No.190

News 03-10(通巻190号)

News

2003年10月25日発行
Exterior of Izumi City Plaza

弥生の風ホール ― 和泉シティプラザ ―

 大阪・和泉市が、都市基盤整備公団のニュータウン“トリヴェール和泉”に建設を進めていた“和泉シティプラザ”が2003年4月にオープンを迎えた。

トリヴェール和泉と和泉シティプラザ

 トリヴェール和泉は大阪南部のやや内陸に開発されたニュータウンで、その中心駅である和泉中央から難波までは泉北高速鉄道で40分弱の距離にある。東京で言えば都心と多摩ニュータウンの関係が想起される。和泉市が新時代のシンボルとして計画・建設した和泉シティプラザは、和泉中央南側の一段高い丘の上に建っており、このあたりも多摩センター駅の南側の丘の上に建つパルテノン多摩(本ニュース2001年9月号)に似ている。

Exterior of Izumi City Plaza

 和泉シティプラザは地下2階・地上5階、延床面積約24,000㎡の大型複合施設で、和泉市民の学習・生活・文化活動を支える生涯学習センター、図書館、保険福祉センター、男女共同参画センター、市役所出張所、および“弥生の風ホール”が集結している。設計監理:(株)佐藤総合計画、劇場コンサルタント:ATネットワーク、施工:(株)大林組である。当社は、弥生の風ホールおよび生涯学習センターのリハーサル室・スタジオの音響設計監理を担当した。

弥生の風ホール

 “弥生の風ホール”という名称は、施設の愛称である“和泉シティプラザ”とともに一般公募で選ばれた。市内で発掘・調査された弥生時代の集落遺跡として有名な池上曽根遺跡に由来しているという。ホールは客席数664席で、コンサートをはじめ演劇や寄席などに利用できるプロセニアム型多目的ホールである。

楕円の平面形状:ホールの客席は楕円の一部を切り欠いた平面形状である。厳密に言うと、客席が設置された段床を囲む側壁下部は楕円であるが、セットバックした側壁上部は舞台間口に向かって狭まらない、やや奥行き方向に長い馬蹄形である。この上部側壁の前面(客席側)には床の楕円形状に沿って飾り柱が並べられているので、視覚的には楕円形の雰囲気がうまく創り出されている。設計段階で、コンピュータを用いたシミュレーションにより、この形状でも顕著な音響集中現象が生じないことを確認している。

側壁下部のリブ仕上げとその背後:楕円形の側壁下部は木質のリブ仕上げである。リブ材を周期的に縦に並べると、耳の高さで個々のリブからの反射音の相互干渉による特異現象が生ずる恐れがあるため、ここではリブ材を横使いしている。リブ背後の壁面は反射性であるが、一部くり抜かれて居住域空調のための吹き出し器具(フロアマスタ:スイス製)が設置されている。サプライエアーは飾り柱の中を通ってこの吹き出し器具に供給されている。

Plan of Yayoi-no-kaze Hall
(株)佐藤総合計画・関西

上手側壁はガラス:客席の上手側はガラス窓で、外光を取り入れるとともに外からホール内の様子を見ることができる。ホールの外側は桃山学院大学への徒歩通学路となっているので屋外の主な騒音源は通行する人の会話や足音などで、屋外との遮音を確保するためにこの部分は幅2mの空気層を介した2重窓構造である。500Hzにおいて65dBの遮音性能が得られている。催し物によって必要となる遮光は、空気層内にカーテンをまわすことで対応できる。

すっきりした天井:客席の大天井は、客席面に均一な反射音分布を得るのに有利な、下向きに緩やかに撓んだ形状である。ホワイト系のペンキ仕上げで、照明器具や空調吹き出し器具などが一切なく、非常にすっきりした天井に仕上がっている。設計者のこだわりである。客席の照度は、飾り柱の根本に埋め込まれた器具からの間接照明と柱の後ろ側の天井周縁に埋め込まれたダウンライトにより確保されている。また、空調システムは、側壁下部のリブと天井周縁部から吹き出し、床から吸い込む方式である。

Yayoi-no-kaze Hall (Audience View)
Yayoi-no-kaze Hall (Stage View)

写真提供:(株)佐藤総合計画・関西

パーツ数の少ない音響反射板:音響反射板は、国内の多目的ホールに一般的に見られる吊り込み方式である。正面、側面、および天井の各反射板はそれぞれ1枚ずつの最小枚数で構成されている。正面および天井反射板がフライタワーの最も奥まった位置に並んで吊り込まれるのが特徴で、舞台上部のほとんどのエリアを照明および道具類の吊り込みに使用できる。これは劇場コンサルタント近江氏のアイデアである。天井反射板に埋め込まれたダウンライトも、通常は直線上に配置されるが、ここではホールの平面形を意識して円形に配置されている。また側面および正面反射板の仕上げ色も、客席からの連続性を意図して下部はダーク系、上部はホワイト系で塗り分けられている。

