No.220

News 06-04(通巻220号)

News

2006年04月25日発行
Opening Ceremony

庄内の「大学づくりまちづくり」の新拠点

 最上川を望む山形県酒田市南部の飯森山地区は写真専門の美術館として有名な土門拳記念館、数寄屋造りの生涯学習施設の出羽遊心館、酒田市美術館など建築作品としても魅力的な文化施設が集まっている地区である。この文化的地区のなかほどの東北公益文科大学敷地内に「酒田市公益研修センター 多目的ホール」が3月11日にオープンした。

 この東北公益文科大学は山形県と庄内地域の14市町村がキャンパス等の施設を整備し、2001年に開学した公設民営の、国内唯一の公益学部を設置した新しい大学である。「大学がまち並をつくり、まちが大学を育てる」という発想のもと、大学の図書館、研修室、食堂など市民が自由に利用できる開放的なキャンパスには、実際に門も柵もない。公益研修センターはこうした開かれた大学が地域づくりに貢献することを意識し、市民と大学の連携と交流の拠点として整備された、公益をテーマとした生涯学習施設である。施設の設計・監理は、大学のマスタープランを手がけた慶應義塾大学助教授の池田靖史さんが代表を務める(株)IKDSで、施工は建築工事の大場・平尾特定建設工事共同企業体をはじめ、設備工事もすべて地元である。

Opening Ceremony
Opening Ceremony

ホールの規模、性格

この施設は536席のホール、中研修室2室、小研修室4室、練習室2室、カフェコーナー、ラウンジからなる。ホールの規模については、市民が利用しやすい大きさおよび大学利用の入学式・卒業式・学園祭の約700人から学会・市民講座・大講義での約400人、ワークショップ・学生の発表の場としての約100人などの利用とその頻度を想定し、検討した。その結果、500席程度を基本に、入学式・卒業式に対応するため700人程度の収容まで拡張できるホールということになった。また、市内には市民会館 「希望ホール」(大ホール:1287席、小ホール:約150席)、総合文化センター(425席)が、近くの余目地区には庄内町文化創造館「響ホール」(大ホール:504席、小ホール:約150席)など、プロセニアム型の多目的ホールがあること、大学敷地内に位置するホールであるという性格から、他の文化施設との機能的な補完も意識した。さらに、大学と共同でホールを管理運営することの利点なども活かし、講演会・シンポジウムなどを中心としたオープンステージ形式のレクチャーホールという性格となった。

ホールの音響計画

ホールは四角形の角を舞台とした室形状を基本に、これを少し不整形に菱形とし、舞台を取り囲むような円弧配列の客席形態である。そして、この客席側の背面2面を囲うように中小研修室、練習室、ラウンジなどが配置されている。2階廊下に面するホール後壁2面は大きな二重のガラス張りで、視覚的にホール内部と連続する廊下空間は移動椅子を設置することで、ホール客席の拡張性と施設の開放性を創出している。ここでの音響計画はホールの室形と響きの設定、ホールと周辺室の配置と遮音、使いやすい音響設備の実現などであった。スピーチ系の使用が中心であるが、音楽での使用もということから、舞台部の回転扉を反射~吸音の仕上げとすることで多少響きが可変できるようにした。残響時間は舞台扉:反射・吸音時、1.2~1.1秒(500Hz、満席時)である。また、ホールと周辺室はEXP.Jにより別棟のような構成とし、練習室についてはさらに防振遮音構造を採用した。なお、電気音響設備のスピーカはホールとその拡張スペースとなる廊下の天井に分散配置し、舞台部には映像再生のための移動用スピーカだけである。

オープニング

開館式典の後、記念行事として「地域政策フォーラム イン 酒田」(“公益まちづくり”を考える大学と地域の連携)が開催された。この大学構想を支えてこられた早稲田大学教授の伊藤 滋先生の「美しい日本を公益まちづくりの視点から考える」と題した基調講演から、地元のNPO、リサイクルセンター、タウンマネジメント機関、閉校校舎を利用した生涯学習施設など、各団体の活動報告とまちづくりへの提言発表、それに市長、学長も参加してのパネルディスカッションと続いた。この施設の特長を生かした“公益”の発信地的役割を担うにふさわしいイベントであった。また、翌日は市民見学会という学生企画の手作りのミニフェスティバルが行われた。市の芸術文化協会、地域のサークルグループ、学生参加の盛りだくさんの内覧会という趣向である。あいにくの冷たい雨で、前日ほど盛況ではなかったが、市民、学生が気楽に利用できるホールということを実感できる一日であった。(池田 覺記)

石巻市桃生総合庁舎・桃生公民館

 桃が生まれる町と書いて桃生町(ものうちょう)と読む。この季節、春には町の至るところに桃の花が咲いて…と地名からイメージしてしまうが、実は桃のふるさとではない。日本最古の百科事典とも言われる和名抄(わみょうしょう)に「毛牟乃不(もむのふ)と記されてあり、もともとアイヌ語の「モムヌプカ」という言葉から来ていて「流域の丘陵地帯」というような意味らしい。宮城県の中央部、南北に流れる北上川を南下していくとこのあたりで流れが東と南の二手に分かれる。先住の人たちは川から見える丘の風景をそのように呼んだのだろう。その「もむのふ」に桃生をあてはめこの地名になったと言う。1200年前にすでに桃生という地名があった歴史のある地域である。昨年相次いだ市町村合併で、桃生町は同地域の他の河南町、河北町、北上町、雄勝町、牡鹿町とともに石巻市と合併されたが、桃生という地名は残されている。

