No.185

News 03-05(通巻185号)

News

2003年05月25日発行
メインホール客席

キラリ☆ふじみ オープン

 2002年11月、埼玉県富士見市に市民文化会館「キラリ☆ふじみ」が誕生した。本施設は富士見市の市制30周年記念事業として建設されたものである。東武東上線ふじみ野駅から車で10分程(鶴瀬駅からは車で5分程)の、富士見市役所、市民体育館、中央図書館が立ち並ぶコミュニティパークの一角に位置する。総合プロデューサーは劇作家・演出家の平田オリザ氏が務めている。設計・監理はA&T建築研究所、劇場コンサルティングはA.T.Network、永田音響設計は建築音響設計・設備騒音防止計画を担当した。施工は三井建設である。

施設配置図

施設概要

 本施設はメインホール、マルチホールとスタジオ、展示・会議室、展示室、アトリエからなる文化支援施設で構成されている。それぞれの施設は水の広場(カスケード・ラグーン)を囲うようにコの字型に配置されている。

メインホール

 メインホールは802席の劇場型多目的ホールであり、メインフロアを取り囲むようにブロック形のバルコニーが配置されている。バルコニーとその背後の裏通路の境には四角い棒状のブロックがルーバー式に取り付けられており、その背面には客席へ反射音を返すためにガラスが設置されている。また、各バルコニーブロックの壁面についてもメインフロアへ反射音を返す角度となっている。プロセニアム開口は幅16.3m、高さ9m、客席天井最高部の高さは舞台床面から約12mである。また、舞台先端から客席最後尾までは約26mとコンパクトに設計されており、バルコニー席から見る舞台は視覚的にも大変近く感じる。客席照明を暗くすると、バルコニー背面のルーバー越しに見える裏通路の赤い壁面が照明で浮かび上がり暖かく客席を包み込む。

メインホール客席

 メインホールの残響時間は、舞台音響反射板設置時には約1.9秒(空席時)、約1.5秒(満席時)、舞台幕設置時には約1.4秒(空席時)、約1.2秒(満席時)である。

 遮音計画としては、本ホールはマルチホール、文化支援施設ゾーンと平面的に離れた配置としているため、特別な遮音構造は採用していない。一方、敷地の東側には富士見川越有料道路が隣接しており、設計当初からその道路交通騒音が懸念された。メインホールの舞台がこの道路の最も近くに位置しているため、舞台大道具搬入口には2重遮音シャッターと防音扉を併設してある。

マルチホール

 マルチホールは、平土間型から移動観覧席を設置したエンドステージ型への転換が可能な多機能型ホールである。移動観覧席・可動席設置時には255席を収容する。このホールは隣接するホワイエ間の回転式可動壁を開けると、ホワイエと一体で利用出来るように計画されている。さらにホワイエ─コリドー間のガラスの可動間仕切を開け、コリドーのサッシを全面解放すると、マルチホールと水の広場を望むデッキを一体で利用することができる。マルチホールの残響時間は、平土間形式で1.3秒(空室時)、エンドステージ形式で0.84秒(空席時)、0.78秒(満席時)である。

スタジオ

 文化支援施設ゾーンにはスタジオA~Dの大小各2室、計4室のスタジオがある。このうち、小スタジオB、Cはロック等大音量を発生する使用条件にも対応できるよう防振遮音構造を採用しており、各スタジオ間、スタジオ─マルチホール間で高い遮音性能を実現している。

市民参加とホールを支えるボランティア

 本施設では様々な形で市民参加が行われてきた。その概要について、市民参加を支援し、開館後は運営アドバイザーとして活躍されているA.T.Network近江哲朗氏に伺った。

