No.166

News 01-10(通巻166号)

News

2001年10月25日発行

“やまと郡山城ホール”金魚と桜の名所に新たなるホール

はじめに

 今年6月に唐招提寺や薬師寺などにもほど近く、金魚の特産地として知られる奈良県大和郡山市に“やまと郡山城ホール”がオープンした。近畿日本鉄道の京都橿原線、近鉄郡山駅から徒歩5分程度の交通利便なところである。京都からの電車では駅に到着する少し手前で、右に“大和郡山城址”、左に“やまと郡山城ホール”が車窓から見える。この大和郡山城址一帯は桜の名所として知られ、春にはお城まつりでにぎわう。郡山城にちなんだホールの外観は、お城の景観に調和した瓦屋根と城壁様式の和風な意匠である。ホール建築では多目的ホールや演劇ホールでフライタワーがある場合、どうしてもその部分が突出する傾向があるが、本施設では法的な高さ制限もあり、舞台レベルが地下に採られたことから、あまりフライタワーを意識させない周囲によく溶け込んだ外観となっている。施設は市の芸術文化活動・交流の新拠点として、大・小ホール、会議室、練習室、展示室、図書館等を併設している。設計・監理は株式会社松田平田設計(大阪事務所)で永田音響設計は音響に関する設計・監理・測定を担当した。

大ホール

 メイン施設である大ホールは、コンサート形式840席、舞台幕形式1,013席の多目的ホールである。プロポーザル段階から舞台コンサルタントとして参画した株式会社ACT環境計画の提案もあり、クラシックコンサート時の舞台を前舞台迫りの利用で客席空間に設けることを前提とした方式を採用している。この方式はニュースで前に紹介しているふくやま芸術文化ホール”リーデンローズ”(1994年11月号)函館市芸術ホール”ハーモニー五稜郭” (1998年5月号)でも採用している。この方式の音響的な利点は、ステージ上の天井高がプロセニアム開口の制限を受けない点にある。多目的ホールではこのプロセニアム開口の高さの制限で舞台空間と客席空間が分割されてしまう傾向が生じる。プロセニアム付近の天井は舞台上の音源に近いため大切な部分であり、その解決方法は多目的ホールの音響設計にとってひとつの課題である。最近では可動プロセニアムも多く採用され、コンサートとその他演劇等の場合で必要なプロセニアム開口高さの可変も行われているが、開口の高さによって幕の収納に必要なフライタワーの高さも高くなってしまう難点もある。一方、本ホールで採用した前舞台使用の方式では、前舞台を使用するため、まず客席数が減ること、視線を確保するために客席段床の勾配が急にならざるを得ないことなどの問題もある。また照明や舞台出入り口その他を本舞台とコンサート用舞台の両方に対して設備しなくてはならない。本ホールではそれらいろいろな条件を検討の上、前舞台を使用する方式を採用した。コンサート形式時の舞台は、若干本舞台も使用するものの、ほとんどプロセニアムより客席側に位置し、シューボックス型の客席と舞台が一体となったコンサートホール空間をほぼ実現している。コンサート形式時、大ホールの室容積は8,800m3、室表面積は3,200m2、残響時間は500Hz満席時でコンサート形式時1.7秒、本舞台使用の幕設置時1.1秒である。

大ホール: コンサート形式(左) 
大ホール: コンサート形式(左) 
大ホール:幕形式(右)
大ホール:幕形式(右)

小ホール

 小ホールは350席の多目的ホールで、吊り上げ式音響反射板を備えている。残響時間は500Hz満席時で反射板設置時1.2秒、幕設置時0.9秒である。舞台の見やすいホールで、市民利用の各種発表会等に手頃なホールである。

