No.189

News 03-09(通巻189号)

News

2003年09月25日発行
Exterior of River Walk Kitakyushu

北九州芸術劇場 開場 ―リバーウォーク北九州―

 本年8月11日、北九州市の新しいシンボル、“リバーウォーク北九州”の主要施設の一つである“北九州芸術劇場”が、野村萬斎氏の“三番叟”と野村万作氏の狂言“末広がり”の祝賀公演でこけら落としを迎えた。

リバーウォーク北九州

 小倉城と小倉市役所の北側で紫川の西側、旧小倉北区役所や玉屋デパート・ダイエーがあった室町1丁目地区に、再開発事業で“リバーウォーク北九州”が誕生した。リバーウォークとは、紫川の水辺を心地よく歩いてほしいという思いからのネーミングであるという。施設外観は彫刻的な5つのブロックで構成されているように見え、商業・飲食のダイエーと専門店街、情報発信のNHK北九州放送局と朝日新聞西部本社、シネマコンプレックスのTジョイ、そして芸術文化の北九州芸術劇場など、多彩な機能が複合されている。総合プロデュースは博多のキャナルシティーも手がけたエフ・ジェイ都市開発(株)、基本デザインはやはりキャナルシティーを手がけたザ・ジャーディ・パートナーシップ社、設計監理:(株)日本設計、劇場コンサルタント:(株)シアターワークショップ、施工:前田建設工業(株)である。当社は実施設計の後期からプロジェクトに参加し、北九州芸術劇場の音響設計監理、施設全体の建築音響設計監理および大店立地法の騒音予測評価を担当した。

Exterior of River Walk Kitakyushu

北九州芸術劇場

 北九州芸術劇場は、大ホール、中劇場および小劇場を中心施設とする複合文化施設で、リバーウォーク北九州の5階以上に横断的に配置されている。各ホールの下階には別機能の施設(小劇場については上階にも)が配置されており、音響設計監理ではホールと上下階の間の遮音が最重要課題の一つであった。大ホール・中劇場と下階との間は原則としてコンクリートスラブ2層で区切るとともに、舞台空間の床・壁に防振遮音構造を採用した。また、小劇場は上下階への影響を考慮して、ボックス・イン・ボックスの遮音構造となっている。

3つのホール

 大ホール(1,269席)はプロセニアム型多機能ホールで、客席は木の柔らかいウェーブに囲まれた暖かい雰囲気に包まれている。客席数1,300席弱ながら2段のバルコニーを備えており、舞台への視覚的な近さを重視した劇場指向のホールである。大ホールは本年10月に閉館する小倉市民会館(1,492席)の代替ホールとしても位置づけられており、コンサートの際には正面反射板(走行式)から伸びた腕に支持された側面および天井の反射板パネルを閉じてステージ空間が構成される。この珍しい方式の音響反射板は、吊り下げ式に必要な舞台フライズの収納スペースや門型の走行式反射板に必要な舞台奥の収納スペースが不要、という特徴がある。

Interior of the Hall
Retractable Orchestra Shell

 中劇場(700席)は1段のバルコニー席を有するプロセニアム型演劇劇場で、舞台から客席最奥までの距離が17.5mと、舞台と客席の距離が非常に近い。舞台床も含めて劇場全体がダーク系の色調でまとめられており、観客が舞台に集中しやすい配慮がなされている。

 小劇場(120席~261席)は平土間型演劇劇場で、朝日新聞社の協力を得て“朝日記念シアター”の名を冠している。比較的単純な床・壁に対して天井は全面にスノコが流れており、“なにもない空間”に自由に舞台と客席を配置して空間作りから始められる実験スタジオの性格を持つ劇場である。

Interior of the Theatre

 各ホールの響きは劇場という性格を考慮して比較的短めで、中音域・空席時の残響時間は、大ホール:1.7秒(音響反射板)・1.2秒(舞台幕)、中劇場:0.9秒、小劇場:0.8秒である。

