松山 台北文創ビル − コンサートホールとシネマが完成
台北市の中心部、超高層ビルの台北101や國父記念館に近い松山文創園区の一角に、新しく14階建てのビルが完成した。商業施設、オフィス、ホテル、コンサートホール、シネマなどが含まれる複合施設である。設計は伊東豊雄建築設計事務所で、永田音響設計はコンサートホール、シネマおよびイベントスペースの音響設計を行った。この文創園区の敷地は、日本統治時代に建設された煙草工場の跡地である。その頃は、工場群の建物だけではなく、工場で働く人たちの集合住宅や福利厚生施設なども完備されていたそうで、工場を初めとする当時の建物が現存している。現在は、旧工場だった建物が改装されて、様々なアートの展示会場やショップに生まれ変わっている。休日や興味深い展示会が行われている時には平日でも、多くの人たちでとても賑わっている。また、この地区には、多くの樹木が植えられていたり池も作られていたりと自然環境にも配慮されていたようである。池に面してカフェなどもあり、この恵まれた景観は、都会の中のオアシスとなっている。台北文創ビルはこの文創園区の北側に位置している。建物は東西に長い形状で、その東側上階にホテル、西側に商業施設やオフィスが配置され、地下階にコンサートホールやシネマが設けられている。地下階にはその他に飲食店等があり、ホールやシネマ周辺は、賑わいのある場所でもある。
コンサートホールは、室内楽やソロリサイタルを主目的に計画された客席数361席、傾斜が多少急なワンフロアー形式のホールである。天井高さは最も高い舞台上で約8m弱、平面形状は舞台側が広く客席後部ほど狭くなる舟形の形状で、舞台幅は約15mである。コンサートホールとしては天井高さがそれほど高くない。音響的には少しでも高くしたかったのだが、私たちがこの計画に参加した時にはプランが確定しており、変更が難しかった。さらに、コンサートホールの上は建物外部でイベントなども行えるような文化広場であり、下階は駐車場であるため、それらとの遮音確保の点からも防振遮音構造の採用は不可欠で、これも天井高さが低くなってしまう要因であった。それでも、天井裏の高さを極限まで低く抑えるように計画して可能な限り天井高さを高くするよう工夫した。その結果、天井裏のキャットウォークは、腰をかがめて進める高さとなっている。
コンサートホールとして天井高さが低いと、天井からの反射音が直接音到達後の早い時間に集中しがちで、聴感的に音の拡がりを感じられなくなる。それを少しでも改善したいと考え、側壁を上向き(舞台部分の側壁は上向きであるが、客席後部に向かって徐々に垂直に変化している)とし、さらに壁からの反射音を少しでも多く得られるように、庇状の出っ張りを側壁にデザインしてもらった。壁や天井の内装材料は総厚18 mmの繊維混入石膏板、床は開演後の途中入退場を考慮して、段床の踏面の一部をカーペット貼りとして、その他はフローリングである。なお、当初はクラシック専用ホールとしての計画で出発したが、設計段階途中でコンサート以外の運用も考慮して欲しいという運営者からの要望があったため、舞台側面には残響調整用のカーテンを設置している。竣工時の残響時間測定値(空席時,500 Hz)は、幕収納時1.3秒、幕設置時1.0秒である。客席椅子の幅は560 mmと、日本サイズに比べると多少大きめである。椅子の吸音試験を台湾で行い、そのデータを基にした満席時推定値(500 Hz)は幕収納時1.1秒、幕設置時0.9秒である。
アートシネマは、客席数186席、135席、94席の3室である。シネマ間および周辺との遮音性能確保のため、3室ともに防振遮音構造を採用した。内装仕上げについては、壁、天井:グラスウール+クロス、床:カーペットと、すべて吸音仕上げとした。