室間の遮音設計

施設全体図

 大・小ホールは搬入口を兼用する形をとっており近接して配置されたため、両ホール間に地下基礎までを含めてエキスパンション・ジョイントを設けて縁切りをし、躯体を伝搬する振動を遮断し、遮音性能を向上させた。大小ホール間の経路には、防音扉の設置、内装の吸音処理も行った。大小ホール間の遮音性能は85dB(500Hz)以上確保された。太鼓や大がかりなロック演奏など極端に発生音量が大きい催し物で、例えば片方のホールで静けさを必要とするクラシックコンサートを行う場合などによっては注意が必要ではあるが、まずほとんどの催し物の同時使用が可能な遮音性能である。また地下に計画されたスタジオ2室、リハーサル室は電気楽器の練習も想定されており、それら相互室間および近くに配置された小ホールとの遮音性能の確保のために3室とも防振遮音構造(浮き構造)を採用した。
 オープニング記念でギドン・クレーメル率いるクレメラータバルティカ室内合奏団の演奏会が大ホールで行われた。シューボックスホールのしっかりした響きが確認できた。これからも長く良いコンサートを市民に提供していってほしいと思う。(石渡智秋記)

水族館のスピーカシステム

 ここに紹介する水族館はすでに第一期工事としてImax劇場(半球形スクリーン映画館)を含む主に魚類中心の展示施設が完成し運用されている。今回、第二期として海の哺乳類や海の歴史などの展示施設が竣工し、全施設が完成した。本施設は、これまでの水族館に比べてよりショウアップされ、テーマパークに近い構成の新しい性格を指向しているが、人気があるのはやはりイルカやシャチが芸をするショーである。ここにご紹介するのは、白イルカのショーを行うプールのスピーカシステムである。
 本プールの設計は、水槽自体が海を模した変形型で、それを取り巻くように山や平野、川などがコンクリートで作られており、背後には背景を映し出すホリゾント用のコンクリート壁が天井まで設置されている。また、天井はボード仕上げであるが、空をイメージしているのでホリゾントの延長としてデザインされている。観客ブース(収容人員はせいぜい20~30名)は、プールを挟んだホリゾントの対向側に水面とほぼ同レベルに水しぶきよけのガラス張りの手すりを介して設置されている。また、スピーカは天井の中央部に小型の拡声用スピーカシステムがクラスター状に配置されている。
 ショーのなかで、観客に対するインストラクタの解説は重要な機能の一つであり、設計サイドから、このような設計でこの機能が満足できるかどうかについて相談をいただいた。
 そこでまず検討したのがスピーカシステムの配置方式とスピーカの見せ方についてである。スピーカの配置方式には集中配置と分散配置があるが、本施設のようにプールの回りに吸音面がまったくなく、意匠的に吸音面の配置が難しい状況では残響が長くなり、加えて聴取エリアと天井や壁との距離が遠く離れている状況では、集中方式では大きい拡声レベルが必要で、その結果、残響音を増長させて明瞭度を損なうことが心配された。その点で多くのスピーカをできるだけ聴衆の近くに配置し、少しのパワーで十分な音量を確保できる分散配置の方が有利と思われたが、ただ、本施設には一般的なスピーカを分散配置すれば、天井から林のごとくケーブルにぶら下がった、照明器具でいうコードペンダント器具のような状態となってしまい意匠上マッチしないばかりか、背景、空の情景を映し出すプロジェクタの投影にも邪魔になってしまうという問題があった。

 そこで、いろいろ検討した結果、金属パイプの長手方向に超小型で長方形型の振動板を持つ平面スピーカを複数個直線配列したスピーカシステムを使用することを提案した。直径75mmの蛍光灯状のパイプだから、天井に配置しても意匠的な違和感はなく、観客はまさかそれがスピーカだとは気が付かない。設置台数は全長1.8mのものが6台、0.6mのものが3台、小型サブウーハが3台である。この長いほうのパイプスピーカをホリゾント側に向かって放射状に約4mピッチで天井から吊り下げている。放射状に設置したのはプロジェクタの投影を妨げないためである。しかし、プロジェクタは数台で背景を投影するため、スピーカの取付けピッチ、高さが部分的に均等には設置できなかった。短い方のスピーカは、長いスピーカだけではサービスしきれない、入り組んだ場所のための補助用として設置した。また、サブウーハは、音楽も再生する必要があることからプロジェクタ設置用のバルコニーに天井に向けて設置している。パイプスピーカの高さは床から約3.2m、観客の耳の高さから約1.7mの位置に設置している。

