No.329

News 15-05(通巻329号)

News

2015年05月25日発行
「コモッセ」の外観

鹿角市 文化の杜交流館「コモッセ」

 4月16日、鹿角市に文化の杜交流館「コモッセ」が誕生した。鹿角市は秋田県の北東部に位置し、岩手県および青森県に接する県境の街である。東京からは、盛岡を経由して、東北自動車道の高速バスまたはJR花輪線で行くのが便利である。冬季は雪が豊富で、交流館の現場からも2方向にスキーゲレンデを望むことができる。

 交流館は、JR鹿角花輪駅に近い鹿角組合総合病院跡地に建設された。平成21年、中心市街地の整備の考え方をまとめた「鹿角市まちづくりビジョン」において、同地区には、図書館、文化創造、活動支援、および交流創出を基本的機能とする複合施設の整備が示された。その後、専門委員会による施設の基本計画と同計画を前提とした市民参加のワークショップのまとめをもとに公募型プロポーザルが実施され、株式会社 佐藤総合計画東北事務所が設計者に選定された。施工は鹿島建設株式会社である。交流館は、花輪図書館、文化ホール、花輪市民センター、子ども未来センター、交流広場から構成されている。弊社は、文化ホール、市民センターに属する講堂、および交流広場に属する練習室・多目的スタジオの建築音響および騒音制御について、設計から竣工時の音響確認まで一連の音響コンサルティングを行った。

「コモッセ」の外観
「コモッセ」の外観
施設平面図
施設平面図
施設平面図
施設平面図

 交流館の敷地はJR花輪線の東側に隣接し、建物は、周囲を駐車スペースに取り囲まれて敷地中央部に配置されている。館内で屋外の騒音・振動に対して最もデリケートな文化ホールはJR側に配置され、線路からの距離は線路側に面する舞台フライタワーまで約35mである。これまでの経験から、鉄道から50m以上離れたホールでは鉄道の固体音の影響をほとんど心配しなくて良いが、本ホールまでの35mは微妙な距離である。地下躯体打設後の列車振動測定結果と、線路と建物間に設置される側溝の振動低減効果を総合的に検討した結果、設計で計画していた弾性材による地中防振層の設置は中止とした。竣工時の確認では舞台袖において30dBAの列車騒音が観測されたが、音響反射板で囲まれた舞台内ではまったく感知できないレベルであった。

 音響反射板をセットしたコンサート形式の文化ホールの基本形状は直方体である。舞台空間と客席空間の接続部であるプロセニアム開口の高さを可能な限り高くとり、舞台天井と客席天井がなめらかに繋がる天井形状とした。側壁には音響庇を2段設け、また客席中間部には、その前部に遅れ時間のごく短い反射音の供給が期待できる舞台に対向する壁(テラス壁)を小規模ながら2段設けた。残響時間は2秒(空席時,500Hz)である。本記事執筆時点で実際のパフォーマンスを体験できていないが、上記の音響要素の効果の確認も含めて機会を持ちたいと思う。

文化ホール内観(ステージ側)
文化ホール内観(ステージ側)
文化ホール内観(客席側)
文化ホール内観(客席側)

 愛称「コモッセ」:積雪時にも通行できるように各家の軒先に設けられた庇の名称「こもせ」、集いの場としての新施設に期待を込めて”Common(英)”と”Messe(独)”を結びつけた造語(Comosse)である。文化ホール側壁の音響庇は、鹿角では”音響こもせ”であろうか。(小口恵司記)

山梨学院大学 国際リベラルアーツ学部(iCLA)新学部棟

 来春、創立70周年を迎える山梨学院大学に、国際リベラルアーツ学部が4月に新しく開設され、その学部棟の竣工式が3月26日に執り行われた。設計は、伊東豊雄建築設計事務所&清水建設、施工は清水建設である。永田音響設計は、伊東豊雄建築設計事務所からの依頼で、音響に係わる内容のアドバイスを行った。

 敷地は、JR中央線の酒折駅の南側に位置する山梨学院大学酒折キャンパスの東端に位置している。新しい建物は、教室などが含まれる校舎棟と学生寮が一体で計画されており、円形状の2層の建物を中心に、その両側に7階建ての建物が配された形となっている。実は、敷地上部にJRの高圧線が架かっており、それを避ける建物配置にしなければならなかったということで、最終形に至るまでには、様々な配置が検討されたとのことである。円形状の建物内には教室や先生方の研究室、食堂などが、また高層棟の1階、2階には自習室が配されており、3階以上は学生寮となっている。また、日本文化教室と呼ばれる板の間と畳の間が各1室ずつと、音楽室が円形建物と渡り廊下で結ばれた別棟に配されている。日本文化教室が作られた目的は、外国から来た学生に日本文化に接する機会を作るだけではなく、日本の学生が英語で日本文化を説明できるようにするためでもあるとのこと。高層棟の外壁は、鮮やかなオレンジとグリーンに彩られており、見ていると気分が高揚してくる。円形の建物内には、外周部に研究室が、中央部には平面が六角形の教室が数室まとめて配されている。各教室は中庭に面しており、室内にいてもふんだんに自然を感じられる。また、中庭側はガラスになっているので、お互いにのぞき見ることができ、思わぬところで交流が生まれる可能性が秘められている。もちろんガラス面にはカーテンが設置されており、必要に応じて閉じることも可能である。六角形の平面形状は、ディスカッション方式の授業形態が主であることから決められたということである。