 平成12年度に設立された運営検討委員会には公募により26名の市民が参加しており、運営方式・事業展開の考え方の基盤づくりの検討が行われた。また平成13年に設立された開館記念事業実行委員会には公募により50名の市民が参加し、プログラミング、制作活動などが実施された。このホールの愛称「キラリ☆ふじみ」も約300案の応募から選定されたものである。そして平成14年にはキラリ☆ふじみのサポーター(ボランティア)「キラリスト」を募集し、現在アートスタッフ(自主事業ポスター製作・パンフレットデザイン・市民美術展の運営)やレセプショニスト(自主事業時のチケットもぎり・客席案内)として活動している。また、将来的には舞台製作を補助するホールスタッフとしての市民参加も予定しているということである。

 今年1月、メインホールでオープニングシリーズのウィーン・リング・アンサンブル ニューイヤー・コンサートを聴いた。新年の喜びを表すような賑やかで楽しいコンサートで、観客も大変な盛り上がりであった。劇場型多目的ホールといいながらも、客席がブロック形バルコニーで囲われていることが音響的によい効果を生んでいるのであろう、(舞台反射板設置時には)生音のコンサートに十分適した空間に仕上がっているようだった。また、コンサートの際のレセプショニストの方々の仕事ぶりには、大変感じの良い、丁寧な応対をしているという印象を受けた。(箱崎文子記)

問い合わせ先:Tel:049-268-7788、URLhttp://www.city.fujimi.saitama.jp/culture/index.htm
富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ:Fujimi Culture Hall KIRARI☆FUJIMI

オルガン関係二つの本の紹介

癒しの楽器 パイプオルガンと政治 草野 厚著 文芸新書298 定価714円

 著者の草野さんは毎日曜日午前10時、テレビ朝日のサンデープロジェクトのレギュラーメンバのお一人である。ご専門は政治学、政治とオルガンとは月とスッポンほどの距離があるが、ご本人は芸大の指揮科を受験されたほどの音楽通、それに、自宅に練習用のオルガンまでもっておられるオルガンファンである。本書は著者が1年間のサバチカル休暇を利用して、オルガンを設置した全国のホール40カ所を訪問し、そこで、オルガン運用の実態、設置までのいきさつなどを調査、その結果からわが国のオルガン界の実態にメスを入れられた内容である。

 本書は9章で構成されるが、著者の論評の狙いは、日本オルガニスト協会というギルド集団と行政側の管理指向から生まれた公共ホールのオルガンの閉鎖性、オルガン機種選定委員会の構成、今でもくすぶっている東京芸術劇場のオルガンのトラブル、東京芸術大学音楽学部のオルガン導入にあたって仕組まれた異様な応募手続きなどである。

 実は私も、この著書でも批判のある日本オルガン研究会に入会して約20年になる。その間、短期間ではあるが会長までつとめ、いくつかのプロジェクトでオルガン委員会の一員としてオルガン選定の作業に携わってきた。それだけに、ここで名前の挙がっているオルガンの先生方とは長いおつきあいがあり、ガルニエとの関係を指摘されている鈴木雅明さんの演奏活動のお手伝いもしている。本来ならば、オルガン界を弁護する立場にあるといえる。しかし、あえて、その閉鎖性と選民意識に貫かれたオルガン界と行政の管理意識から生まれた権力構造、既得権益に対して、よくぞここまで喝破されたものと賛辞を送りたくなったのが本音である。

 オルガン界のリストラについてはオルガン研究会のオルガンニュースにも小文(1993年8月号、No.51)を寄せたこともある。この狭いオルガン界、オルガニスト協会とオルガン研究会が個人的な対立で2分している事自体、私が所属する音響学会をはじめとする諸学会では考えられないことであり、音響学会と建築学会では共同の研究会や見学会を当然のこととして随時開催している。私がオルガン研究会の会長の時、オルガニスト協会に共同の見学会を申し込んだが断られたという苦い経験がある。この独特のギルド意識、選民指向が、草野さんがオルガンの試弾を申し込んだときも、オルガニスト協会会員ではないと触ることさえできなかったという、考えられないような悪習慣を現在でも固持しているのである。われわれも、専属のオルガニストの立ち会いがなければ、蓋もあけさせてくれないということを音響設計を実施したホールで幾度も経験している。オルガンという楽器はローテクの最たるもの、普通にいじって壊れるような代物ではない。ピアノの打鍵機構の方が遙かにデリケートである。そうでなければ数百年もの間、石造りの聖堂の高いオルガンバルコニーで悪条件に耐えることなどできなかったはずである。これも、一部のオルガンビルダー、オルガン輸入業者と行政側の管理意識が作り上げた悪習の一つである。