大ホールの響き

 オープン直前の7月には、総合リハーサルを兼ねて北九州市ジュニアオーケストラの公開リハーサル(音響反射板設置・聴衆約900人着席)が行われた。響きはそれほど長くないものの、柔らかさや暖かみが感じられ、まずは胸をなで下ろした。また、こけら落としの祝賀狂言の明瞭度も良好であった。

運営体制

 北九州芸術劇場は響ホール(コンサートホール720席)とともに(財)北九州市芸術文化振興財団が運営にあたっている。芸術劇場は“創る”“育てる”“観る”をキーワードに、外から公演を招聘するだけでなく、オリジナル作品を創造・発信し、さらに地元への啓蒙活動、ネットワーク作りや地元団体への支援を通じて、舞台芸術が根付く土壌を育む活動を展開している。そのために、プロデューサ、ディレクタを含む60名余の充実したスタッフ陣を擁している。毎年開催される北九州演劇祭は今年で11回目を数え、その活動は全国的にも注目されている。同演劇祭とやはり15回の歴史を持つ国際音楽祭の新たな拠点として、また北九州の舞台芸術の要として、今後の充実した活動に期待したい。(小口恵司記)

北九州芸術劇場: http://www.kitakyushu-performingartscenter.or.jp/
リバーウォーク北九州:http://www.riverwalk.co.jp/

スピーカについて考える

 昨年のNEXO社(仏)、JBL-Professional社(米)につづき、今年7月にドイツd&b audiotechnik社を訪問した。ホールに設置されるスピーカは、拡声音のクォリティの大半を決めるもっとも重要な機材と位置付けられる。電気信号はスピーカによって、実際に空気中を伝播する音に変換されるため、その固有の性質をよく理解することがシステム設計の出発点となり、結果的に「よい音」に結びつくものと考える。ところが、その性質は個々のスピーカ、スピーカメーカによってかなり異なるのである。

 スピーカをホールに設計・設置する我々の立場では、仕様表や性能データを読み、試聴会で音を聴くだけでは不十分なのである。細かな使用条件、目標とした性能や音質、作る上での苦労、達成できなかった点などの言葉で表現しにくい、様々な本音のところが知りたいのである。そこで、メーカの方向性を決める中心的立場の開発者や代表者の考え方と仕事の進め方、製品の背景、開発体制や製造体制などを、実際に会社を訪ねて自分の目と耳で確かめる必要が生じる。この点でスピーカメーカを訪問することは、オルガンを購入するときにオルガンビルダーを訪ねることと同じ意味を持つ。

 さらに、日本における音の好みや動向、設置条件などの要望を直接伝え、より我々が使いやすい製品に修正してもらうことも、訪問の重要な目的のひとつである。スピーカメーカやその人々との交流を通じてスピーカを深く理解すれば、何年かの間、安心してそのスピーカを使い続けられるようになる。スピーカの信頼性は人に依存するのである。

 70年以上も原理的に変わってないにもかかわらず、スピーカほど流行の波を受ける音響機材はない。マイクロホンは同じ機種が何十年も使い続けられているし、ミキサーや効果機器類はデジタル信号処理技術の発展の影響は受けるが、直線的に変化しているように見受けられる。ホールにおけるスピーカの形態は1970年代から1980年代にかけて、高音域ドライバー、ホーン、低音域スピーカを個々に組み合わせる2Wayのコンポーネント型スピーカが一世を風靡した。メーカはAltec Lansing、Electro Voice、JBLが中心であった。

 次に1980年代後半から1990年代にかけて高音域および低音域ユニットが一体となって箱に収められたワンボックス型のスピーカが主流となる。Apogee Sound社、EAW社、Meyer Sound社に他社も追従した。さらに中音域ホーンを追加した3Wayワンボックス型のスピーカもよく使われるようになった。超低音域スピーカと組み合わせると4Way型が構成でき、実用上の再生帯域が拡大され、ポピュラー音楽が無理なく再生できるようになったのである。また、中音域にホーンを用いることでスピーチの明瞭さもかなり向上した。

