洋と和二つのホール、金沢に誕生
洋と和二つのホール、金沢に誕生 石川県立音楽堂がパイプオルガン設置工事の完成をみて、2001年9月12日にオープンした。開館記念事業として、ここを本拠地とするオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)等による柿落公演に引続き、来年3月まで、コンサートホールと邦楽ホールであわせて100公演が予定されている。
二つのホールと文化創造・交流のためのアンテナショップ的ホールが柱
この施設は、石川県がJR金沢駅東口前にコンサートホール、邦楽ホール、文化交流スクエア、OEKのフランチャイズ施設等からなる中核的文化交流施設として計画したものである。駅に隣接する細長い敷地に、その特徴を生かし、コンサートホールと邦楽ホールが舞台周りのスペースを共有するように中央コア部の管理、搬入、楽屋ゾーンを挟んで背中合わせに配置されている。駅側がコンサートホール、その反対側が切妻屋根の邦楽ホールのエントランスという洋と和の二つの顔を持つ施設である。駅前広場と一体となった立地に相応しい空間を意図して、ホールが開演していないときでも賑わいを創出できるようホールを2階に配置し、1階レベルがオープンなスペースとなっている。この解放された空間は地下階の交流ホールを中心とした練習室群、音楽資料室等からなる文化交流スクエアへとつながっている。この地下階は現在行われている工事が完成すれば駅前広場地下と直接結ばれる。
設計・監理は芦原建築設計研究所である。
ソフト先行の施設
OEKは1988年に石川県に設立された国内初の小編成室内オーケストラとして県内外のみならず世界的に活躍している。今回、このオーケストラのための待望のコンサートホールが完成し、ホールはあってもオーケストラまで持つ自治体の少ないわが国の状況にあって、オーケストラを育て、練習と本番のできるホールを持つという環境が設立13年目にして実現されたことになる。当然のこととして、OEKの事務局、楽器庫、譜面室、専用練習室、団員控室等の関連諸室が整備されている。また、伝統芸術の盛んな石川県において、その継承、発展させる場として誕生したのが邦楽専用ホールである。
新幹線の軌道沿いの敷地
北側が駅の東口広場に面し、南北に約147m、東西に約45~50mのほぼ長方形、しかも現在の北陸本線よりさらにホール寄りに北陸新幹線の開通が予定されており、すでに建設されている新幹線高架と敷地との距離が約12mという敷地条件である。このため鉄道騒音・振動の低減が音響設計の大きな課題の一つであった。
静けさへの挑戦
前述のように、隣接する既存の鉄道、および数年後に開通が予定されている新幹線による騒音・振動対策検討のために、基本設計段階での敷地の騒音・振動調査をはじめ、新幹線の影響検討のための類似条件下での現場調査を実施した。金沢駅には全列車が停車することから、騒音・振動とも、あまり大きくはないだろうと考えていた。しかし、この調査結果から、これらの騒音・振動源のうち新幹線の振動が問題となることが明らかになった。走行速度、車両長から駅近くでもその振動が大きく、距離的な減衰が期待できないだけに、ホールの浮き構造だけでは十分でなく、防振地中連壁を併用した。そして、これらの防振・遮音構造については、各施工段階で測定を行って防振対策の効果を確認した。この鉄道振動の遮断のための浮き構造の採用は、室間の遮音性能確保のための対策も兼ねており、結果としてホール、練習室等において静かな空間が実現できている。
OEKの本拠地となるコンサートホール
県民ホールというと2000席クラスかそれ以上の規模になりがちであるが、このホールの設計条件はシューボックス型、しかもその規模1560席というもので、OEKの通常の演奏活動にもとづいた条件が幅23m、奥行き54.5m、天井高さ20mという音響的にもあまり無理のない形状を生み出した。この基本形状の中で、サイドまである2層のバルコニー、設計者の意図からのやや凹面の天井形状、そして、音響的な条件から舞台上部に設けられた音響反射板が特徴である。また、木質系の内装は輪島塗りの拭き漆という手法で楽器のように丁寧に仕上げられている。ステージ正面の広げた扇子をモチーフにしたといわれるパイプオルガンは、カール・シュッケ社の69ストップ、4段鍵盤のドイツ・ロマンチックスタイルのものである。
