No.234

News 07-06(通巻234号)

News

2007年06月25日発行
大講堂

松原の地に、獨協大学 天野貞祐あまのていゆう記念館 オープン

 “ドッキョウのはドイツの”(獨協大学ドイツフェアのポスターより)。獨協大学は明治14年に設立された獨逸学協会を源に持つ獨協学園が、学園創立80周年を迎えた昭和39年に設立した大学で、平成16年に創立40周年を迎えた。これを記念して、図書館、外国語教育研究所、情報センターを融合した“総合学術総合センター棟”と“教室棟”を併せ持つ本施設“天野貞祐記念館”の建設が計画され、この春オープンした。天野貞祐氏は第3次吉田内閣の文部大臣で、カント哲学者として知られる獨協大学創設者である。

 この大学は東武伊勢崎線松原団地駅から徒歩5分ほどのところにあり、その周辺には約45年前の竣工当時、東洋一と言われたという大規模な公団草加松原団地が広がっている。草加松原は江戸時代の五街道のひとつ、日光街道の2番目の宿として賑わった草加宿の北端の街道沿いに松が移植されたことから広く知られるようになった場所である。獨協大学のキャンパス内にも松が植えられており、新しい記念館に常緑の色を添えている。

施設概要

 地上5階建て、幅180mにおよぶ天野貞祐記念館は建物西側が“図書館ゾーン”、東側が“教室ゾーン”、そして、その2つを“インターナショナル・コミュニケーション・ゾーン”がつないでいる。図書館ゾーンは4フロアにわたり、約40万冊の開架書庫に加え、4階には自動書庫施設を備えている。また、教室ゾーンの1階には獨協学園の歴史を伝える“獨協歴史ギャラリー”が開設され、3階には500席規模の大講堂が配置されている。

 本施設の設計・監理は株式会社NTTファシリティーズ、弊社は大講堂およびインターナショナル・コミュニケーション・ゾーン2階に置かれたMM(マルチメディア)工房スタジオを中心とするスタジオエリアの建築音響・設備騒音防止設計を担当した。

大講堂

 大講堂は扇形の室形状で、壁面下部の落ち着いた木の色調に、壁面上部や天井の白、客席椅子のグリーンが明るい雰囲気を添えている。大学の講堂として講義、講演会や式典などスピーチ系の催し物を主用途とした施設であるが、さらに生音のコンサートにも対応出来るよう計画した。舞台から客席に向かって大きく開いた側壁の上部は、客席の中央部まで反射音を到達させることを意図して折れ壁形状とし、庇を設置した。さらに、響きの長さを調整するために、側壁上部の折れ壁に扉型開閉式、後壁下部にカーテン式の残響可変装置を配置した。開閉式の残響可変装置は、扉背後の面および扉の裏面をグラスウールによる吸音仕上げとし、扉を開けることで扉面積の倍の吸音面がホール空間に露出するようになっている。残響時間は1.1〜1.3秒(中音域、空席時)である。

大講堂
大講堂

 本講堂は教室ゾーンの中に位置しているため、周辺教室間との遮音対策も課題となり、壁面にはTLD60の乾式遮音間仕切り壁を採用した。また、直下の教室への遮音対策としては、舞台および客席前方の平土間部分にグラスウール浮き床を採用し、60dB(中音域)の遮音性能を確保した。

MM工房スタジオエリア

 インターナショナル・コミュニケーション・ゾーンには、外国語重視の教育を特色としている大学に相応しく、語学などのマルチメディア教材の作成・編集機能を持ったMM工房スタジオ、調整室、録音スタジオや編集室が配置されている。これらの室のうち、MM工房スタジオ、録音スタジオにはグラスウール浮き床の防振遮音構造を採用し、周辺室間との高い遮音性能を実現した。

MM工房スタジオ
MM工房スタジオ
録音スタジオ
録音スタジオ

 獨協大学は今年、草加市との間で“ともに豊かな街づくりを推進していく”という協働宣言を行った。この新しい天野貞祐記念館が獨協大学の中心的な施設として学生の活発な活動の場となり、さらには地域交流の一端を担っていくことを期待したい。(箱崎文子記)

獨協大学天野貞祐記念館URL http://www.dokkyo.ac.jp/40kinenkan/index.htm

TELEX ACADEMY ASIA PACIFICと大連の新しい劇場

 5月24、25日の2日間、プロ用音響機器メーカのグループであるTELEX EVI GROUPが主催するTELEX ACADEMY ASIA PACIFIC 2007に参加する機会があり、中国の大連市を訪れた。ACADEMYの模様や、会場となった大連の新しい劇場について紹介する。

TELEX ACADEMY ASIA PACIFIC 2007

 TELEX ACADEMY ASIA PACIFICは、Electro-Voice(スピーカ、アンプ、マイク)、MIDAS(オーディオミキサー)、RTS(インターカム)、DYNACORD(スピーカ、アンプ、シグナルプロセッサ)、KLARKTEKNIK(シグナルプロセッサ)を傘下とするTELEX EVIグループが、アジア各国の顧客を対象に、各ブランドの製品を一同に集めて新しい技術や製品、販売戦略等を紹介するセミナーである。このセミナーはアジア各国で毎年開催されており今年が11回目とのこと。大連市に昨年完成した大連大劇場に同グループの製品が総合的に採用されたことから、今回はその劇場を会場に選んだそうだ。参加者は中国をはじめ韓国やインド等から総勢300名で、日本からの参加者は約30名であった。2日間に渡るセミナーに、劇場を借り切って立派なセットを組み、製品を多数持ち込むところからは、同グループがいかに中国・アジア市場に注力しているかがうかがえる。

