No.318

News 14-06(通巻318号)

News

2014年06月25日発行
外観

西南学院バプテスト教会 ― 新会堂に年内、オルガン設置の予定

福岡市の西南学院バプテスト教会の旧会堂が改築され、昨年9月、新会堂の献堂式が執り行われた。そして、今年の末には、新しいパイプオルガンが設置される予定である。

西南バプテスト教会は、1922年、西南学院大学創立者のC.K.ドージャー宣教師によって始められたキリスト教プロテスタントのバプテスト派に属する教会である。本ニュース2010年3月号で紹介した西南学院の新しいチャペルの向かい側に建てられている。旧会堂は1955年に建設され、その後長い年月、教会の方々に愛されて使われてきたが、老朽化や耐震性の点から改築された。設計は旧会堂の設計にも携わった一粒社ヴォーリズ建築事務所、施工は九州建設である。献堂式から1年あまりとなる今年の末には、田尻隆二氏(高山オルガン製作所)製作による10ストップ程度のパイプオルガンの設置が予定されている。因みに、旧会堂のオルガンは1914年に製作され、アメリカのバージニア州の教会で使用されていたのを譲り受けたもので、九州最古のオルガンだった。

外観
外観

新会堂は、教会からの要望で、平面形状、断面形状ともに、ほとんど変わらない形状で計画されたが、旧会堂よりも一回り程度大きくなっている。基本形状は、幅:約14 m、奥行き:約20 m、高さ:約9 mの矩形で、後部にパイプオルガン用のギャラリーが設けられている。オルガンはこのギャラリーの中央部への設置が計画されており、オルガンの両側は合唱席となっている。天井は旧会堂と同じような山形の形状を基本とし、音響を考慮してさらに折れ形状が付加されている。1階には4~5人掛けの長いすが50脚あまり設置されており、座席数は全体で246席である。講壇の背後には、バプテスト教会特有の沈礼用のバプテストリーが設けられている。

新会堂の響きに関しては、牧師様のお話がはっきり聞き取れることが第一で、さらにパイプオルガンの響きも十分考慮して欲しいと希望された。講壇周りおよび礼拝堂の下部はコンクリートへの吹き付け仕上げであるが、これらの箇所が平行面となることから、フラッターエコーを低減するために、できるだけ粒の大きい吹き付け仕上げとしてもらった。また、礼拝堂上部は細かなリブ形状、後部はグラスウール+リブによる吸音仕上げとした。残響時間は、空席時約1.3秒/500 Hz(室容積/約2,000 m³)である。残念ながら、まだ礼拝に出席していないために私自身では確認していないのだが、牧師先生からは説教がしやすく、聖歌隊の響きも良いというお褒めの言葉をいただいている。パイプオルガン設置後には、是非訪れてみたいと考えている。(福地智子記)

講壇
講壇
礼拝堂後部(オルガンギャラリー) 撮影 写真家 伊藤 浩
礼拝堂後部(オルガンギャラリー)
撮影 写真家 伊藤 浩

千葉大学亥鼻(いのはな)キャンパス記念講堂の改修

千葉大学は西千葉を初めとして千葉県内に4つのキャンパスがある。そのうち亥鼻キャンパスはJR千葉駅からバスで約10分、千葉城跡の亥鼻公園や千葉県文化会館にほど近いところにあり、医療系の学部が集まったキャンパスである。この亥鼻キャンパスに1964年に竣工した記念講堂は、建築家の槇 文彦氏がアメリカから帰国されて日本で2番目に設計された建物である。槇氏の日本で最初の作品である名古屋大学豊田講堂の改修については、本ニュース2008年4月号でご紹介したが、本号では築50年を経て行われた亥鼻キャンパス記念講堂の改修についてご紹介したい。

外観
外観

建築の概要

 この講堂はコンクリート打放しの構造体に銅板葺きの屋根がかけられた力強い外観で、亥鼻の森に建つお社のイメージで設計されたという。竣工当時は講堂の正面バルコニーとホワイエとの間に壁を設けず、講堂内とホワイエが一体となるようなオープンな空間として設計されており、客席天井もモダンなデザインであった。20年程前の改修により、バルコニーとホワイエ間の隔壁の新設、客席天井の改修等が行われている。また、講堂の両脇には会議室が4室配置されており、講堂とはガラスの壁で仕切られていた。

この建物の大きな特色として、各所に配置された彫刻家(ながれ)政之氏による作品があげられる。流氏といえば、東京文化会館小ホール壁面のレリーフなどの作品でも知られているが、この講堂にも「三恋シリーズ」と名付けられたレリーフが舞台正面壁や前庭などに配置されている。ご興味のある方は栗生(くりゅう) 明 千葉大学名誉教授による「千葉大学記念講堂の価値を語る」という記事に竣工当時の写真が紹介されているので、ご覧いただければと思う。

講堂(改修前)
講堂(改修前)

改修の計画

 今回の改修はⅠ期、Ⅱ期の2回に分けて行う計画であり、そのうちⅠ期工事が昨年秋から約半年間かけて実施された。改修工事の全容は耐震補強、アスベスト除去、屋根防水補修、コンクリート打放し部補修、各設備改修に加え、講堂としての機能向上、会議室の改修などである。ここで、講堂としての機能向上のための音響改修の内容は、講演会・会議等の催し物に対してより適した、響きを抑えた空間を実現するための内装仕上げの採用、客席椅子の取替えや拡声設備の一新、および屋外騒音の遮断や隣接会議室間との遮音性能の向上のための各遮音壁の新設、ホワイエ間の遮音壁改修と客席入口扉の2重化などである。Ⅰ期の改修では、これらの内バルコニー周辺以外の工事を対象とした。