残響時間は、満席時2.1秒である。なお、コンサートホールとしての雰囲気を損ねない範囲での式典、講演会等にも使用したいとの当局の要請に対応するため、舞台部に吸音幕を設置可能とした。吸音幕設置時の残響時間は幕の設置条件により満席時1.4~1.5秒である。
伝統文化を培う邦楽ホール
邦楽ホールは、間口16.6m、高さ6.3mのプロセニアム形式の舞台に、大小の迫りを内蔵した直径7間の回り舞台、そして可動式の本花道を有する邦楽専用ホールである。この大きな舞台に比べて客席はコンパクトで、主階席とこれを取り囲むように設けられた1層のバルコニー席とあわせて691席、国立劇場小劇場とほぼ同規模の劇場である。主階席の両サイドは畳の桟敷席になっている。船底天井に朱塗りの壁、輪島塗り、山中塗りの柱、欄間、椅子等、客席にちりばめられた伝統工芸技術が本格的な和物小屋の雰囲気を醸し出している。
音響設計では、紀尾井ホールの邦楽ホール計画時の調査結果をもとに、主として役者の声、楽師の音の明瞭さを基本に、形状、響きの検討を行った。邦楽といっても舞踊、文楽、長唄、三曲等、舞踊系から音楽系のものまで幅広い。そこで、これらに対応するために簡易な舞台音響反射板を設置した。残響時間は舞台条件により満席時1.2~1.4秒である。
オープニングイベントのOEKとウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏会を聴いた印象では、シューボックス型のしっかりとした響きを確認している。まだ、オーケストラとホールの共演がはじまったばかりである。これからが楽しみである。(池田 覚記)
石川県立音楽堂 金沢市昭和町20-1 TEL076-232-8101 http://www.ongakudo.pref.ishikawa.jp
3年目を迎えた大分県立総合文化センター
大分駅からアーケード沿いにそぞろ歩いて10分程度、大分県立総合文化センター、NHK大分放送局、全日空ホテルオアシスタワー、そして商業施設からなる“OASISひろば21”にたどり着く。“OASISひろば”の命名は、大分県立総合文化センターのオープン当時のNEWS 130号にもご紹介したように平松県知事によるもので、Ooita Asia Sekai International Squareの頭文字を組合せたものである。九州に降り立つと確かに看板や案内板に中国語や韓国語が目立つようになり、日本とアジアの結びつきを強く意識させられる。そのようなことも含んでの命名と考えられる。
10月2日から5日まで、大分大学で音響学会の秋期研究発表会が開催され、その特別企画が大分県立総合文化センター“音の泉ホール”で行われた。筆者はそこでホールの音響特性などの説明をするという役目を仰せつかったこともあって、オープン以来久しぶりに大分を訪れた。3年振りの大分は、やはり景気後退の影響を受けているようで、ホテルも閉鎖したり経営母体が変わったりしているという話をタクシーの運転手さんから聞いたが(実はOASISひろばの全日空ホテルもオープン時は第一ホテルだった)、海や山に恵まれた大分ならではの新鮮な魚やこくのある酒は健在で、前と変わらず魅力ある素敵な街だった。ほっと一安心。
この機会を利用して、大分県立総合文化センターがオープン後、どのように活動を展開しているか、事業部の関恵子企画事業課長と渡邊舜多郎ホール課長に話しを伺った。渡邊課長は以前大分県立芸術館におられ、設計の段階からホールのハード面についていろいろと相談に乗っていただいていたが、その後、こちらに来られて現在に至っている。ホールのハードについては隅々までご存じの方である。関課長は昨年からこちらのホールにいらしたということで、とても活動的なアイデアウーマンのようにお見受けした。