Location
Location

施設概要

この桃生町に総合庁舎・桃生公民館が竣工し、3月25日に落成式が行われた。この新しい施設は、田園地帯に前述の丘陵を意識したなだらかな丘のイメージでデザインされた案がプロポーザルにより選ばれた。設計は、久米設計東北支社である。
 施設は桃生地域の庁舎機能に加え、約300席の多目的ホール、図書館、楽屋を兼ねた練習室、和室などの公民館施設を備えている。エントランスから図書館、ホールのホワイエと続く空間は広がりのある吹き抜けで一体に計画されており、見通しが良く管理がしやすい。そしてさらに、来館者の交流がしやすい空間構成にもなっている。年齢層や使用目的によってそれぞれの室に分かれるのではなく、来館者がなんとなく集まり、語らうことのできるスペースが随所にあり、人の動きがいたるところから見える。役所の窓口にきた人が、図書館閲覧コーナーを、ガラス張りの練習室内の演奏風景を、ホールに集まる人を見ることで公民館でのあらゆる活動を垣間見ることが出来る。そこに顔見知りがいれば、そこで行われている活動を知ることになり、参加のきっかけにもなる。ますます活動が広がるという訳だ。小さい町なら尚更のことである。

Exterior
Exterior
Library
Library

コミュニティセンターに期待されているもの

東京に近いある市が65歳以上の高齢者に行ったアンケート調査で、自治体に期待する生きがいづくりのために求めるサービスは・・・と言う設問に、「公民館やコミュニティセンターなどの施設に通って、趣味活動をしたりすること」と答えた人が全体の29%と最も多かった。継いで「認知症予防のための教室」と「音楽、絵画、書道、演劇などの教室」がともに17%であった。そして、今後の心配事としては、「健康」についで「孤独「という答えが多い。日本がこれから向おうとしている高齢者社会において、地域の公民館施設には、図書館であるとか生涯学習のカルチャーセンターといった文化を提供する機能に加えて、若年層から高齢者までがともに接触し活動できる場が求められている。年齢でくくられた高齢者のための福祉施設ではなく、さまざまな世代が共に語らうことのできるこのような文化施設を提供することが、高齢者に対する福祉につながるのではないだろうか。

はねこ踊り

3月25日に行われた落成式典では、アトラクションとして地元の重要無形文化財であるはねこ踊りが披露された。笛・太鼓のお囃子で、頬被をした着物姿の女性(女装の男性を含む)が日の丸が描かれた扇子を両手に持ちながら跳ね上がり、どこか青森ねぷた祭りにも似た賑やかな踊りである。町には保存会もあり、参加者は老若男女様々で、年齢を超えた交流が行われている。今後は桃生公民館を練習と発表の場として子供から高齢者まで益々盛んな活動が行われていくものと期待している。(小野 朗記)

Opening Ceremony "Haneko Odori"
Opening Ceremony
“Haneko Odori”

石巻市 URL: www.city.ishinomaki.miyagi.jp

NSCA Systems Integration Expo 2006

 3月16日から18日の3日間にわたり、NSCA(National Systems Contractors Association)による音響・映像製品を中心とする展示会がネバダ州ラスベガス市のラスベガスコンベンションセンターで開催された。ラスベガスコンベンションセンターはラスベガスの中心部ストリップ通りから東へ1km程のところにある全米最大のコンベンション施設である。モノレールの駅が目の前にあり、また主要ホテルへのシャトルバスが出ているので非常にアクセスが良い。NSCAショーはこの中の展示会場で、音響・映像機器から会議システム、セキュリティシステムなどのブースが出展されて行われた。出展数は500強で昨年よりは若干減っており、また入場者もやや少なめではないかという話であった。

 展示会場に隣接して、メーカごとのスピーカ、ミキサー、アンプ、独自のネットワークシステム等のデモンストレーションを行う15室のデモルームがある。デモの仕方も様々で、例えば、技術的なセミナー中心のプレゼンテーションで技術力をアピールしているところ、実際の施工例等を紹介しながら音を聴かせてくれるところ、割と派手にショーアップしているところなど、メーカの違いによって音の違いとともに雰囲気もずいぶん違う。またスピーカの内部を見せるなど音だけでなく視覚的にも音づくりをデモしているところもあった。スピーカの傾向としてはラインアレイスピーカに加え、ネットワーク制御により向きや指向角を自由に設定できるスピーカ、小型シーリングスピーカの発表などが目立った。

Transparent enclosure for display
Transparent enclosure for display

 今回、私はこの機会に出来るだけ多くのスピーカを試聴したいと思っていた。残念ながらセミナーや展示のみでデモをしていないメーカもあったが、それでも3日間できる限りデモルームを回り、およそ12社のスピーカを試聴することができた。一部少しノイジーな音のするスピーカがあったり、使用している音源が各社違うため一概に比較は出来ないが、私が特に気に入ったのはEAW社のNTシリーズである。”Gunnes Focusing”という技術(スピーカのホーンで反射された音による干渉を打ち消すために、反射音の逆極性信号を反射音の振幅・位相特性を計算し再生する)が使われており、その音はとても滑らかで、特に高音のクリアさが際だっていて打楽器の音が非常にリアルに聴こえた。

 最終日の夜に、行く前から楽しみにしていたミュージカル「Mamma Mia!」を観ることが出来た。細かな英語が聞き取れなくても平気なほど、キャストの演技力とパワフルな歌声、そして会場の一体感に圧倒された。終演時はすでに夜中の12時を回っていたが、翌日の早朝出発に対する不安が吹き飛ぶぐらい、幸せなひとときであった。(酒巻文彰記)

オルガンコンサートのご案内

オルガントリフォニー 躍動するトリニティ

出演:TRM (近藤岳、山口綾規、勝山雅世)
日時:2006年5月20日(土)14:00開演(13:15開場)
場所:すみだトリフォニーホール 大ホール
チケット(全席指定):一般2,500円、学生・65歳以上1,500円

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