最上階の14階には、山形の屋根のついたイベントスペースが設けられている。その屋根が天井形状にもなっており、最も高い室中央部で天井高さは9.6mである。天井の高い空間に数多くのエキスパンドメタルで作られた円弧状の大小のパネルが高さを変えてつり下げられており、あたかも雲のようなものが浮いているように見える。また、壁の2辺はガラス張りで、台北市内を一望できる開放的な空間である。ここでは、音楽演奏付きパーティや各種イベントの開催が計画されていたため、階下の諸室に対して、床衝撃音防止と遮音性能確保を意図して、床は浮き床、壁には防振遮音構造を採用している。内装仕上げに関しては、残響が抑えられていた方が好ましい催し物が多く計画されていたため、天井全面グラスウール貼り、床カーペットとした。前述の天井に吊されたエキスパンドメタルのパネルも、天井面の吸音効果を低下させないように考慮してデザインされたものである。
工事は2011年7月に開始され、2013年9月に竣工した。工事途中段階には、防振遮音工事、設備工事、内装工事など、それぞれの工事途中段階に何度か現場を訪れ、工事状況の確認を行った。とくに慣れない防振遮音工事については、建築、設備の担当者と現場を確認しながら一つずつ施工方法を決めたりと多くの時間を費やした。設計事務所の方々が音響に係わる内容も含めて、常駐に近い状態で現場の確認をしてくださったおかげで、何とか所期の音響性能は確保できたと考えている。
残念ながら、コンサートホールではまだコンサートを聴いていない。しかし、設計事務所の方から、ホールを見学にいらした方がすぐにコンサート開催の予約をされた、という嬉しい話も聞いている。立地もとても良い場所なので、多くの方々に利用してもらえると嬉しい。なお、コンサートホールとシネマの運営は、台湾で大型書店を展開している誠品が行っており、コンサートホールはパフォーマンスホール、シネマはアートハウスと命名されている。(福地智子記)
- 台北文創ホームページ: http://www.taipeinewhorizon.com.tw/TNH
辻堂に湘南キリスト教会の新会堂完成
今年の6月、鵠沼海岸から徒歩10分ほどの住宅地に湘南キリスト教会の新しい会堂が完成した。築50年の古い木造の会堂が手狭になり、またその老朽化も伴って移転されたものである。建築設計は保坂猛建築都市設計事務所、構造設計はArup、施工は栄港建設である。保坂氏は2012年度のJIA新人賞を受賞されるなど、活躍されている若手建築家のおひとりで、弊社はArupの方のご紹介により、今回初めてご一緒させて頂いた。
建築の概要
120坪ほどの敷地に建てられた平屋の新会堂は、鉄筋コンクリート打放しの外観で、6枚の曲面で構成された屋根、その各曲面の段差部にはめ込まれた横長の窓がとても印象的な建物である。長方形平面の中央に設けられた入口を入るとロビーがあり、それを挟んで建物の半分に約80名収容の礼拝堂、反対側に集会室や子供室が配置されている。各室間は大型の木製建具で仕切られており、これらの建具を開けることで建物全体を一体の空間として使用出来るよう計画されている。建物内には屋根の窓から自然光が降り注ぎ、また、室内からはこの窓を通して見える空や近隣の緑が目を楽しませてくれる。コンクリートの建物の中に居ながら、内と外との境界が薄れて自然に囲まれているような感覚になる、気持ちのよい空間である。
礼拝堂の音響
礼拝堂の音響設計を行うにあたっては、ご高齢の信者の方も多いことから、お説教の聞き取りやすさを重視して、響きがある程度抑えられた空間になるよう配慮した。礼拝堂はコンクリートの曲面で構成された屋根がそのまま室内に現れた意匠で、それは音響的にも室内にまんべんなく反射音を与える好ましい形状であったが、一方で、響きを抑えるための吸音面をどのように設けるかが課題となった。後壁は大部分が大型の建具で構成されているために吸音を組み込むことが難しく、併せて、平行な側壁面がコンクリートの平滑な面で計画されていたため、フラッターエコーの低減も課題であった。意匠・音響の両面から検討を重ね、最終的には側壁のコンクリートを表面がランダムなリブ形状となるように打設し、リブ間に吸音材をはめ込む仕様とした。
コンサートと感謝会
