No.284

News 11-08(通巻284号)

News

2011年08月25日発行
こくふ交流センター

こくふ交流センター「さくらホール」のオープン!

 2011年7月1日、岐阜県高山市の飛騨国府駅前に、こくふ交流センター「さくらホール」がオープンした。施設には、ホールにくわえ、市役所支所、図書館、公民館が併設されている。

 ホールはワンスロープ形式、客席数約600席。音楽を主体としたホールである。ただし舞台側壁を90度回転し、袖幕の代わりとして使い、講演会や式典などに対応できるようにしている。音楽を主目的としたのは、すでにある同規模の高山市民会館小ホールと棲み分けを考えて、さくらホールは固定段床の音楽を主体としたホールとして特徴を持たせたい、という高山市の希望であった。

こくふ交流センター
こくふ交流センター

 設計はアブデザイン、施工は飛騨建設、どちらも地元高山の会社である。アブデザインは、今回初めてホールを設計するということで、約3年前の2008年に弊社へコンサルティングの協力依頼があった。

 室内音響における初期反射音の効果と、それを掌るホールの形状・寸法の重要性、また建築だけでなく空調設備騒音の低減や、換気口を設ける場所など、基本的な内容をまず話すことからコンサルティングを始めた。その後、ホール形状についてまずは2次元で、次に3次元のコンピュータ・シミュレーションを用いた検討にもとづいて、天井や壁の寸法・角度などのアドバイスをした。アブデザインのブログに”ただ指定された形状そのままではとてもデザイン的には容認できないので結構なやりとりがあったんですよ。ホール背面の格子形状などもその賜です。”とある。”結構なやりとり”も、思い起こせば懐かしい。ホールは小さいながらも、室容積約5,800m3、天井高は最高部で約12mあり、ゆとりある響きを創り出している。

 ところで、このホールの特徴の一つとして、地元飛騨木工連合会と椅子メーカーのコトブキが協働した客席椅子がある。さすがは木工の盛んな地方である。背板の上部や、肘が無垢の木で出来ている。肘などは何とも言えない曲面で仕上げられており、無垢材はやはり質感が違う。

 7月9日、荘村清志(ギター)と錦織健(テノール)のデュオコンサートでホールのこけら落としが行われた。開場前からたくさんの人が並んで待っておられ、ホールはほぼ満席の大盛況だった。二人が現れたと同時に大きな拍手、そのしっかりとして心地良い音に、まずは安心した。ギターとテノールのアンサンブルも美しく、お二人のトークも冴え、客席から笑いが起こる楽しいコンサートであった。アブデザインの担当者、栗本さんからも「大きな音は当然よく聞こえるのですが、ごく小さな音までが後列席に座っていても、よく響き聞こえたのには少し鳥肌が立ちました。」とのメールをいただいた。設計者にホールの響きで感激を味わっていただけたのは、とてもうれしい。

さくらホール(舞台)
さくらホール(舞台)
さくらホール(側壁)
さくらホール(側壁)
さくらホール(客席)
さくらホール(客席)

 今後さくらホールで、プロによるクラシックのコンサートが頻繁に行われるとは思っていないが、地元の身近なホールとしてピアノ発表会や学校の合唱大会など、とにかくたくさんの公演が行われることを願っている。(石渡智秋記)

スカイホール豊田 −豊田市に新しいスポーツ交流拠点が完成−

 豊田市のスポーツ・レクリエーションの中核施設である「スカイホール豊田(豊田市総合体育館)」が2010年10月に完成した。トヨタ自動車(株)の本社がある豊田市にはコンサートホール・能楽堂や市民文化会館、美術館などの文化施設だけでなく、サッカースタジアムや体育館、プールなどのスポーツ施設も充実している。メインホール(左手)は2004年に着工され、2007年春に竣工し、直ちに供用を開始した。その後、旧体育館を解体撤去した跡地に武道館・サブホール(右手)を建設し、周辺の駐車場等を整備して2010年秋にすべてが完成した。本施設の設計・監理は(株)松田平田設計で、弊社は6年間にわたり、音響設計・監理から音響検査測定までを実施した。

スカイホール豊田
スカイホール豊田

 メインホールは、バスケットコート4面のメインアリーナを中心に各種トレーニングルーム、会議室などを備える。国際大会に対応できるアリーナの競技エリアは45m×80mで四周を3,470席の観覧席が囲んでいる。備品の移動観覧席を展開すると最大収容人数6,500名となる。天井は、ゆるやかなドーム形状で有効最大高さは24mである。大空間では、壁や天井から時間遅れの大きなエコーが生じて、競技中の声かけやスピーカの拡声音が聞き取りにくくなる。ここでは、さらにドーム天井と平らな床の間で音が集中的に反復することが予想されたため、天井は全面グラスウール仕上げ、壁は下部を木リブ仕上げ、上部を有孔合板とし、その背後にグラスウールを配し吸音面積をできる限り多くとった。その結果、エコーはほど良く抑えられ、空席時の500Hzにおける残響時間は2.8秒、平均吸音率は0.28と大型体育館として適度な響きとなっている。