大分県立総合文化センターの主要な施設は、1954席の多機能ホールとして計画された“グランシアタ”と、音楽ホールとして計画された710席の“音の泉ホール”である。グランシアタでは、オペラ、ミュージカル、オーケストラやポップスのコンサート、芝居、歌舞伎、バレエ等、舞台設備をフルに使用した公演が多く催されており、計画に掲げたとおりまさに多機能に使われている。ポップスのコンサートでは大阪以西では大分だけという公演もあったとか。そして冗談交じりに話されていたが、大分で初めてのダフ屋も出たとか。とにかく2000席という規模が十分に活かされた運用の様子が実感できた。一方、音の泉ホールではやはり計画通り室内楽やリサイタルのコンサートが多いものの、講演会なども催されているということである。
自主企画は年20公演程度、内容は多種多様で、特筆すべきは昨年から自主企画公演に合わせたプレイベントあるいはレクチャーイベントを開催していることである。昨年はこの構想の初めての年だということもあり、様子見もあってプレイベントを8回開催し、その結果が好評だったことから、今年はレクチャーイベントに切り替えたという。レクチャーイベントとは、例えば9月と10月にそれぞれ開催された歌舞伎と文楽の公演を例に取ると、共通の演目である「仮名手本忠臣蔵」にあわせて、公演前の8月に講師を招いて「忠臣蔵を楽しむ」と題したレクチャーを開催する、というように公演に関連した内容について事前にお勉強をしようということである。レクチャーイベント開催のお知らせは、季刊発行のホールの機関誌“emo”や各公演のチラシの裏側や片隅にチョコッと載せている程度だが、100人程度の定員に対していつも満員になる。料金は講師によって500円程度の場合もあるが無料が基本だという。このイベントは地下階のリハーサル室や映像小ホールで行われている。地下階にはこれらの室の他に大中小の練習室が合わせて9室ある。そもそもこのイベントの開催目的は、地下階のこれらの室と地上階のホールを立体的に運用できないかということが念頭にあったそうだが、ホールの観客動員にも一役買った上手い企画ではないだろうか。
インターネット盛んなこの頃、公演の最新情報をホームページで閲覧できるホールが増えてきたが、大分県立総合文化センターのホームページは非常に充実している。一度覗いていただきたい(http://www.emo.or.jp)。またインターネット上で登録すると、定期的にメールマガジンが送られてくるシステムもある。常に新しい情報に接することができ重宝がられている。さらに上述のホール機関誌も発刊以来中身の濃い内容が続いており、このご時世で頑張っているな!と感じさせる。今年の夏の号から表紙のデザインが変わり自主企画を意識したデザインになっている。いろいろな側面が有機的につながるように考えられていて、夏の号のテーマは歌舞伎である。
観客動員に対しては公演情報をいかに伝達するかが重要であるが、隣がNHKということや、建物内に大分放送(OBS)のサテライトスタジオがあるなど、公演情報の伝達手段に事欠かないのは強みだろう。グランシアタではこの9月20日の公演で早くも入場者数50万人を突破した。上述したような新しい取り組みが功を奏しているに違いない。お話しを伺った後、二つのホールに隣接するアトリウムに立ち寄ったのだが、ホテルや商業施設が併設されているためか、平日の午後にもかかわらず多くの人達で賑わっていた。このアトリウムでは地下階の練習室で日頃練習してきた成果を披露するはじめてのコンサートが9月22日に催され、練習室だけではなくアトリウムも含めた建物全体で有機的な利用の展開が図られている。これからも前向きな新しい取り組みを期待している。(福地智子記)
連絡先:(財)大分県文化振興財団
〒870-0029大分市高砂町2-33 OASISひろば21内
TEL:097-533-4000 URL:http://www.emo.or.jp
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