泉の森ホール(泉佐野市立文化会館)のオープン
関西国際空港の玄関口である大阪府泉佐野市に総合文化センターが1996年5月にオープンした。総合文化センターには、32,000m2の敷地に文化会館「泉の森ホール」、生涯学習センター、歴史館、中央図書館の4つの施設が併設されており、その中心施設である「泉の森ホール」は、大小2つのホール及びマルチスペースや練習室、ギャラリー等によって構成されている。施設全体の建築設計・管理は(株)東畑建築事務所である。次に大小2つのホールの特徴を紹介する。
大ホールは舞台幕仕様時1,370席、コンサート仕様時1,217席の多目的ホールである。特徴は本邦初と言われる“迫り型昇降反射板”を採用したことで、これは下図に示すように舞台と反射板が一体となって組みあがった約150tの舞台空間そのものが、舞台下より迫り上がってくるという機構である。この方式により舞台上部の吊り物を制限することなく、また走行式反射板のように分割収納のために生じる反射板形状の制約もなく、形状や材質を自由に設計することが可能となった。デザイン的にも客席壁面のタイル張りを反射板の内部まで連続させるなど舞台空間と客席の一体性が高まりコンサート時の雰囲気を高めている。また、コンサート時には前舞台をあげて舞台として使用することを前提とし、反射板から天井への反射面の連続性や舞台上の天井高の確保を図った。
小ホールは454席の音楽ホールである。基本的な室形状の検討はコンピュータシミュレーションを用いて初期反射音の空間時間的な分布の均一性および反射の量に着目して設計を行った。また、音楽ホールとはいえ使用楽器や編成、曲目などは多種多様であり各々の性格に応じて音響の状態を細かく調節できるように、さらに講演会などの用途にも対応可能なように、舞台から客席側壁への電動巻取式タペストリ、舞台正面の吸音・反射可変のスライディングドア、舞台側壁扉の回転による反射・吸音の可変機構を導入した。講演会等への対応については、電気音響設備の面からも拡声音の明瞭度を確保するためにスピーカの設置位置や方法について検討を行い、舞台先端上部に天井からスピーカを吊り下げる方式を採用した。
オープニングには、大ホールでは外山雄三指揮・大阪フィルハーモニー交響楽団の公演が、小ホールでは仲道郁代さんのピアノコンサートが行われた。大ホールは素直な響きが感じられ、演奏者の反応も良かった。小ホールは音楽ホールとして余裕ある響きが感じられ、司会者(桂小米朝氏)によるスピーチも全く支障なく明瞭に聞くことができた。(石渡智秋 記)
劇場・ホール用舞台音響設備の基本調整
どのような調整が必要か、正常な動作とはどのような状態かという話である。大規模で複雑な劇場・ホールの舞台音響設備、特に場内の拡声設備は種々の演目、演出、様々な出演者に対してきめ細かな調整が必要となる。また、室の響きや反射音の影響、スピーカなどの機器の種類、設置方法などに対してもきめ細かな調整が必要である。
拡声設備の基本構成は、図-1に示すように、音を電気信号に変換するマイクロホン、その信号を増幅するアンプ、増幅した電気信号をまた音に変換するスピーカの3つの要素で構成される。これは駅などの放送設備からホールの拡声設備まで全てに共通する構成要素である。図-2には劇場・ホールの設備構成を示す。同じ拡声設備でも規模が格段に大きくなり、オペラやミュージカルも上演するようなホールの場合には音質補正用のイコライザ類が30台以上、パワーアンプのチャンネル数が150ch.にものぼることがある。もちろん、その先にはそれ以上の数のスピーカ(ユニット)が接続されている。ほとんどのホールにおいても、現場からの要求でポピュラー音楽への対応、マルチアンプ駆動方式の3~4wayスピーカの採用により出力系統の規模が増大している。当然、音質調整やバランス調整を行う箇所も飛躍的に増大しており、工事中や音響測定の合間に片手間に調整ができるような状態ではなくなっているのが現在の状況である。
各図中の△印は設備を実際に運用する現場の音響技術者が催し物、演目、演出、音源の種類などに会わせて調整操作を行う部分であり、▲印はその運用時の調整のベースとなる状態にするために調整が必要な部分を示す。このような業務は一般に知られていないので、強いて呼ぶとすれば前者が『運用調整』、後者は『基本調整』となろうか。業務の流れとしては、舞台設備計画→設計→機器設置→接続→『基本調整』→検査・測定→引き渡し→『運用調整』となる。