パイプスピーカを吊り込んだ状態

 竣工時の調整・測定では、この上揃いのピッチのスピーカ配置が幸いしたのか、障害となるようなブーミングや干渉などはとくに認められなかった。一方、スピーカ配置上の制約から、拡声音圧レベルのばらつきは避けられなかったが聴感上許容できる範囲内だった。肝心の拡声音の明瞭度は良好で、分散配置スピーカの導入は正解だったと思っている。意匠的にもスピーカがほとんど目立つことなく、圧迫感もほとんどないことが確認された。天井吊り下げのコードペンダント型のスピーカを設置していたら、視覚的にうるさく感じるばかりか、気分的にもあまりいいものではないだろうことは想像に難くない。建築設計者にも意匠的にも成功だったと喜んでいただいている。

 本水族館には、このパイプ型スピーカのほかに、超小型の12面体無指向性スピーカもエントランスに設置され、この空間の演出に一役買っている。丸く小さな形態は来館者には新鮮に映るだろうし、音も独特のなじみやすい環境にやさしい?音で好評と聞いている。12面体無指向性スピーカは、われわれも中型のものを室内音響特性の測定に使用しているが、本水族館に設置されたのは超小型ユニットを用いた特製のものである。

 これらの超小型平面ユニットを使った建築設備用天井スピーカは、一般の丸型スピーカに比べて開口面の面積が約半分から1/3程度と目立たない。現在はいずれも特別生産品であるが、この特徴が生かされる場面は少なくないに違いないので、もっとPRされてよいと思う。ただし欠点もある。小型に過ぎるゆえの低音域の不足である。これが問題になる場合は、別途、低音域補正用のウーハが必要であるが、超小型ユニット4~6台に1台の割合で十分である。この低音域補正用ユニットは決して低域のレンジ拡張のためのサブウーハではなく、あくまで低域不足の補正用として考えなければならない。一般的なSR(Sound Reinforcement)における音楽再生拡声用に使用されるサブウーハとは使い方がまるで異なり、あくまで自然な拡声音・再生音を目指すものである。また、ここで使用した超小型ユニットは、これまでの小型平面ユニットの一般的な許容入力に比べてびっくりするほど高い耐入力を持つことも特徴としてあげられる。200Hz以上の帯域制限つきではあるが、連続8W、ピークで32Wまで許容できるという仕様は、カラムスピーカとして複数個使用するならまったく問題のない値である。

 本水族館は今秋オープンの予定で、現在、開館に向けて関係者や動物たちのトレーニング期間であるが、竣工からオープンまで音響設備は使用されない状態で長期間放置されることになり、水族館という特殊な環境を考えると、この間にスピーカの動作特性が変化するのではと心配している。使用状態での変化は予測がつくが、長期間使われない状態での特性変化はあまり経験がない。オープン前に確認できればと思っている。

 この水族館の例にとどまらず、既存のスピーカは、たとえば教会の礼拝堂、議場、宴会場などで建築意匠との整合性を見いだすのがむずかしいケースが少なくない。“四角い大きな箱”というスピーカの固定観念を破るような、実用的で多様な製品が開発されれば設計の選択肢も増える。前述のパイプスピーカ、超小型12面体スピーカのほかにも最近は存在を意識させないようなスリムな形状でありながら、低音の帯域を伸ばした特性のカラムスピーカなどが開発されている。たまたま今回のプロジェクトでは建築設計家に喜んで使ってもらえるスピーカシステムを設置することができて音響に携わるものとしてうれしく思っている。今後も多様なタイプのスピーカが開発され、それを多くの方に知っていただく必要性を感じている。(森本浪花音響計画:浪花克治記)

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