 電気音響設備は、明瞭さを確保するため天井中央部にスピーカを集中してメインクラスターとし、さらにアリーナを取り囲む位置に下向きに分散スピーカを設置した。共にメインホールの全域をカバーする台数が確保できたので、各スピーカの出力バランスや時間遅れの設定などの調整を適切に実施することができた。スピーカは、明瞭さを得ることを最大の目標として、低音から高音域までクリアさが維持できる大型の3 Way同軸型スピーカ(EAW社 AXシリーズ)とした。

メインホール
メインホール

 サブホールは、子供たちや市民グループの日常的な利用が中心でバスケットコートが2面とれ、三方を観覧席が囲む。武道館は、サブホールの真下の1階に配置され、剣道、柔道、各種格闘技などの同時使用を考慮して3室に分割利用できるものとなっている。

 サブホールの室内は、トップライトと半透明のフッ素樹脂パネルの壁、多くのガラス窓により外光が入る明るい雰囲気が気持ち良い。ここも天井は全面、グラスウール仕上げ、壁は有孔合板とグラスウールの組み合わせで吸音処理を行った。その結果、500Hzにおける残響時間は2.2秒、平均吸音率は0.27と抑制された響きとなっている。拡声用のスピーカは、ラインアレイ型2基と簡素であるが、拡声音は隅々まで明瞭に聞こえた。

 また、サブホールでは大人数によるバスケットのドリブルランのような、床に衝撃を伴うかなり大きな騒音の発生が予想された。そのため、騒音が階下の武道場で邪魔にならないように床衝撃音低減対策を施した。まず、床全体を防振ゴムを介した束で支持し、さらに金属下地間にも薄いゴムを挿入、床下には吸音用のグラスウールを敷き詰めた。完成時に大人5、6人で跳びはねたり走ったりして試し、静かな武道場でまったくといってよいほど聞こえないことを確認した。施設全体としても、特に音響的な問題はないとのことでホッとしている。(稲生 眞記)

サブホール
サブホール
防振床の構造
防振床の構造

 本施設の問い合わせは、管理・運営を担当する財団法人豊田市体育協会まで。
スカイホール豊田:http://www.toyota-taikyo.or.jp/skyhall/hall.html

東日本大震災と劇場 …第18回愛知県舞台技術者セミナーに参加して

 甚大な震災からちょうど4ヶ月をすぎた7月12日、13日に愛知県芸術劇場小ホールにおいて、劇場・ホールなどの被害状況の調査報告を中心とするセミナーが開催された。

 最初に、文化庁文化活動振興室長の門岡裕一氏から文化財や文化会館等の被害状況と国の対応について報告があった。被災地に芸術家を派遣し、その経費を補助する事業制度も8月から開始するとのことである。また、2月に閣議決定された第3次の「文化芸術の振興に関する基本的な方針」を推進するため、劇場・音楽堂等の制度的な在り方や文化芸術活動への助成方法を検討する研究会が設置されることも報告された。漠然と劇場法と呼ばれる制度が、手探りながらも具体化のスタートを切った感がある。基本方針や検討会の内容とスケジュールは文化庁のホームページに掲載されているので、ぜひご覧いただきたい。

田中伊都名氏による欧州の災害対策例の紹介
田中伊都名氏による欧州の災害対策例の紹介

 次に在英の劇場コンサルタント、田中伊都名(いづな)さんが「英国・欧州における危機管理と安全確保」について報告された。英国の劇場では火災、テロ、洪水がリスクとして想定されている。さらに、最近ではPCデータ等の消失も加えられたとのこと。災害においては人命、施設、公演が損失を被るものとなる。これに対して、劇場側は写真に示すような対策を実施している。このほか、英国の健康安全法令(HASAWA)や興行場の技術標準書(イエローブック)、運用規則(グリーンブック)などの紹介もあった。これらの規則集は、わが国でも劇場法の進展に併せて整備を進める必要があろう。

 続いてホールの建築、機構、照明、音響、運営など各部門の被災状況や震災後の対応についてJATETメンバーらによる報告があった。東日本地域で被害を受けた館の割合は、舞台機構設備では約20%、舞台照明・音響設備では10%前後で、その程度も数日で復旧できるものがほとんどであった。しかし、建築的に客席の天井仕上げボード等が落下する例が多かったことに会場の一同が愕然とし、驚いた。これには、抜本的な対策が望まれる。

 運営に関しては、News 09-04号で紹介した大船渡市リアスホールの指定管理者が震災後の館の状況を詳細に伝えた。避難所でもないのに、地震直後に450名の被災者が集まり、7月初めでも100余名が残っている。職員は閉館もできず、食料や水、トイレの確保、館内警備に加え、慰問コンサートなどのイベントを50件以上こなしてきたそうである。

 この施設は、建築家と市民がワークショップを開きながら造られた経緯がある。それが、この館が予想もできない社会的な機能を発揮した要因の一つと考えられる。想像を絶する数々の問題に直面し、それを一つひとつ打開してゆく現場の管理・運営者の方々の努力、それが東日本地域再生の源であると実感できる報告であった。(稲生 眞記)