生誕100年 前川國男建築展によせて
昨年の12月23日から今年の3月5日まで、東京ステーションギャラリー(東京駅ビル内)で標記の建築展が開催されている。
前川先生は1928年、パリのル・コルビュジェの事務所に入門、1930年帰国、東京でレーモンド事務所に入所、1935年に独立して前川國男建築事務所を開設、戦前から戦後の混乱の時代を経て約50年にわたり変動の昭和を生き抜かれた建築家である。
前川先生は戦前の軍国主義、戦後の経済発展指向の潮流のなかで、一貫して建築家としての信条を貫いてこられた方である。本展では先生の代表的な作品が、写真、建築設計図のほかに、今回の建築展のために製作された数多くの模型で展示されている。また、建築設計者としての前川先生については、会場で購入できる記念出版の冊子に大谷幸夫先生はじめ多くの建築家が様々な視点から前川論を寄稿されている。
音楽がお好きだった前川先生はホール建築についても、いくつかの名ホールを残されている。1955年にオープンした神奈川県立音楽堂、横浜市の紅葉坂に建つこの音楽堂はわが国で最初の本格的な音楽ホールであり、50年たった今日でも、中規模の音楽ホールとして活躍している。また、1961年、東京上野公園口に誕生した東京文化会館は大小ホール、音楽練習室、音楽資料室を集積した音楽文化施設であり、大小ホールともども‘BUNKA-KAIKAN’として国際的にも高く評価されている。音響設計という視点からいえば、本館の音響設計を担当したNHK技術研究所の音響研究部によって、今日の我が国の建築音響設計の体系がまとめられたという点を強調しておきたい。私どもにとっては記念すべき施設なのである。これはひとえに、前川先生のホールの音環境の重要性についての理解と音響設計遂行に対しての援助があったものと思っている。
なお、東京での展示は3月5日に終わるが、引き続き4月15日から5月28日まで弘前市立博物館で、6月17日から8月16日まで新潟市美術館で開催される。(永田 穂記)
東京ステーションギャラリー:Tel.:03-3212-2485、http://www.ejrcf.or.jp
開館時間:平日10:00-19:00、土・日・祝日10:00-18:00 休館日:毎週月曜日
南砺市城端伝統芸能会館「じょうはな座」オープン
富山県の南西端に位置する南砺市は平成16年11月に8つの町村が合併し誕生した市で、西側を石川県金沢市に、南側を岐阜県飛騨市や白川村に接している。同市の中央に位置する城端地区は「越中の小京都」とも呼ばれ、古い町並みと伝統文化が息づく町である。また、世界遺産に登録された合掌造り集落のある五箇山への入口でもある。毎年5月の「
曳山祭」、9月の「むぎや祭」には全国から多くの観光客が訪れる。むぎや祭は、全国的に知られる五箇山民謡と踊りの数々を披露する祭りで、八尾のおわら風の盆とともに富山県の2大祭になっている。
その城端に平成17年8月、南砺市城端伝統芸能会館「じょうはな座」がオープンした。設計・監理はサン・プランニングシステムで、施工は安達建設・藤沢建設共同企業体である。また、イシバシ・スペース・デザイン(劇場計画)とA.T.ネットワーク(舞台設備計画)が設計協力を、永田音響設計は設計段階でのアドバイスと建築音響性能に関する完工時の音響検査測定を行った。
施設の概要
かわら屋根と白壁による和風の外観をもち、周囲の町並みとの調和が図られたじょうはな座は、400席の多目的ホールを中心に、その周囲に5室の練習室(内2室は楽屋兼用の和室)と2室の会議室が配置されている。
ホールは施設名の通り、地元に根付く伝統芸能の発表や練習を中心的な用途にした多目的ホールで、本花道も設営可能な和風の空間である。和物中心のため舞台音響反射板機構はなく、残響時間も短めの0.9秒(空席時)である。また1階客席後壁は入口扉の間の壁面が遮音タイプの可動間仕切り壁となっており、開放してエントランスホールとの一体利用が可能となっている。
練習室がホールの舞台裏および2階客席の後部に通路を挟んで近接配置されているため、遮音の面からは浮き構造の採用やホール客席、練習室の入口扉を2重の防音扉などにしたいところである。しかし本施設では、同時使用時の遮音については、運用面での対応を前提に使い勝手とスペースを優先するという方針により、特殊な遮音構造は採用していない。またホール客席と2階の練習室の入口扉は25dB級の防音扉1重、舞台裏の練習室(楽屋兼用和室)については防音仕様ではない木製引き戸である。各所の遮音性能(500Hz)は、舞台裏練習室→ホール間:72~74dB、2階練習室→ホール間:67~68dB、舞台裏および2階の練習室間:60~64dBである。
伝統芸能の定期上演
施設の運営は、住民で構成された「じょうはな座協議会」が母体となって行っている。じょうはな座は、むぎや祭での「むぎや踊り」の披露会場や講習会場のひとつとして使われる他に、祭りのとき以外にも観光客が城端の2大風物詩を楽しめるようにと、むぎや踊りと曳山祭で笛や三味線の音色にのせて唄われる「 庵唄」が隔週の土曜を基本に定期的に上演されている。また、竣工式後の落成記念公演では、人間国宝の歌舞伎俳優、中村富十郎さんが特別出演された舞踊が披露されたようだ。新しいホールは市民の文化活動の場に加えて、地域の観光振興施設としても期待されている。(内田匡哉記)
南砺市城端伝統芸能会館「じょうはな座」