ホールの響き

 空席時・中音域の残響時間は、音響反射板を設置したコンサート形式1.8秒、舞台幕設備をセットした講演会形式1.3秒である。残響時間の変化幅0.5秒は舞台設備の転換のみによるもで、様々な用途に適した響きのホールと考えている。残念ながら実際の催し物に接する機会はまだないが、市民の方々に愛され親しまれるホールとして今後の活躍に期待する。 (小口恵司記)

和泉シティプラザ:http://www.izumicityplaza.or.jp/

米国カンザスシティー
パフォーミングアーツセンターのプロジェクトを受注

 米国ミズーリ州の州都であるカンザスシティー(人口約44万人)に総予算約350億円の大規模なパフォーミングアーツセンター(Metropolitan Kansas City Performing Arts Center)のプロジェクトが計画されており、その音響設計業務を永田音響設計が受注した。(http://www.kansascity.com/mld/kansascity/entertainment/6893091.htm

 このセンターはリリックオペラ、カンザスシティー交響楽団、カンザスシティー・バレエが主なテナントとして入り、またその他のローカルな芸術団体の活動の場としても活用される予定である。現時点では2,200席のオペラ・バレエ用劇場と1,200席+αのコンサートホールが計画されており、将来的にはさらに500席の小劇場が追加されることになっている。

Metropolitan Kansas City
Performing Arts Center Exterior
Design by
Moshe Safdie and Associates

 建築設計は、ボストンに本拠を置くMoshe Safdie and Associates、劇場コンサルタントとしてはTheatre Projects Consultantsが各々担当している。

 このセンターは公共プロジェクトとしてスタートしたのでなく、カンザスシティーの名士であった実業家 Ewin Marion Kauffman とその妻、Muriel McBrien Kauffman の芸術と教育に対する強い愛情と貢献から生まれ、そしてそれらが、夫妻の娘である Julia Irene Kauffman を始めとする実業家や指導者たちに引き継がれて現実化されてきたものである。Kauffman 夫妻は1990年代に亡くなっているが、このプロジェクトが発表された2001年の時点で夫妻がそれぞれに設立した2つの財団から約120億円もの寄付が約束されていた。このような市の大規模な公共建築物に対して一家族が総予算の1/3以上も寄付するという例は、アメリカでもそう多くはない。故 Kauffman 氏は、アメリカンドリームを生きた人で、自分の成功から得た利益を地域に還元するということに徹した人でもあった。このセンターが完成すれば、地域の文化・教育的レベルが向上するとともにカンザスシティーの中心地に活気が生まれ、企業誘致や観光客呼び込みにも大いに役立つと期待され注目を集めている。(豊田泰久記)

オルガンコンサート開催のお知らせ

 コンサートホールの舞台正面によく見かけるパイプオルガン。パイプオルガンは1台でいろいろな音色を持つ、いわばオーケストラのような楽器である。しかし、パイプオルガンの響きを体験することは少なく、また、あの大きい楽器の内部を覗いたことのある方も少ないのではないだろうか。ここでご紹介するコンサートでは、開演前にロビーで小型のポジティヴオルガンの構造を見たり音色を聞いたりもできて、オルガンの知識を深められるようなことも計画されている。コンサートは今後4回予定されていて、第1回目の今回はいろいろな音色を体験していただくということで「オルガン・オーケストラ」と題して、オーケストラ曲中心のプログラムになっている。

 開催日は2004年1月10日(土)14:00開演、場所はすみだトリフォニーホール・大ホール

 チケット料金は一般2,500円、65歳以上1,500円(このニュースをご覧になった方は一割引)。チケットご希望の方は、直接、すみだトリフォニーホールチケットセンターに「永田音響設計のニュースを見た」とおっしゃってください。

室内音響学 建築の響きとその理論

ハインリッヒ・クットルフ 著 藤原 恭司・日高 孝之 訳
[市ヶ谷出版社 2003年8月 定価 7,000 円+税]

 著者のKuttruff教授はアーヘン工科大学音響工学研究所の名誉教授として室内音響一途に研究活動を続けてこられた学者である。

 本書の初版‘Raumakustik’が出版されたのが1969年、その英語版が1973年、本書は第4版の日本語版である。

 室内音響といえば残響理論が出発点であるが、境界壁での反射ひとつ取り上げてみても波動の知識を必要とする。また、ホールの音響効果と反射音の時間構造との関係も室内音響研究の大きな課題である。本書では境界壁での反射や拡散などの室内音場の基礎的な諸現象が明確な数学モデルによって説明されるとともに、反射音の構造と音響効果との関係、電気音響設備による残響付加から、最近のデジタル技術を取り入れた拡散手法、室内音響測定法、音場シミュレーション手法など室内音響の最近の話題が取り上げられている。

 本書は藤原恭司、日高孝之両氏の精力的なご努力によって、原著の密度の高い内容が明解な日本語版として刊行されたものである。室内音響を志す者にとって座右の書というべき著書である。 

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