No.248

News 08-08(通巻248号)

News

2008年08月25日発行
兼松講堂舞台

くにたち兼松講堂 音楽の森コンサート『ピアニストたちの夢の競演』

 一橋大学兼松講堂は、本ニュース196号(2004年4月)でもご紹介したように、同窓会組織「如水会」を中心とする募金で改修が実施され、2004年に竣工した一橋大学の象徴的な建物である。その兼松講堂に新しくピアノが設置され、お披露目のコンサートが5月25日(日)に開催された。当日は朝から雨、それも大雨だったが昼過ぎにはその雨も止み、ほっと一安心。というのも改修工事では、文化財に対する工事ゆえの制限や経費がかかりすぎるということから、客席内に冷暖房設備機器本体を設置するに留まった。その結果、運転音が大きく静けさの確保ができず、コンサート時には停止しなければならないからである。5月とはいえ、聴衆の熱気で講堂内の温度や湿度が上昇するので、できれば少しでも快適な環境の中でコンサートが行われて欲しかったのである。

 コンサートのタイトルは、『ピアニストたちの夢の競演』と銘打ったガラ・コンサート。神谷郁代、野原みどり、江口 玲、菊池祐介というベテラン、中堅、新進の4名の実力派のピアニストたちが趣の異なる演奏を披露した。客席はほぼ満員。兼松講堂は、メインフロアーの両側と後方にバルコニー席が設置された客席数1,100席あまりのホールである。室容積は約6,700m3、残響時間は1.4秒(500Hz、着席時推定値)と、最近のコンサートホールに比べると天井高も高くなく、残響もそれほど長くない。しかし、温かで優しい響きが伊東忠太設計のデザインと相まって、まさにここでしか味わえない至福をもたらしてくれる。とくにピアノの演奏にはそれほど長くない残響がちょうどよく、さらに音量も十分で、見た目もアーチ型のプロセニアムにピアノが納まった様子がとても典雅で、ピアノコンサートにはおすすめのホールだと思う。

兼松講堂舞台
兼松講堂舞台

 今回で11回目を迎える“くにたち兼松講堂 音楽の森コンサート”は、一橋大学管弦楽団関係者のOB、OGの集まりである楽友会の有志の方々による企画あるいはサポートで実施されている。そもそも兼松講堂の当初の改修工事の目的は老朽化した建物の修復がメインであった。しかし、兼松講堂で演奏された著名演奏家の方々がその響きを絶賛し、また学生時代にコンサート会場として使用していた楽友会の方々も良い響きを活かした講堂の再生を主張された結果、コンサートホールとしての使用も踏まえた改修工事となったのである。ところが、このような経緯で改修されたにもかかわらず、オープニングコンサート以降はコンサートが計画されていなかったことから、楽友会の関係者が立ち上がりコンサートを継続していく委員会を組織した。コンサートはとりあえず“一橋ゆかり”をテーマに行われているとのこと。すなわち、一線で活躍されている一橋大学OB、OGの方々−例えば、フォルテピアノの渡辺順生氏、指揮者の宮城敬雄氏など−の繋がりを軸にコンサートが企画されている。経費の面では大きな赤字は今までわずかにあっただけだそうだが、やはりボランティア的なやりくりも多少はやむを得ないということである。

兼松講堂客席
兼松講堂客席
兼松講堂入り口にある怪獣の彫刻
兼松講堂入り口にある怪獣の彫刻

 ところで、今回お披露目されたピアノは楽友会をはじめとする有志の方々が大学に寄付したものである(他にも、オーケストラひな壇等を寄付されている)。改修工事前から使用されていたピアノの状態があまりよくなかったため、改修工事後のコンサートでは毎回レンタルピアノが使用されていた。その状況を憂えてのことである。以前にはわが国に数台しかなかったベヒシュタインが兼松講堂に設置されていたこともあり、同様の機種やその他の実績のあるメーカーのピアノが候補に挙がった。また、講堂の規模からセミコンサート型も考慮されたが、結局フルコンサート型のスタインウェイD-274に決定したということである。

 この原稿を書くために、コンサートをサポートする組織の中心メンバーである瓦林秀嗣氏(昭和40年卒業、チェロ)と佐藤正治氏(昭和50年卒業、ホルン)のお二人にお話しを伺った。経験豊富で行動力のある瓦林さんと梶本音楽事務所在籍の佐藤さんの歯車が噛み合って、良質なコンサートが作られているのだと感じられた。音楽系の学部のない大学で続けられているコンサート、それも大学が主催でなく同窓会組織が継続しているコンサートである。どうか末永く続けていっていただきたい。兼松講堂でのコンサートは、今年度はつぎの2回が予定されている。(福地智子記)

  • 第12回 11月9日(日) 15:00〜 「渡辺順生/ピアノ協奏曲」
  • 第13回 12月21日(日) 15:00〜 「宮城敬雄指揮 レニングラード国立歌劇場管弦楽団」