 ワンボックス型のスピーカは当初コンサート用に開発されたため、低歪み、高出力が特徴である。これには、専用のプロセッサが大きく貢献している。各帯域のレベルバランスや基礎的なイコライジングをプリセットすることで良好な音質が容易に得られるように、同時に広いダイナミックレンジを確保し、破壊を未然に防ぎ、耐久性や信頼性を高めているのである。ゆえに制御型スピーカとも言える。専用プロセッサの使用が一般的になるに従い、音響調整卓とパワーアンプの間に挿入していたイコライザ類、コンプリミッタ、ディレイマシン、チャンネルディバイダなどの補正用機器は、デジタル信号処理技術を取り入れて機能を統合したスピーカマネージメントシステムに発展した。

 1990年代中ごろに出現したラインアレイ型スピーカは、ワンボックス型のスピーカを何台も縦に接続して形成される。水平方向の指向特性に乱れが少なく、クリアな音質が遠くまで保持されることが特徴で、吊り込みや音質補正などが容易であることから急速に普及している。当初はL-ACOUSTICS社(仏)一色の感があったが、今では各スピーカメーカが手がけており、新製品の発表も続いている。このラインアレイスピーカは、平坦で広い会場に向くことは確認されているが、段床の傾きが大きくバルコニー席が何層もあるような劇場・ホールに適合するかどうか、断定できるほどの経験がまだない。いくつかのミュージカルで小型のラインアレイスピーカが使われ始めているので、今後の評価に注目したい。

 d&b audiotechnik社のスピーカは、試聴会において安定した高い評価を得ている。そのスムーズで整った印象を受ける高音域の音質が日本人の好みにぴったり合っているのではないかと思われる。これには専用パワーアンプ内に個々のスピーカに適合するフィルタや遅延回路が挿入されていることが大きな力を与えているようだ。使用されているスピーカユニット自体は一般的なもので、他とたいした違いがないのである。

 d&b audiotechnik社はドイツの南部、シュツッツガルトから電車で30分あまりのバックナンという小さな町にある。小川のほとりで元紡績工場を改装して社屋に利用している。米国のEAW社もマサチューセッツの元紡績工場を改装しながらスピーカ工場を拡張していったことが思い出された。スピーカ工場としては米国のように大規模ではないが、トヨタのカンバン方式を取り入れた、整然として効率のよさそうなところが印象に残った。街中やレストランで聞こえてくるドイツ語の会話は、内容はわからないものの、音として母音と柔らかな子音のバランスがまるで日本語のように聞こえたことに驚いた。スピーカの特徴をつかむには、まずスピーチで拡声テストをしろとよく言われる。スピーカの音質には産み出された地域の言語の特徴がかなり影響しているのではないかと感じていたが、より確信に近くなってきた。フランスで作られているNEXO社やL-ACOUSTICS社のスピーカの音は、洗練された繊細さの中高音域と明瞭さのある低音が特徴と感じられるが、これもフランス語を音として聞いたときの印象に近い。

 欧州のスピーカがポピュラーになって、選択範囲が急速に広まってきたのは好ましいことではあるが、欧州にできるなら日本からも特徴のあるスピーカを世界に向けて発信できるに違いないという、ほのかな希望が見えてきたドイツ訪問であった。(稲生 眞記)

菅 弘子さんのソプラノリサイタルのご案内

 菅 眞一郎さんを覚えていらっしゃいますでしょうか。建設業界の音響の中心的存在で、業界、学会等で取りまとめ役としても活躍されていた菅さんが、鹿島建設技術研究所在籍中の1997年5月に病で急逝されたのが、ついこの間のように感じられます。その菅さんの奥様、弘子さんのソプラノリサイタルが銀座の王子ホールで10月31日(金)19時より開催されます。弘子さんはご主人眞一郎さんが携った音楽ホールで是非リサイタルを開きたいという希望を抱いておられ、永田にも相談したところ、それなら王子ホールでということで、念願のリサイタルを計画されたそうです。

お問合せ:家永音楽事務所 03-3714-7803

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