 草野さんが指摘されている東京芸術劇場のガルニエオルガンのトラブルの問題、公開仕様書で決まった東京芸術大学のガルニエオルガンについて私見を述べておきたい。東京芸術劇場のガルニエオルガンの選考については私も委員であり、その責任を感じている。当時、この多様式のオルガンを複合するというガルニエの独特のアイディアに対しては全員賛成であった。しかし、オープニングの時の回転機構のようなトラブルは、もし、工房でチェックできていたら、このような事態を引き起こすことはなかったと思う。それに、トラブルに対しての実情が委員会には全く報告されてこなかったということも不可解である。トラブルが続いている噂は今でもくすぶっている。第三者による検討委員会で根本的な対策を打ち出すべきではないだろうか。

 鈴木さんのガルニエオルガンに対する思い入れはオルガニストとして当然のことであり、これを否定することはできない。しかし、草野さんも指摘されている応募仕様書の文面はどうみても不自然である。随意契約でガルニエを指名するという手続きの方がより自然ではなかったろうか。これは、壁画を発注するのに画家を仕様書で選定するといったような前代未聞の珍挙としかいいようがない。隠された何かがあると思うが、私がいえるのはこの点でしかない。

 現在、ヨーロッパの音楽界においてもオルガン音楽は片隅の存在になっている。しかし、オルガン音楽はクラシック音楽を育てた大きな泉であった。わが国の音楽界はこの泉を通り越してきた感がある。わが国の音楽界の基盤を深くする意味でもオルガン関係者は広い視野にたって、オルガン音楽の魅力をアピールしてほしいと思う。オルガン界では現在、毎年若いオルガニストが誕生しており、すばらしい演奏もある。若い方が中心となってこのギルド集団の閉鎖性、選民意識を改革してほしい。書評の枠をこえて私見を述べたことをお許しいただきたい。

 オルガン関係者には既知の内容である。行政側の方に読んでいただきたい一冊である。

パイプオルガン 歴史とメカニズム 秋元道雄著 ショパン 定価1,890円

 この著書は純粋のパイプオルガンの解説書である。著者の秋元道雄先生は東京芸術大学教授、日本オルガニスト協会会長などを歴任されたわが国オルガン界の長老である。かなりお年と思われるが、まだ、矍鑠(かくしゃく)として、オルガン研究に論文を寄せておられる。

 オルガンという楽器は一台、一台、その規模も、顔立ちも異なった楽器である。舞台の正面にでんと座っているだけに威厳があり、近寄りがたい風格を備えている。また、他の楽器にはない独特の音色をもっており、その音色に魅された方は少なくない。鍵盤を押して、パイプから音がでるまでの機構はまさに工芸品である。これが現在のコンピュータと違って、その機構を目で確かめ、手で動きを感じとれるのが魅力の一つである。

 本書の内容はオルガンの歴史、構造から演奏法まで扱っている。すなわち、

 第1章:パイプオルガンの起源と変遷
 第2章:バッハの黄金期から現代まで
 第3章:オルガン演奏台の諸装置
 第4章:オルガン演奏技法入門
 第5章:オルガニストと演奏

の5章の構成である。平易な文で解説された入門書であるが、オルガニストとして活躍してこられた方だけあって、演奏者から見たオルガンという印象である。(永田 穂記)

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