大阪新歌舞伎座 大阪上本町YUFURAに新開場!
記録的な暑さを記録したこの夏。それにも増して熱い劇場が戻ってきた。大阪難波のシンボルにもなっていた村野藤吾氏設計の”新歌舞伎座”は、桃山外観を持つ劇場として昭和33年の開場以来、永らく親しまれてきた。
舞台設備の老朽化などもその一因として考えられるが、開業50周年を迎え新たなる飛躍を目指して移転が決定、昨年6月の公演を最後に、準備のためにしばらく休場していた。そしてこの8月、大阪上本町、複合ビル”上本町YUFURA”内に所を移し新開場した。
9月3日からの柿葺落興行「ニ十一世紀歌舞伎組」による歌舞伎公演では、三番叟や連獅子などのおめでたい演目が並ぶとともに、大阪新歌舞伎座にゆかりの深い澤瀉屋(おもだかや)の面々から、大阪新歌舞伎座の歴史を感じる昔のエピソードやお祝いの口上が述べられた。観客席からも、東京銀座木挽町の歌舞伎座とはまたひと味違う、温かく気取らないかけ声が掛かった。
施設概要
大阪新歌舞伎座を核施設とする上本町YUFURAは、今年創業100周年を迎えた近畿日本鉄道株式会社が、その創業の地である大阪天王寺区上本町の近鉄上本町駅に隣接した元近鉄劇場の跡地に計画した複合商業施設である。建物は7階から上部で高さの異なる2棟に分かれており、どちらも5階までは商業飲食施設である(一部4,5階にも大阪新歌舞伎座の付属室がある)。6階が劇場のメインエントランス、低層棟の方の6階から上部に新歌舞伎座が位置する。13階建ての高層棟は7階から上がオフィスになっている。
劇場は3層構造で、客席数1,453席。難波の旧新歌舞伎座より若干席数を減らしたものの、座席のサイズは大きくなり、2階バルコニー正面にはゆったりした特別席もある。客席の奥行きは約20m、演者を間近に感じられる距離である。舞台機構も一新、旧劇場のスライディングステージは廻り盆に変わった。また花道は様々な舞台に対応出来るよう取り外しが可能である。
設計は日本設計関西支社、施工は大林組。永田音響設計は設計から竣工までの劇場の音響コンサルタント業務を行った。
劇場の音響設計
内装計画:大阪新歌舞伎座での公演は、新開場記念の柿葺落興行のラインナップにも見られるように、俳優や歌手をメインに据えた座長公演や商業演劇などが主となる。電気音響設備の使用が前提となるため、劇場の内装は響きが多すぎない空間とすることを意識しながらも、舞台と客席が近い良さを音響的にも感じられるように、明瞭度、音量感を損なわないことを目標とした。
天井・壁からの50ms以内に届く初期反射音が、客席で豊富に得られるよう、室形状について天井高や角度等の検討結果を意匠設計に取り入れてもらった。写真でわかりづらいかもしれないが、天井はシーリングスポットなどの機能を納めながら、後下がりの”のこぎり型”の様な形状とした。また、できるだけ吸音で対処することなく、エコーなどの音響障害が生じないよう、拡散を意図し壁にも凹凸を和風の屏風のデザインとして導入している。簡素な塗り仕上げであるが、つや消しの黒い天井と渋い金色に塗られた壁は劇場のシックで華のある雰囲気を醸し出している。
遮音計画:複合施設内に計画された劇場のため、周辺各室との遮音も大きな課題であった。遮音壁の納まりの複雑さや施工精度を考え、当初RC造を要望したが、工期等から鉄骨造の採用が決まり、遮音的には不利な状況であった。その中で、運営者や隣接スペースの商業施設としての運用が明確であるなどの前提条件が決まっていること、旧新歌舞伎座での公演の発生音量の調査などが可能であったことから、コストやスペースなども含めて検討し、遮音構造の設定を行った。劇場の下層部分となる客席主階、舞台、奈落階は浮床を設置し、乾式遮音壁は浮床から支持するなどの遮音対策を行った。また劇場部分の鋼管柱については中空ではなく、2次固体音の放射・伝搬を低減するためコンクリートを充填した。舞台設備の”迫り”や、よく舞台転換や演出に使われる”廻り舞台”等も騒音、固体音が問題になりやすい。廻り舞台は円形レールの上を電車と同じような鉄輪で何トンもの機械を載せて走る。マシンピットの直下は頭上を電車が走っているようなものである。そのため設計時に、同様な廻り盆が設置されている劇場で騒音・振動の調査を行い、商業施設の運用に支障がない程度を目標に、躯体スラブ厚を一般部より増すとともに防振ゴムによる浮床をマシンピット床に設置した。その結果、直下階で廻り盆作動時の騒音はほとんど気づかない程度まで軽減できた。
すでに10月に入って二ヶ月目のGACKTによる話題の舞台も終わり、11月は北島三郎の座長公演である。クラシックのコンサートとは違う、劇場で笑ったり泣いたり、熱くなるのはいかがだろうか。(石渡 智秋記)
大阪新歌舞伎座http://www.shinkabukiza.co.jp/
