原町市民文化会館、「ゆめはっと」のオープン!!
原町市は福島県太平洋側のいわき市と仙台市の中間に位置する。東京から常磐線特急で約3時間半、東北新幹線を利用しての仙台経由でもほぼ同時間のところにある。
この原町市は東北の夏のイベント、夏祭りの最初を飾る「相馬野馬追」でも有名である。毎年7月23日~25日、周辺2市6町1村により盛大に行われる1千有余年の伝統と歴史を持つ「相馬野馬追」は、総大将出陣、騎馬武者行列、神旗争奪戦など、鎧兜の騎馬武者による豪華絢爛な戦国時代絵巻をみるがごときのイベントで、甲冑に身を固めた六百余騎の騎馬武者が太刀、旗差物をつけて野馬原を疾走する勇壮な甲冑競馬と神旗争奪戦でハイライトを迎える。この期間、市民文化会館の建設現場も休業という対応で祭りを迎えた。
そして、市民待望の原町市民会館(愛称:ゆめはっと)が昨年11月に完成し、この3月14日の市制50周年記念式典によりオープンした。設計・監理は株式会社 エヌ・ティ・ティ ファシリティーズである。
施設概要
市民文化会館は原町市役所正面の道路を挟んだ真向いに位置し、近くには市民センター、体育館がある。施設は大ホール、生涯学習、共用・管理の3つのゾーンからなり、大ホールゾーンが鉄筋コンクリート造、生涯学習と共用ゾーンの一部が鉄骨造の建物である。
大ホールは、音楽を主体とした多目的ホールで、1階席721席、2階席388席の計1109席の1層のサイドまでまわり込んだバルコニーを持つプロセニアム型のホールである。
生涯学習ゾーンは平土間形式の多目的ホール(講演会形式: 192席)、スタジオ、練習室群からなる。この多目的ホールは上部3方にテクニカルギャラリーをもち、市民利用の各種催し物、大型の練習会場、パーティー、大ホールのリハーサル室としての利用等を意図し計画されている。また、多目的ホールの大開口の入口扉を開放することで、隣接するエントランスホールのアートプラザと呼ばれる共用ゾーンとの一体利用も考慮されている。スタジオは外壁側にガラス窓を持つ開放的な空間で、隣接する倉庫に覗き窓を設け、スタジオ調整室としての利用も可能とした計画である。練習室は生涯学習ゾーンのスタジオ上階に3室、大ホールゾーンに楽屋兼用として1室の計4室である。大ホールゾーンの練習室はホールの使用のない場合の利用を前提とし、中小楽屋、会議室利用を考慮し、可動間仕切りが設置されている。このゾーン、当初計画ではワークショップ等の議論から芸術創造センター的な性格の充実した施設として計画されたが、予算等の関係で縮小されたものとなった。
この施設の共用・管理ゾーンは、ホールと生涯学習ゾーンの中間に位置し、施設のエントランスでもあるアートプラザを中心とした空間である。その大ホールホワイエ側に続く隣接空間には情報コーナー、カフェ、企画事務室、ギャラリー、工房が設けられ、また、大ホール舞台側に管理事務室が配置され、大ホールの利用の有無にかかわらず、日常的な利用で施設の賑わい、出会いを演出している。
音響計画
ここでは幹線道路に隣接した比較的狭い敷地の中での2つのホールとスタジオ、練習室等諸室の配置に対応した遮音計画、ホールの性格に適した室形状等の室内音響計画、舞台設備としてのバランスのとれた舞台音響設備計画が音響計画上の主な検討内容であった。
遮音については大ホールゾーンと生涯学習ゾーン間にEXP.J.を設け、中庭、アートプラザを介してエリアを分けることで、大ホールと多目的ホール、スタジオ、練習室群との動線を分離させるとともに、同時使用の音洩れの問題を解決した。また、生涯学習ゾーン内の近接する各室間の遮音に関してはスタジオ、練習室の各1室を電気楽器等の使用を前提とした大音量対応の室として、浮き遮音構造とした。このゾーンは鉄骨構造ということもあって、遮音工事にはコンクリート構造では考えられないような苦労もあったが、大ホールと多目的ホール間で80dB以上、近接するスタジオと練習室間でも90dB以上の性能が得られている。大ホールのコンセプトは最近の多くの文化会館に採用されているように、多目的使用を前提にクラシック音楽を主体とするというもので、これを実現するために舞台反射板設置時に、初期反射音の空間的、時間的バランスという音響面から舞台と客席が一体となるような形状と十分な天井高さを確保した。また、プロセニアムスピーカについてはプロセニアムの額縁全体をスピーカ開口として納めることで室形状への影響を少なくしている。舞台反射板設置時のホールの響きは豊かで、その残響時間は満席時1.8秒(500Hz)、舞台幕設置時が1.5秒である。
文化施設の敷地の立地条件として、周辺環境を意識した文教地区等の静かな敷地、市街地の活性化、経済効果を狙った中心地区、交通の利便性よりの選択等、検討項目が多岐にわたり、なかなか理想的な条件が得られないのが実情であろう。施設の性格、利用の形態、周辺の飲食、商業施設との連携、役割等々の議論も欠かせないが、地方都市での車社会を考えると、何よりも駐車スペースの確保が重要である。一方、老齢化の進む社会では公共交通機関のサポートも無視できない。こうした中で、東北に最近できた北上市の文化交流センター(先月紹介) とこの原町市の施設は対照的である。どちらも計画から運営に至るまでの市民参加の取組み等、ソフト面での立上げとハードへの対応などワークショップを通して施設を構築する手法の市民参加型のプログラムであるが、立地条件は大きく違う。駐車場の問題だけでなく、北上の潤沢な敷地はホールの裏方、共用部分にも余裕が見られる。一方、中心市街地に建設された本会館は広さの点では制約はあるが、上記のようなゾーニングなど、様々な工夫がなされている。地の利を生かした今後の運用に期待したい。(池田 覺記)