プレゼンテーションの模様
プレゼンテーションの模様
会場となった大連大劇場の外観
会場となった大連大劇場の外観

 各ブランドの製品紹介後に行われた販売戦略説明では、同グループの製品群で総合的なシステム・ソリューションを提供できること、それが単なる製品の網羅ではなく、各ブランドの制御ネットワークが相互にリンクし統一的なシステム制御が可能になったことが強調されていた。このようなメーカのグループ化とグループ製品同士のリンクは他にも例があり、今後も進む可能性がある。機能面でのメリットは大きいが、製品の選択肢が限定される面もある。公共施設を多く担当する筆者の立場では、照明機器の制御方式(DMX)のように共通の仕様が策定され、メーカによらず自由な製品の組み合わせが可能になることを望みたい。

 製品説明ではヘッドセットマイクを使用していたので、スクリーンを向いてもパソコン操作のために屈んでも常にマイクは口元にあり良好な拡声が行われていた。欧米ではセミナー等にヘッドセットマイクがよく使用されるが、日本では浸透していない。上着の襟に取り付けるタイピン型マイクよりも集音条件が断然よいので、積極的に利用すべきだろう。

大連大劇場(大連開発区文化中心)

 大連開発区文化中心は、大連中心部から車で40分程の経済技術開発区にある大型文化施設で、大小の劇場と図書館・会議施設が広大な広場を挟んで配置されている。完成は昨年1月だが、まだ正式にはオープンしていないようだ。施設のパンフレットやホームページがなく詳細は分からないが、設計者はRoy Thomson Hallを設計したカナダの有名建築家Arthur Erickson氏である。音響設計については不明である。

舞台上から客席側の内観
舞台上から客席側の内観
3階バルコニーからの内観
3階バルコニーからの内観

 会場となった大劇場は4面舞台とオーケストラピットを備え、2段のバルコニー席が配置された円形の客席をもつ1260席のオペラ劇場である。プロセニアムの左右に取り付けられた、字幕用と思われる大型LED表示装置が目を引く。音響反射板は見あたらなかった。壁はボードに木練付けで、天井もボードと思われる。床は主階席の通路のみカーペットで他はフローリングであった。客席後壁は木格子になっていて1階席は格子裏が固定の吸音面であるが、2〜3階席は蛇腹状のカーテンが2重に仕込まれており、昇降によって響きの調整が可能になっていた。セミナー中は全てのカーテンが降りており、拡声された音を聴いた限りでは、クセのない適度な響きに感じられた。劇場の固定設備を試聴できるかと期待したが、叶わなかったのが残念であった。(内田匡哉記)

シンポジウム「エンターティンメント業界の安全を共有する」

 大規模なロックコンサートなどでは、ステージ上部にトラスが組まれ、そこに照明や音響の機材が設置されることが多い。その数や重量は相当なもので、最近よく見られるラインアレイ型スピーカは1本でも1トン程の重量となる。また、劇場のステージにおいては、迫りやバトンといった舞台装置の使用に加え、火気の使用や出演者のワイヤー吊りなどの派手な演出もある。このようにステージ上の設備や演出は大がかりになっているが、公演とその準備作業には多くの危険がともなってくる。機材や施設の損傷、出演者や裏方スタッフの怪我といった事故は少なくない。場合によって死傷事故や公演中止につながることもある。

 こうした背景もあって、公演や作業中の出演者とスタッフの安全をテーマとしたシンポジウム『「エンターティンメント業界の安全を共有する」業界の今、そして…』(日本舞台技術安全協会主催)が開かれた。4月13日、会場となった代々木公園内の国立オリンピック記念青少年総合センターの周囲では春ののどかさが感じられたのに対し、会場内で話し合われたテーマは深刻であった。その内容を一部紹介したい。

 シンポジウムはパネルディスカッション形式で進められ、舞台監督やコンサートツアー事業者らのパネリストにより舞台上での事故例や安全上の問題点が挙げられた。たとえば脚立を使った作業中の事故の多さである。脚立を支える補助員がいないことや、固定フックをしっかりとかけていないことが事故原因となっている。特に経験の少ない若手スタッフにこのような安全意識を欠いた作業が多くみられ、さすがにベテランスタッフほど安全作業を心がけるそうである。安全意識の低さや公演関係者内での安全意識の差に対する指摘には多くの出席者が頷いていた。

 また、ほとんどのパネリストが公演の準備、撤収作業の時間の短さを問題視しており、印象的であった。短い時間内に多くの共同作業をこなさなくてはならないため、様々な指示が飛び交う現場では、指示の聞き漏らしや焦りが事故につながるのだろう。さらに、演出家やオペレートスタッフなどをまとめる舞台監督からの意見として、公演前の打合せ期間を十分とるべきであるという指摘があった。演出意図を確認するだけでなく、その演出のオペレート時の危険を見つけて安全対策を考えるためにも密な打合せが必要であるという意見には大いに納得した。

 スタッフ、演出家、施設管理者といった公演関係者に高い安全意識を浸透させるための積極的な合同セミナーの開催等、今後へ向けた提案がいくつか挙げられシンポジウムは終了した。ホール施設や舞台設備についての問題点や要望が挙がることも期待したが、現状の公演関係者の安全意識の低さが課題で、そればかりが目立ち残念であった。建設現場においても高所作業やクレーンによる資材の搬入といった危険な作業が多い。ステージ上の作業と同様に安全とスピードの両方が求められているが、かなり厳しく安全管理がされているように思う。やはり公演関係者全体の安全意識を高めることが不可欠であると強く感じた。(服部暢彦記)