ヴィトリア(スペイン)の新コンサートホール

 スペイン北東部のフランスとの国境近くにヴィトリア(Vitoria)という市がある。Vitoriaというのはスペイン語で、所属するバスク地方の言語バスク語ではガステイス(Gasteiz)といい、正式にはヴィトリア=ガステイス(Vitoria=Gasteiz)と呼ばれている。人口約22.7万人のこぢんまりした街であるが、バスク自治州の州都として歴史的にも文化的にも重要な都市に数えられている。フランク・ゲーリーの設計したグッゲンハイム美術館で一躍世界的に有名になったビルバオからは車で約1時間の所にあり、スペイン国外からの空路はこのビルバオ経由となる。

 このヴィトリア市に、コンサートホール(1,500席規模)、室内楽ホール(500席規模)、国際会議場(1,000席規模)、多目的展示場(6,000席規模)を含む複合文化施設が計画され、先頃その音響設計者を選定するコンペが行われ永田音響設計が選ばれた(4月21日付)。

 2006年11月にオープンしたロシア、サンクト・ペテルブルグにある『マリインスキー劇場コンサートホール(本ニュース229号、2007年1月)』でのコンサートをたまたま聞いたスペインの音楽マネジメント関係者がその音響を大変気に入ってくれ、自らの友人であるこのヴィトリア市のプロジェクトの責任者に、我々を音響コンサルタントとして推薦してくれたことが事の発端であった。コンペは米ニューヨークの“Artec Consultant”社、地元スペインのバルセロナから“Estudi Acustic H. Arau”社、そして弊社の3社の間で行われた。我々が実際に音響設計を担当したホールの音響を気に入ってもらえたことが、音響設計者選定のコンペに参加できるきっかけになるというのは、設計者としてこれほど嬉しい話はない。

ヴィトリア市中心部のビルヘン・ブランカ広場
ヴィトリア市中心部のビルヘン・ブランカ広場
プロジェクトが予定される敷地
プロジェクトが予定される敷地

 今後の設計〜建設のプロセスについては、我々がこれまで経験している他のプロジェクトとは少し様相が異なっている。具体的には、地元の総合ディベロッパーであるIDOM社(建築プロジェクトの計画・設計から施工までを担当する総合会社で、日本でいう所のゼネコン?)が、我々音響コンサルタントよりも先に市によって選定されており、彼らと一緒にプロジェクト全体の基本設計“Concept Design”を担当する。そしてその後、コンペによって実際の建築設計を担当するアーキテクトが選定され、実施設計が始まるというものである。基本設計を担当したIDOM社は、このアーキテクト選定のコンペにも引き続き協力するが、コンペが終了した段階でその役目を終える。そしてプロジェクトの設計はコンペで選定されたアーキテクトが引き継いでいくことになる。これまでに経験している日本や欧米のプロジェクトのプロセスとはかなり異なるが、スペインではこれが一般的とのことである。もっとも、“Concept Design” というプロセスをここで単に“基本設計”と訳しただけに過ぎず、設計段階の名称やその内容は、各々の国によって異なっているのが実情であり、実際にこのヴィトリアのプロジェクトで実施した“Concept Design”の内容は、日本で一般的にいわれるところの“基本設計”に比べるとかなり初期段階の設計に留まっている。ただし音響設計については非常に特殊な分野ということから建築設計とは別扱いとなっており、先の音響設計者を選ぶコンペで選定された我々がプロジェクトの完了まで引き続き担当していくことになっている。

IDOM社による各施設のレイアウト図
IDOM社による各施設のレイアウト図

 今後のスケジュールとしては、2008年内に実際の建築設計を担当するアーキテクトを選定するコンペが実施され、2009年初頭から約1年にわたって実施設計が行われることになっている。そして、2010年より建設工事が開始される予定である。(豊田泰久記)

オルガンコンサート「オルガン・ノーブル“ル・ドゥーブル”」ご案内

 2004年に友人と始めたパイプオルガンコンサートの8回目のご案内です。今回のタイトルは「オルガン・ノーブル“ル・ドゥーブル”」。フランス語で2重、2倍を表す「ル・ドゥーブル〜le double〜」からもわかるように、2人のオルガニスト、2台のオルガンのコンサートです。ステージ正面の大オルガンを2人で演奏する他、ステージ上に移動可能な小型のポジティフオルガンを設置して、J.S.バッハの「トッカータとフーガニ短調」を大オルガンと共演します。以下はチラシから。(福地智子記)

 コンサートのキーワードはズバリ「2」。2人のオルガニスト、大小タイプの2つのオルガン、そして2人の演奏。そこから生まれる2倍(それ以上)の響き。ソロ、連弾、大オルガンとポジティフオルガン、2台のポジティフオルガン同士のアンサンブルなど、変貌自在なオルガンの音色の組み合わせがホールを満たします。その模様は、プロジェクターを駆使し映像により投影。息遣いをそのままに臨場感たっぷりお楽しみ下さい。(後略)

演奏 : 勝山雅世、近藤 岳
日時 : 10 月7日(火) 19:00 開演 (18:30 開場)
場所 : すみだトリフォニーホール大ホール(チケットセンター:03-5608-1212)
チケット(全席指定): 一般 2,500 円、学生(4才以上可)・65歳以上 1,500 円