外観
外観
屋上と日本文化教室
屋上と日本文化教室
中庭
中庭

 仕上げ材料は、コンクリートとガラスが主である。意匠性はもちろんだが施工性も考慮されて、これらの材料となったのだと思われるが、吸音という観点から見ると音響的には対応の難しい材料である。もちろん、教室や研究室、音楽室、日本文化教室などでは、使用目的を考慮して、天井や壁面には吸音処理が施されたが、ロビー空間などは意匠的に天井をコンクリート打ち放しにしたいということだった。そのようなこともあって、計画の比較的早い時期に相談を受け、内装材料などの検討を行った。しかし、具体的にどのような吸音材をどこに設置するかということに関しては、意匠に適いコストも見合うような材料がなかなか見つからず、施工の終盤まで検討が続けられた。結局、ロビー入り口に近い壁面や研究室の扉の上部など、吸音処理ができそうな面を見つけて対応した。聴感的には、少し残響が多いかな・・という感じはするものの、ロビー空間としては許容範囲に収まったのではないかと考えている。

 新しい国際リベラルアーツ学部の1学年の定員は80名で、すでに各国からの留学生も含めて数十名の入学者が決まっているということである。講師の多くは外国籍で、講義はほとんどが英語とのこと。先生と学生とのコミュニケーションが重視され、少人数での講義が行われる。もちろん全寮制である。教室という決められた空間以外にも、ちょっと勉強したり、数人で集まったりできる空間があちこちにある。もっと勉強しようという学生には、自習室を初めとして各種学習設備も充実している。遠くには富士山も望め、勉強に打ち込むには最適な環境である。この新しい学舎から世界に羽ばたく人材が数多く輩出されていくことだろう。(福地智子記)

食堂から中庭を望む
食堂から中庭を望む
2階教室
2階教室

武蔵野音楽大学 江古田新キャンパスの着工

 東京都練馬区にキャンパスを構える武蔵野音楽大学江古田キャンパスにおいて、このほど、新キャンパスプロジェクトの工事が着工された。新キャンパスプロジェクトは、1,085席のコンサートホールである「ベートーヴェンホール」のみを残し、それ以外の江古田キャンパスのすべての校舎を建て替えるというものである。新しい校舎には、420席の中規模コンサートホールである「ブラームスホール」、リサイタル・室内楽にふさわしい約100席のサロン風ホールである「新モーツァルトホール」、オーケストラ・コーラス・ウィンドアンサンブルの練習に適した3つのリハーサルホール、その他、レッスン室、練習室、図書館などが計画されている。唯一の既存ホールである「ベートーヴェンホール」は、その音響特性を変えることなく、耐震性の向上、バリアフリー化が図られながら、保存・改修される。また、サンクンガーデンと呼ばれるキャンパス中央部を地下に掘り下げた中庭広場の横には、ピアノ・ヴァイオリンの名器や木管楽器の体系的コレクションを誇る楽器博物館の再開場も予定されている。株式会社大林組による設計施工のもと、永田音響設計は、「ブラームスホール」、「新モーツァルトホール」を中心とした音響計画に基本設計段階から参画している。

 新キャンパスプロジェクトの工事は、旧校舎の解体工事が始まったところであり、約2年の施工期間を経て、2017年度より新校舎が使用される予定である。また、これまで江古田(東京)と入間(埼玉)の両キャンパスで行われてきた教育・研究活動の場が、江古田新キャンパスに統合されるなど、2019年度に創立90周年を迎える武蔵野音楽大学の新しい歴史がこの江古田新キャンパスで始まろうとしている。(酒巻文彰記)

オルガンコンサート最終回 「オルガン・エンターテインメント8」

 2004年1月に友人と始めたパイプオルガンコンサートも今回で15回目、そして今回が最終回である。コンサートホールに行けば舞台正面にデンと構えるパイプオルガンが目に飛び込む。しかし、その演奏を聴く機会はあまりなく、宝の持ち腐れ・・・。その状態を、何とか打破できないかという大きな野望をもって始めたコンサートであった。今までに、サックスや聖歌隊と共演したり、3人でオルガンを演奏したり、また、ミラーボールやカラフルな照明を使用したりと、堅苦しいオルガンコンサートのスタイルではなく、クラシックコンサートにあまり馴染みのない方々にも楽しんでいただけるような企画を心がけてきた。来て下さる方々も、わずかだが増えてきた。今回のコンサートのサブタイトルが「心躍る音の旅」ということで、世界各地を歌った音楽をお届けします。皆様のご来場をお待ちしております。(福地智子記)

演奏 : 山口 綾規
日時 : 8月21日(金) 19:15 開演 (18:30 開場)
場所 : 横浜みなとみらいホール 大ホール(チケットセンター:045-682-2000)
チケット(全席指定): 一般 2,500 円、学生・65歳以上 1,500 円