上本町YUFURAhttp://www.yufura.jp/
舞台音響反射板について〜その4〜
前回 (NEWS267号)までに、多目的ホールの舞台音響反射板について反射板収納方式の種類と実例を中心として紹介してきた。今回は反射板の形状や仕上げ重量といった音響的に重要な要素についてまとめてみた。
音響的に重要な要素
多目的ホールにおいてクラシックコンサートを行う場合、フライタワーや袖舞台などの大空間と舞台演奏空間を仕切って舞台・客席に演奏音を反射させるための反射面が必要となる。この役割を担うのが可動式の舞台音響反射板であるが、ただ舞台上に反射面を設置すれば良いわけではない。例えば、反射板の傾きによって反射音が届くエリアが異なるし、反射板の高さによって直接音に対する反射音の遅れ時間も変わる。また、反射板の表面仕上げや重量によって反射音の強さや響きの長さも変わるため、特に音楽の催し物を重視する多目的ホールでは、客席の天井や壁と同様、舞台音響反射板の形状と仕上げ重量が重要になる。
舞台音響反射板の形状
反射板形状について、以前は2次元の反射音線図によって1次反射音を舞台や客席に均等に到達させるような形状検討が行われていた。しかし最近ではコンピュータシミュレーションを用いて、1次反射音だけでなく2次、3次反射音の3次元的な分布、それらの直接音に対する遅れ時間に着目した形状検討を行っている。例えば、今秋にオープンする渋谷区文化総合センター大和田のさくらホールでは、客席天井と天井反射板からの1次反射音が連続して舞台・客席に一様に分布し、さらに天井反射板と正面・側面反射板による2次反射音も効果的に到達するような緩やかな角度にしている。初期反射音が少なくなりがちな舞台や客席前方に対しては、庇状の反射面を設置することで直接音に対する遅れ時間が早い2次反射音が得られるようにしている。また、演奏者に近い反射板の下側には、鋭い反射音を避けるための拡散形状を採用している。
このように反射板の形状は響きの質を決定付ける反射音分布に大きな影響を与えるが、それと同じように、反射板の間に生じる隙間もその影響を無視できない。反射板の隙間とは、天井・正面・側面反射板、プロセニアム開口、それぞれの間に生じるもので、反射板設置・収納操作時に干渉、衝突しないためのクリアランスとして必要なものである。また、ホールによってはプロセニアムと天井反射板の間に設けたいという緞帳用開口から、天井反射板間の舞台照明バトン用の開口、出演者の出入口用の開口まで、大きいものでは2m程度の幅になる隙間もある(写真2)。
その結果、舞台上の演奏音が隙間から舞台袖へ抜けて反射音が減少したり、反射板を設置・収納することによるホール用途に応じた響きの可変幅が小さくなったりする。最近のホール(写真3)では、反射板に舞台照明や出入口扉等の諸設備を組み込み、反射板の分割数を減らしたり、走行式や折り畳み式にすることで反射板同士の隙間を小さくする工夫がされている。その結果、反射板の隙間は、反射板操作時に最低限必要なクリアランスである約100o程度まで抑えられている。それらの隙間の減少の影響だけではないが、反射板の設置・収納による残響時間の可変幅は0.2〜0.3秒程度から0.4〜0.5秒程度まで大きくなっている。
舞台音響反射板の仕上げ構造
つぎに反射板の仕上げに関しては、反射材料としてはたらく仕上げ構造の重さが重要である。仕上げのボードが薄く、面密度(kg/u)が小さい場合、ボードが板振動して低音域の音を吸音してしまう。特に舞台袖やフライタワー内の吸音が十分でない場合、反射板を設置することでかえって低音域の響きが短くなってしまうことがある。重厚な低音域の響きが要求されるクラシックコンサートを重視する場合、客席天井、壁同様の面密度の仕上げ、下地構造とすることが理想であり、そのための反射板機構の収納方式や許容荷重との調整が必要となる。それらの調整が不十分な場合、反射板構造の許容荷重の範囲でなるべく重くしたり、ダンピングシート3mm程度を挟んだサンドイッチ構造にしているが、建築意匠だけでなく音響的にも舞台と客席の条件を揃えた仕上げ構造(面密度30〜50kg/u程度)となることが望ましい。
例として、反射板材料が軽量(合板9o厚)で反射板間に大きな隙間をもつホール(ホールA)と、反射板材料が重く(石膏ボード3層、合計54.5o厚)、隙間が小さい最近のホール(ホールB)について、反射板設置・収納時の残響時間周波数特性を比較して示す。ホールAでは反射板収納時の方が低音域の響きが長く、反射板設置・収納時の中高音域の残響時間の差は0.2〜0.3秒程度である。それに対してホールBでは、低音域の残響時間の逆転はみられず、広い周波数帯域で0.3〜0.4秒程度の残響時間の可変幅が得られ、多目的ホールの用途に適した響きが実現されている。(服部暢彦記)