http://www.city.nanto.toyama.jp/webapps/www/section/detail.jsp?id=1411
建築設備の騒音・振動防止シリーズ その1
遮音設計、電気音響設計と続いた新シリーズの第3弾では、音響設計の3本柱としている“静けさ、よい音、よい響き”の静けさを考えてみたい。この基本的な音響条件となる静けさの実現に対して、建築設備の騒音・振動に目を向け、その防止対策を取り上げる。
音響的に厳しい条件が求められるホール、スタジオによらず、集合住宅、ホテル、事務所、学校等、一般の建物でも静けさに対する要求は高くなっている。今日、快適な環境、便利な生活をもたらす電気・空調・給排水衛生・昇降・コージェネレーション設備等々、建築とは切り離せない様々な建築設備は日常の生活に浸透し、欠くことのできない状況にある。さらに都市の集密化、高層化により、高いスペース効率や生産性が求められ、建築構造の軽量化がはかられている。しかも耐震という制約もある。多くの電気的、機械的なエネルギーを利用する建築設備の導入、活用は、このような建築条件と相まって新たな騒音、振動問題を生み出している。騒音対策の基本は音源対策である。しかし、壁一つ隔てて機械室、しかもその隔壁が乾式の軽量間仕切り壁という配置、構造条件は今では稀ではない。居住環境重視の時代のより身近な問題の解決策として、かつての生産効率第一主義の副産物としての公害問題とは違ったきめ細かい配慮の騒音、振動防止対策が必要である。
建築設備による騒音には、空調設備の“ゴー”という低音域成分の大きな機器の騒音から、“サー”という風切り音のように中高音成分の渦流的な騒音、トイレの給排水音のように有意な音、トランスの“ブーン”という純音成分の音などがある。かなりうるさい騒音からいったん気付いてしまうと気になる騒音、小さくても意外と耳につく騒音など、その発生源によって聞こえ方や気になり方は様々である。こういった設備騒音の特徴はその音源が騒音とともに振動を発生する点にあり、騒音と振動の伝搬が問題となる。設備側の機器のみの低減対策だけでは効率的な防止対策の実現は難しく、建築計画の早期における騒音、振動に対する認識とその配慮が必要となる。
本シリーズではいろいろな角度からこれら設備騒音、振動の問題とその防止対策を取り上げてみたい。(池田 覚記)
オンド・マルトノ コンサートのご案内
オンド・マルトノという楽器を知っていますか?1928年にフランスの電気技師モリス・マルトノによって発明された電波楽器(ondesはフランス語で電波、martenotは発明者の名前)である。楽器は鍵盤楽器のようなものと3個のスピーカ(ディフューザ)から構成されている。鍵盤の手前には弦が張られていて、その弦に付いている指輪を動かすことによって音程を変えたりビブラートなどをつけたりすることができる。音色は、二胡やチェロに似ている。同様の楽器ではテルミンがよく知られているが、オンド・マルトノの方がより洗練された演奏法が可能で、音色も多彩です。TVCMのバック音楽にもよく使われており、一度聴くと、あぁあの音・・とわかるはず。
そのオンド・マルトノのコンサート「マイ エキセントリック ヴァレンタイン」が、右記の通り、その第一人者である 原田節氏の演奏により開催されます。コンサートでは、オンド・マルトノの他に原田氏お得意のシャンソンもあり、ヴァレンタインデーに相応しい楽しいコンサートが期待できそう。因みに、吉祥寺シアターは、本ニュース211号(2005年7月)でも紹介したように、吉祥寺駅北口に2005年5月にオープンした劇場で、いつもはお芝居やダンスに使われており、音楽は初めてとのこと。コンサートが楽しそうと思う方はもちろん、楽器や劇場に興味のある方等、ご来場をお待ちしております。(福地智子記)
日時:2006年2月14日 18:30開場 19:00開演
場所:吉祥寺シアター
原田節氏のホームページ:
http://mirabeau.cool.ne.jp/onde/ondes_menu.html
本の紹介 「バイオリニストは肩が凝る─鶴我裕子のN響日記─」
ARCアルク出版企画 1,800円+税
─バイオリン界の「中村紘子」か、オーケストラ界の「向田邦子」か!?─ これが本書の帯に寄せられた檀ふみさんの推薦の一文である。
著者の鶴我裕子さんは今年N響歴32年を迎えられる第1バイオリンの奏者である。一般の音楽家の自伝にあるように、生い立ち、学生時代、ご家族のことなどで始まるが、これらが軽妙でしかも心に響く庶民の言葉で語られている。話題は楽器のこと、練習風景、海外ツアーからマエストロの血液型、趣味の山登りまで、天空の星のようにちりばめられている。しかし、そのコアとなるのは指揮者との間に生まれる生々しい人間関係である。尊敬・葛藤などの微妙な関係が見事に描きだされている。
終わりの2章は、著者の好きな演奏家、名曲の紹介とユーモラスな音楽事典である。
ステージに並んだN響の面々、客席から眺める彼らはまさに選びに選ばれたエリート音楽家集団である。しかし、本書を読んでN響にたいする印象ががらりと変わった。鶴我裕子音楽教室があれば、飛び込んでみたくなるような内容である。クラシック音楽に縁のなかった方にもぜひ一読をお薦めしたい。(永田 穂記)
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