No.251

News 08-11(通巻251号)

News

2008年11月25日発行
ホール内観

北國新聞赤羽ホール(金沢)

 北國新聞創刊115周年を迎えた本年8月、金沢市香林坊北國新聞社本社ビル隣りに北國新聞赤羽ホールが完成した。同社には1957年から1988年の間北國講堂があり、講演会や発表会などの文化活動の拠点として活用されていたが、このホールの完成により20年ぶりの復活となった。計画当初の名称は「新北國講堂」であったが、北國新聞の創刊者で初代社長の赤羽萬次郎氏にちなんで「赤羽ホール」という名称となった。

ホール内観
ホール内観

施設概要

 この施設はRC造4階建てで504席のホールのほか講演会や展示会、リサイタルなど多目的に利用できる交流プラザや新聞博物館などからなる。本施設の設計は日本設計:浅石優氏、施工は清水建設で、永田音響設計は施設全体の音響計画を行った。

建築デザインと音響計画

 この建物の外壁は曲面のガラス張り、さらにその内側にあるホワイエのホール側の壁も曲面で黒い艶のある塗装の仕上げで、天井は鏡面仕上げとなっており、あたかも巨大なガラスケースの中のグランドピアノを模しているように見える。

 ホール室形はシューボックス型の端整な直方形で、随所に美しいディテールを追求している。音の拡散のために壁・天井に設けたシャープな木製リブや舞台正面壁の照明を取り込んだガラスによる拡散壁の表現の美しさは、いわゆるミニマル建築の思想を感じる。
シューボックス型のホールは音響が良いというのが通説であるが、それはその寸法とプロポーションの条件が理想的であることに加え、天井や壁での音の拡散が必要であり、単なるフラットな面では良いコンサートホールにはなり得ない。昨今の建築事情では、ローコストに合わせてシンプルなデザインの建築が広く受け入れられている。中にはガラスとアルミを多用し、白くてシンプルにデザインされた建物がミニマル建築の「様式」であるかのようだ。コンサートホールでそういう「様式」から離れられずにいると求められる音響的与条件は受け入れられず、建築ではなく巨大なミニマルアートが出来上がる。

ホワイエ
ホワイエ

 この赤羽ホールは、機能や形態におけるシンプルなスタイルが、そのような「様式」としてではなく、建築的表現の中に確固としたものとして示されているように思える。

運営

 赤羽ホールは(財)北國芸術振興財団が運営し、オープニングでは、芝居、寄席、歌舞伎、コンサートなど約30公演が行われ、さらに石川県、(財)石川県芸術文化協会、石川県音楽文化振興事業団が主催する「いしかわ芸術文化祭2008」がこの赤羽ホールと石川県立音楽堂で開催された。今後は人気歌舞伎役者を招いての歌舞伎セミナーや寄席「赤羽亭」など定期的な企画が予定されている。金沢には県立音楽堂を始めとする大小の多くの公共ホールが存在する。これらのホールとともに企画運営に協力関係をもつことで、石川県の文化活動・支援のより広範囲な展開に期待できると思う。(小野 朗記)

北國新聞赤羽ホール http://www.akabane-hall.jp/

マイクロホン開発の歴史(3)

 3回目は、1977年頃、およそ31年ほど前に開発・実用化したMS方式の小型ステレオコンデンサーマイクロホン(CMS-1型)をご紹介しようと思う。

 このMS方式のステレオマイクロホンは、単一指向性をもつMid(ミッド)マイクロホンと、両指向性をもつSide(サイド)マイクロホンの2つのマイクロホンを備え、両マイクロホン出力の和と差をとることで、図1のようにL・Rのステレオ信号を作ることができるマイクロホンである。

 こうしたMS方式のステレオマイクロホンには、当時、Neumann社のSM-69型コンデンサーマイクロホンと、Schoeps社のCMTS-50IU型コンデンサーマイクロホンが実用されていた。特にSM-69については、ほぼ独占的に使用されていたが、これらのマイクロホンは外形寸法が大きいという難点があった。

図1 M-S方式の指向性合成
図1 M-S方式の指向性合成

 そこで私は、長年に渡って定着してきている振動膜と背極とが一対(背極が片側のみ)をなす変換器の構造を変えてみることにした。すなわち、背極を振動膜の片側だけでなく、両側に設けることにより、両側の2つの出力をプッシュプル回路により片側の2倍の出力として取り出すことができ、かつ内部雑音の低減など高感度・低雑音化と外形寸法の小型化が実現できる特長がある。

図2 マイクロホンユニットの形状比較
図2 マイクロホンユニットの形状比較

 図2は本マイクロホンをSM-69型ステレオマイクロホンと対比して示したものであり、また図3は外形寸法と内部構造を示したものである。外形寸法は、直径19mmφ、長さ59mmとかなり小型である。内部は、最上部に単一指向性変換器(Midマイクロホン)が配置され、その下部に両指向性変換器があり、更にその下部にインピーダンス変換用のFETソースフォロアー回路が内蔵されており、最下部には7ピンのキャノンコネクターが取り付けられている。7ピンのうち、2ピンは単一指向・両指向用の電源供給に、1ピンはアース、残る4ピンは4つのFETソースフォロアー回路による単一指向性・両指向性変換器の各2つずつの背極に対応した計4つのアンバランスの出力端子となっている。