7月初め、礼拝堂でハンドベルコンサートが開催された。120名ほどの方が聴きに来られての大盛況である。側壁リブの散乱効果のためか、殆どがコンクリートで囲われた室とは思えないようにハンドベルの音が柔らかく響き、また、曲の紹介をされた古屋牧師の話し声も明瞭で聴きやすく、ひと安心であった。7月末には建築関係者への感謝会が開かれ、教会の皆さんの手料理でおもてなし頂いた。施工の方からは曲面屋根に苦労したことなど、設計事務所の方からは組み上がった鉄筋が隠したくないくらいきれいであったことなど様々なエピソードが披露され、工事の労をねぎらう場となった。最後は棟梁による博多祝い唄で締めくくられ、清々しさを感じる会であった。
(箱崎文子記)
7月の劇場関係のイベントから
我々は、実際の業務以外に建築や舞台芸術に関する学会、協会、業界団体などの活動に参加することも重要だと考えている。ここでは、筆者が7月に出席した(公社)日本建築家協会(JIA)建築家クラブ運営WG主催の「金曜の会 トークイベント」と(公社)劇場演出空間技術協会(JATET)主催のセミナーを紹介する。
建築家クラブ金曜の会 トークイベント:「劇場は進化するのか?」
日本建築家協会の有志によって、毎月、建築家会館(JIA館)の1階にある建築家クラブという多目的スペースで、建築に関係する様々な専門家のお話を伺う会が催されている。ワインと軽食も用意されており、椅子席だけでなくゆったりとしたソファーに座って聴くこともできる。建築の素晴らしさを知ってほしいと主催者を代表して稲垣雅子氏が会の趣旨を説明された。つい堅苦しくなりがちなスピーチでもセミナーでもなく、和やかな雰囲気の中でつい本音が出るトークイベントという趣向である。
7月25日の会には、約30名が参加された。ゲストは以前に紹介させていただいた日本大学教授の本杉省三氏(本ニュース257号2009年5月)で、「劇場は進化するのか?」と題されたお話であった。氏は、冒頭から「皆さんは、きれいなトマトと美味しいトマトのどちらを選んでいますか?」と劇場(建築)計画の本質に迫る問いを発せられたので、その場に集う建築関係者一同、身を乗り出し、引き込まれる様子が伝わってきた。その観点から、劇場建築は進化しているのか、それとも退化しているのか…を考えていると続けられた。お話は2時間弱の短い時間であったが、国内外、新旧の催物とそれらが上演される場所や空間の歴史的な変化を具体的に紹介された。明治以後の劇場・ホールは、押し並べて西洋風のプロセニアム劇場が主流になっているが、それは本当に美味しいトマトなのだろうか?つまり舞台芸術の原点に戻ることも大事ですよと本杉先生はおっしゃりたかったのではないだろうか。
劇場演出空間技術協会 JATET FORUM 2014 Vol.2
本ニュース317号(2014年5月)で紹介した劇場等演出空間電気設備指針2014(最新版)の解説講習会が(公社)劇場演出空間技術協会(JATET)の主催で、東京(7月22日)と大阪(7月28日)で開催された。受講者は舞台設備に関係する設計者、メーカ、施工者、管理運営者などで東京は140余名、大阪は40余名の方々が参加した。筆者は、JATETの音響部会を代表して第4章の舞台音響設備の改訂内容を説明した。舞台音響設備の内容は信号の伝送方式がアナログからデジタルへ、さらにオーディオネットワークを利用する方式へと変わり続けている。また、ラインアレイ型スピーカが普及するなど、この15年間の機器やシステムの変化が大きかったため、約40頁のすべてを書き直している。さらに、舞台連絡設備や映像設備の設計・施工基準も追加したため、若干の変更と追記となっている舞台照明設備や舞台機構設備、電源設備などよりも説明に時間を要した。今回の受講者はJATET会員が中心であったが、今後も毎年、解説講習会は開催される予定である。今後、この指針が劇場・ホール関係者の間で広く利用されるようになれば幸いである。(稲生 眞記)
- (公社)日本建築家協会: http://www.jia.or.jp/
- (公社)劇場演出空間技術協会: http://www.jatet.or.jp/