(財)原町市文化振興事業団 TEL:0244-25-2767 (http://www.yumehat.or.jp/)
一橋大学「兼松講堂」リニューアルオープン
兼松講堂が1年間の改修工事を終えて新しく生まれ変わり、3月18日に竣工式が執り行われた。兼松講堂は1927年(昭和2年)、兼松商店(現 兼松株式会社)から、創業者兼松房治郎氏の13回忌の追慕記念事業として寄贈され、伊東忠太の設計によって建てられた、一橋大学国立キャンパスの象徴的な建物である。ネオロマネスク様式を取り入れた優雅な外観は、同じレンガ作りの建物の多いキャンパス内でも一際目を惹く。卒業式や入学式などの式典やクラブ活動の場所として十分活用されていたものの、老朽化による傷みが激しく、せっかくの歴史ある建物も古びた汚い建物に化していた。このような状況を見かねた卒業生の発案によって改修の話が持ち上がり、そして今回、見違えるように変貌した。
募金による改修工事
今回の改修工事費用のほとんどは、一橋大学の同窓会「如水会」による募金で賄われており、総額は9億円にもおよぶ。現在も募金活動は継続中だが、募金で改修工事を行おうという心意気はさすがである。
改修の内容
改修工事は耐震に関わる工事が中心に行われた。その他にも損傷と汚れが目立った外装の保存修復と洗浄、窓枠の取り替え、客席椅子の取り替え、舞台周りをはじめとする講堂内部の補強と修復が行われた。建物のあちこちにデザインされた怪獣たちの中には損傷のひどいものもあったが、これも見事に修復された。改修前にはスピーチの拡声音が聞き取りにくいというクレームが多く、舞台上の話し手がしゃべりづらくなっていることもわかったので、プロセニアムセンター、アンダーバルコニーおよび固定はね返りの各スピーカを新設し、他の機材も更新した。また、改修工事前には冷暖房設備がなく夏・冬の暑さ、寒さは我慢の限界を超えていたことから冷暖房設備も設置した。ただし、ダクトの設置箇所が確保できないことやコンサートに適した静けさを確保するには経費がかかることから、客席内に冷暖房設備を設置する程度(開演中は停止する)の改修に止めざるを得なかった。改修の設計は㈱三菱地所設計、工事は創設時の工事も行った㈱竹中工務店である。 竣工式では学長始め来賓の挨拶、また卒業生の渡辺順生氏によるフォルテピアノの演奏が行われた。スピーチの明瞭度も十分、フォルテピアノの演奏も明るくきれいになった講堂に優しく典雅に響きわたった。 (福地智子、菰田基生記)
NSCA Systems Integration Expo 2004報告
3月19~21日の3日間、NSCA(National Systems Contractors Association)の展示会がラスベガスのコンベンションセンターにおいて開催された。音響設備をはじめ監視カメラやカードキー、火災報知器など様々な弱電設備のシステム関連製品の展示会である。
ここ数年注目のラインアレイスピーカは、ほとんどの大手スピーカメーカで大型と中型など規模別に複数のモデルがラインナップされ、各社ともほぼ出揃った感がある。ラインアレイ以外のスピーカの新モデルもいくつか発表されていたが、従来機種の改良が主で、ラインアレイスピーカの時のような新しい流れに至るものはなかった。
パソコンでプログラム可能なデジタルシグナルプロセッサ(DSP)製品では、DSPをスピーカやアンプに組込み、従来のイコライジングやディレイ機能に加えてスピーカやアンプの監視や制御まで行う製品や、デジタルミキサーと組み合わせて出力マトリクスとして機能する製品など、異なる機器を一括して制御するものが見られた。現時点では同一メーカ製品に限られるが、サードパーティ製品の充実により汎用性が高まることが期待される。このような音響設備のネットワーク化の流れは、今後益々注目されるところである。
会場でのセミナーで”sound of worship”と題した教会におけるミキサーとイコライザの基本的な操作実習があった。米国ではホール並の設備を導入した大規模な教会が業界誌等でしばしば紹介されており、本格的なオペレートを行う教会も珍しくない。音響設備をオペレートすること自体が稀な日本の教会との大きな違いを感じた。
展示会の前夜、CAESAR’S PALACE HOTELでセリーヌ・ディオンのショーを見ることができた。セリーヌ本人はもちろんバンドやダンサーもすばらしかったが、凝った演出やダイナミックレンジが広く、クリアでバランスが良い音をサポートする舞台設備の充実度は、ホールの建築と共に十二分に本格的なものだった。ホテルのショーという日本の感覚からはとても想像できないクオリティである。
写真のように展示会の様子は日本とさほど変わらないが、機器が使われる現場では日米の違いを感じられた3日間だった。(内田匡哉記)
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