この春、Ⅰ期の改修工事を終えた講堂は新たに命を吹き込またように清々しい姿を現した。改修前、舞台正面壁は前に舞台幕が吊るされて壁との間が物置スペースとして使われていたため、流氏のレリーフが見えない状況であったが、改修後はその存在感のある姿を見せている。ぜひ、近い将来に引き続きⅡ期工事が行われ、積極的に活用されていくことを望んでいる。(箱崎文子記)

講堂(改修後)
講堂(改修後)
舞台正面壁の流氏のレリーフ(改修後)
舞台正面壁の流氏のレリーフ(改修後)

狂言風オペラ2014「ドン・ジョヴァンニ」

能、狂言、歌舞伎、文楽などの我が国の伝統芸能はその歴史も古く、室町時代から江戸時代にはじまる。東洋と西洋の地でそれぞれ育った歌舞伎とオペラ、ほぼ同時期の約400年前に誕生したといわれているが、歌舞伎にも影響を与えたとする能、狂言といった能楽は、さらに約200年前の室町時代に完成されている。これらの伝統芸能は舞、謡、囃子等からなる歌舞劇であり、ほぼ完成の域にあるものから時代とともになお進化しているものまである。また、これらの伝統芸能と西洋音楽のコラボレーションもいくつかみられる。

ここに紹介する「狂言風オペラ」はオペラを我が国の伝統芸能である狂言で表現するという趣向の舞台芸術である。モーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」「フィガロの結婚」「魔笛」と、2002年にはじまったこの狂言風オペラ、初演の「ドン・ジョヴァンニ」をリニューアルした今年は、4月25日より5月1日にかけて大阪、京都、名古屋、東京に加え、仙台、遠野でも初めて公演された。ロレンツォ・ダ・ポンテの台本をドイツ文学研究家の小宮正安氏が狂言風オペラ用に脚本し、演出・構成を大蔵流狂言師の茂山あきら氏、音楽監修を声楽家の木村俊光氏が務めている。会場は主にコンサートホールで、演奏は管楽八重奏団のドイツ・カンマーフィルハーモニー・ブレーメン管楽ゾリステンに、鼓の中村寿慶(じゅけい)氏が、狂言は大蔵流の茂山氏とその一門に、和泉流の野村又三郎氏が加わってのご出演である。

ここは17世紀のセビリアではなく、京の都という舞台設定は、ドン・ジョヴァンニに見立てた若侍の主人、その従者レポレッロが太郎冠者、ドン・ジョヴァンニのかつての婚約者ドンナ・エルヴィラが単に女という設定で、名古屋ご出身の野村氏の役所からか、農夫とその妻が、名古屋の花婿、花嫁、そして騎士長が亡霊というような役柄に仕立てられている。冥界から京の都に亡霊がやって来るところからはじまるが、好色男の若侍が自らの欲望に駆られるままに誘惑に弱い花嫁までも口説いていく、そしてその報いがという展開に、軽快な序曲、アリアを弦楽八重奏版の演奏と鼓が支える。

よく知られたオペラだけにそのあらすじはあらかた追え、狂言の合間のアリアの演奏、狂言のコミカルな所作、舞台から客席までも動き回る演出、(きわ)どい台詞に加え、名古屋弁までもが繰り出されたり、また、ときには管楽ゾリステンの面々が芝居にも加わったりと、笑いを誘い、十分に楽しませてくれた。オペラ、能といえば、悲劇性の高いものが多いかと思うが、悲喜劇性のあるといわれるこのモーツァルトのオペラが狂言独特の「笑い」を通して、喜劇的色彩を滲ませている。また、能楽堂とは違った演出空間に、京の都を思わせる鼓の美しい響きとともにまた違った面白さと世界が生まれていたように感じた。

2011年には日独友好150周年の記念事業として「魔笛」のドイツ公演も行われている。古い伝統ある東西の芸術、その普及と掘り起こしをはかり、同時に海外では日本の表現力をPRすることを意図したという企画が、こうして少しずつではあるが、浸透していっているようである。これらのコラボレーションが新たな興味をそそり、新旧の芸術に触れ合う機会が生まれ、楽しく、わくわくするような感動が育めばと願う。(池田 覚記)

オルガンコンサート「オルガンエンターテインメント7」ご案内

2004年から年にほぼ1回開催しているパイプオルガンコンサートのご案内です。昨年に引き続き、横浜みなとみらいホールで下記のとおり開催いたします。

オルガニストの山口綾規(りょうき)氏の弁によれば、今年は「光と影」を感じさせるような作品を取り上げたいと、意欲を燃やしています。色彩豊かなオルガンの音色とともに照明なども駆使し、聴感だけではなく視覚的にも様々なコントラストを表現したいということです。それに呼応するように、ハラダチエさんのイラストも、今までとはひと味違って、赤と黒の強いコントラストを基調としたデザインになっています。もちろん、山口さんの手や足の動きはスクリーン上で客席からご覧になることができます。

予定している曲目は、バッハの「パッサカリアとフーガハ短調」の他に、バーンスタイン作曲の「ウエスト・サイド・ストーリーより」などです。(福地智子記)

演奏 : 山口 綾規
  日時 : 8 月27日(水) 19:15 開演 (18:30 開場)
  場所 : 横浜みなとみらいホール 大ホール
  チケット(全席指定): 一般 2,500 円、学生・65歳以上 1,500 円
  チケットセンター:045-682-2000