図3 マイクロホンユニットの構造・寸法
図3 マイクロホンユニットの構造・寸法

 この4つの出力は、図4に示したトランスボックス内の2つのトランスにより、Mid(単一指向性):Side(両指向性)の2つのバランス出力(3ピンのキャノンコネクター)に変換される。つまり、マイクロホン本体の各2つずつのアンバランスの出力は、2つのトランスの一次側でそれぞれプッシュプル回路が構成されて片側の2倍の出力となり、トランスの二次側からバランス出力として取り出される。電源供給はファンタム給電方式であり、電源電圧は48Vである。

図4 トランスポックス
図4 トランスポックス

 次に単一指向性および両指向性の変換器の構造を図5と図6に示す。どちらの変換器も、周辺をつき上げて所要の張力をもたせた振動膜があり、その両側に多数の穴のあいた背極が取り付けられている。

 単一指向性変換器は、図5に示すように図の右側、即ち変換器の背極側に図のような断面形状のプラスチック振動板が取り付けられている。この振動板は、正面方向感度の低域限界を広げる効果がある。

 両指向性変換器は、図6に示すように背極の両側に左右同じ容積の気室を設け、その外側に音響抵抗材料が取り付けられている。したがって、振動膜を中心に、左右対称構造になっており、これによって高い周波数まで対称両指向性が得られるようになっている。

図5 単一指向性変換器の構造・寸法
図5 単一指向性変換器の構造・寸法
図6 両指向性変換器の構造・寸法
図6 両指向性変換器の構造・寸法

 次に、本マイクロホンのMid(単一指向性)・Side(両指向性)両出力の指向周波数特性を図7、図8に示す。Midマイクロホンの低域特性は、約25Hzで3dBの低下であり低域補償用振動板の効果が表れている。背面感度は正面に比べて5kHz位まで15dB以上低下しており、良好な単一指向性が得られている。また、Sideマイクロホンの90°方向の感度は、正面感度に比べて20kHz以下の周波数で20dB以上低下しており、良好な両指向性が得られていることを示す。

図7 Midマイクロホンの出力電圧指向 周波数特性(音源とマイクロホン間距離-3m)
図7 Midマイクロホンの出力電圧指向
周波数特性(音源とマイクロホン間距離-3m)
図8 Sideマイクロホンの出力電圧指向 周波数特性(音源とマイクロホン間距離-3m)
図8 Sideマイクロホンの出力電圧指向
周波数特性(音源とマイクロホン間距離-3m)

 また、両マイクロホンの正面感度は-41dB/Paであり、内部雑音(固有雑音)の音圧換算値はMidマイクロホンが15.2dB(A)、Sideマイクロホンが17.0dB(A)とかなり低い値となっている。(溝口章夫記)

ブラジルからの研修生 ルイス君

 当事務所の外国人研修生を紹介したい。彼の名前はルイス エンリケ タチバナ、日系三世のブラジル人である。今年4月、JICA(独立行政法人 国際協力機構)と財団法人 海外日系人協会が共同で実施している日系人研修制度の研修員として来日した。期間は来年1月までである。

 この日系人研修制度は、中南米諸国に定住する日系人を対象に、技術協力を通じて定住先の国の発展に貢献する人材を育成することを目的としている。毎年、日本語教師研修等の集団研修と研究者・技術者のための個別研修を合わせて50人を超える日系人が、日系人協会や研修依頼を受けた全国の研究機関・企業で研修を受けている。研修期間は1ヶ月から最長1年間、内容は日本語教師研修から農業や工業、医学、IT関連までと様々である。

 現在、事務所では建築計画における音響設計、音響測定等の内容とその流れ、位置付け等を騒音防止技術や室内音響設計の基本的事項とともに学習している。特に、実務を通しての建築設計者、建築施工者との具体的な関わり、やり取りから、実際的な音響設計を経験することで、彼の研修テーマである音響設計と日本語のスキルアップに役立てたいと考えている。

 さて、ルイス君の話しに戻そう。実は、彼は日本生まれであり、3歳まで日本で過ごしている。なんと小さい頃に雪を見た記憶もあるらしい。その後ご両親の帰国とともにブラジルに渡り、大学では建築を学んでいる。楽器演奏が趣味ということもあり音響設計に興味をもち、大学3年のときには地元の音響コンサルタント事務所に研修に行った経験もある。

 ブラジルでは音響設計という言葉自体は知られているが、音響設計の必要性を感じている施主や建築設計事務所はまだ少ないようである。したがって、プロジェクトの初期段階から音響コンサルタントが入る事は稀で、完成後にその音響性能の不備がクレームになることも少なくないらしい。ブラジルでの研修先の音響コンサルタント事務所の仕事も、クレームに対応したものが多かったと聞いている。

 ルイス君はこの研修を終えた後、日本の大学院で専門的な音響学を学ぶことを希望している。将来はブラジルに帰って音響設計の仕事に就きながら、ブラジルの音環境を良くすることを目標にしているということだ。様々な経験をもつ当事務所のスタッフとのコミュニケーションや実務経験が将来役に立つことを願っている。(酒巻文彰記)

パリ事務所開設のお知らせ

 ヨーロッパにおける業務拡大に伴い、この度パリに新事務所を開設しましたのでお知らせ致します。海外の事務所はロサンゼルスについで2つ目となります。ロサンゼルス事務所代表の豊田泰久がパリ事務所の代表も兼任し、同じくロサンゼルス事務所からフランス人のMarc Quiquerezがパリに赴任することになりました。新事務所は、パリ地下鉄3号線のParmentier駅から至近(徒歩1分)の便利な所です。住所、連絡先は下記のとおりです。

 Nagata Acoustics Paris Office

  • 75, avenue Parmentier
  • 75011 Paris, France
  • Tel : +33 (0)1 40 21 44 25
  • Fax: +33 (0)1 40 21 24 00