位置に移動し、パネル間の隙間が小さくなるようにパネル同士を押し付けながら、パネルの上下端部に組み込まれているスライド式の圧接機構を出して固定する。この圧接機構により上下の隙間も塞がれる。パネルを全て設置し終わった後、今度は両端のパネルの壁面側の端部に組み込まれているスライド式の圧接機構で、左右壁面との隙間を塞ぐ。このように、動かせるということは分割・組立の作業が発生するということであり、隙間を塞ぐ可動部を持つことになる。このため、移動間仕切ではこのパネル周囲の圧接機構部、パネル間目地部の隙間等からの音洩れにより、中高音域の遮音性能が低下しやすくなる。音洩れを防ぐための機構が各メーカーにより開発されているが、一方で、遮音性能の表示方法が誤解を招いていることも多いようだ。それでは、移動間仕切のメーカーはカタログに遮音性能をどのように記載しているのだろうか。代表的なメーカー数社のカタログ・技術資料を比較したところ、音響透過損失試験結果(パネル単体または通常施工状態)、納入物件における遮音性能測定結果(室間の音圧レベル差)の3種類のいずれか、または複数が表示されていた。これらについて、順を追って説明したい。
移動間仕切の音響透過損失の測定方法
日本パーティション工業会で発行している「遮音性能測定と評価方法」(HP版2007年7月)に掲載されている移動間仕切の遮音性能試験方法(工業会基準)を基に、移動間仕切の音響透過損失がどの様に測定されているのかを見てみることにする。音響透過損失の測定はJIS A 1416に基づいて実験室で実施されるが、その際の試験体の設置方法は次に示す3種類が示されている。(これらの内、代表する2種類を右下図に示す。)
- パネル単体の音響透過損失:パネル部以外の上下端・左右端・パネル間目地部等の隙間を粘土詰め。
- 通常の施工状態に近い音響透過損失:ただし、レール〜上部垂れ壁、壁見切り〜周囲壁面を粘土詰め。
- パネル間目地部の隙間等からの音洩れの影響を含んだ音響透過損失:(2)に更にスライド式圧接機構部の表面まで粘土詰め。(手元のカタログでは(3)によるデータは無く、あまり用いられていないようである。)
(1)以外は、隙間からの音洩れ等の影響により遮音性能が低下するため、音響透過損失の値は(1)>(3)>(2)となる。(1)に対して(2)では中音域で5〜15dB程度低い値となることも多い。日本パーティション工業会では(2)通常施工状態を推奨している。
音響透過損失と遮音性能
音響透過損失は、前述の(1)〜(3)のような条件下において、移動間仕切そのものを音がどの程度透過するかを表す量である。これに対し、移動間仕切で仕切られた室間の遮音性能は、移動間仕切の大きさと受音室の吸音の程度、更に、移動間仕切が設置される周囲の壁・床の構造、側路伝搬の影響等が加わった空間性能である。このため、実際に得られる遮音性能は音響透過損失((2)通常施工状態での値)よりも小さい値になることが多いので、気をつけたい。
移動間仕切導入時にあたって確認したいこと
移動間仕切導入の検討は、メーカーのカタログの「遮音タイプ」の製品を見ることから始めることが多いと思うが、ここでちょっと注意が必要だ。実は、国交省「建築工事監理指針」では、パネル単体の音響透過損失で36 dB以上(500 Hz)得られている移動間仕切を「遮音タイプ」と表記してよいことになっている。しかしこの値は、実際の室間の遮音性能として30 dBを下回る性能しか得られないと考えられる値であるため、「遮音タイプ」であることに安心してはいけない。室の用途に対して必要とする遮音性能が得られる製品であるか、カタログや技術資料で音響透過損失や遮音性能のデータを確認することが重要である。
音響透過損失としてA通常施工状態の値を確認出来る場合には、その値に前述の移動間仕切の面積、受音室の吸音の程度や側路伝搬等の影響を加味して、必要としている遮音性能が得られそうかどうかを判断する。確認出来る音響透過損失が(1)パネル単体(もしくは(3))の場合は、同仕様の移動間仕切の納入物件での遮音性能実測データを複数確認したい。メーカーに聞くと教えてもらえることも少なくないので、ぜひ問い合わせてみて欲しい。(箱崎文子記)
日本パーティション工業会: http://www.jmpa.info/