基本調整は現場において実際の使用条件に近い状態(空席である以外)で設計時に実現目標として設計した機能と性能を満足させるため実施する。実現目標とは『良い音』であり、満足すべき条件とは、催し物の種類、演目・演出などに適合し使用目的を満足させることと良好な音質、十分な音量・明瞭さが得られることにつきる。後者は具体的には、(1)音質・音色が整っていること(2)ハウリングしにくく安定した拡声ができること(3)大音量が歪まず、雑音がほとんど聞き取れないこと(4)適度な拡声音の明瞭さが得られること(5)音の方向性として、音が発散せず聴く人の意識が舞台に集中すること(6)客席の隅々までそれらの良好な拡声音が得られることなどである。これらに対応するものとして、伝送周波数特性や安全拡声利得等の物理特性である目標値が設定されるが、目標値は実現目標をすべて表現するわけでもないし、理想を示すものでもない。あくまでも目安である。そのため目標値のみを満足させたからといって必ずしも良いのではなく、「可」であっても「良」とはならないのである。また、運用調整しやすい音、つまり音づくりや音の加工が容易な音であることも重要である。さらに個人的には、実際の舞台の生々しさを伝える音、人々をひきつける魅力のある音が劇場・ホールにはとくに必要であり、これが『基本調整』の原点であると考えている。
実際に調整、音響測定を実施していて最近気になることがある。音質を整えて行くにしたがい聞き取りやすく、拡声音の明瞭さが益々向上するが、その原因としてスピーカの伝送周波数特性が変化することによってスピーカの指向特性なども細かく変化しているのではないかと想像される。また、スピーカの機種によって明瞭さを維持できる距離が異なり、実際の室内でAスピーカは8mまで、Bは15mまで、Cは30m以上でも耐えられるといった違いが聴感的に確認される。つまり大空間でAのスピーカを採用したとすると、いくらコンピュータシミュレーションの結果が優れていようと良い結果が得られないと推察される。それとも、測定誤差になるようなわずかな差が聴感では大きな差となって認識されるのであろうか。どちらにせよ、まだ現実に忠実とはいえないスピーカのシミュレーションシステムの計算結果や指向特性のデータを過信してはならないといえよう。(稲生 眞 記)
カザルスホールに来年のパイプオルガン設置に向けてオルガン台が完成
カザルスホールは、来年10周年を迎える。それを機に舞台正面にパイプオルガンが設置される。オープン当初からオルガン設置の計画があったものの、諸条件により延び延びになっていたもので、ようやく実現の運びとなった。パイプオルガンはドイツのユルゲン・アーレント氏製作による3段鍵盤、41ストップである。オルガン選定にあたっては、ホール関係者等が自らいろいろなオルガンを見て、聴いて、そしてやっと巡り会ったということを聞いている。オルガンの本体は来年3月に組立と据付が行われるが、その工事に向けて、オルガンを載せる台が8月に完成した。まだオルガンの載っていない台には違和感を感じるが、来年3月には新しいカザルスホールの顔がお目見えする。そして、パイプオルガンのお披露目は、据付工事後に調整が行われ10月の予定である。最近では、コンサートホールにパイプオルガンが設置されることが多く、日本にいながらにして欧米のいろいろなオルガンの音を楽しむことができる。また新たにアーレント氏のオルガンが加わることによって、東京のオルガンコンサートの楽しみも増すことが期待される。(福地智子 記)
創立20周年を迎えた日本騒音制御工学会
騒音、振動の制御をテーマとする日本騒音制御工学会が創立20周年を迎えた。設立は、米国の騒音制御工学会の活動を受けたもので、1975年、わが国初の騒音制御の国際会議である仙台のインターノイズ’75の翌年である。この1970年代は高度経済成長期の産業、経済の急速な発展に伴う環境問題に社会的関心が高まった時代でもあり、交通網整備に伴う道路、鉄道、航空機等の騒音、工場・建設工事騒音等に対して基準や規制の施行された時期でもある。工学会では、平成8年度の研究発表会を20周年の記念行事とともに京都で開催した。記念式典をはじめ、現在活躍されている4人の先生方による特別発表や今話題のLeq(等価騒音レベル)に関するシンポジウムなど多彩な行事が組まれていた。このLeqは国際的には騒音の評価方法として採用される傾向にあるが、わが国では環境基準に騒音レベルの中央値L50が採用されているだけに、昨年7月の国道43号線公害訴訟の高裁・最高裁判決での裁判所の独自の採用が話題となった。環境庁でも、導入に向けての検討が進められているようである。騒音、振動の制御も量的な面から質的な面での制御が求められつつある。もう一度原点に戻って騒音・振動との付き合い方を考えてみたい。(池田 覺 記)
今月号も「日本フィル・ヨーロッパ公演随行記(その3)」を特別増頁版として掲載します。
日本フィル・ヨーロッパ公演随行記(その3:ウィーン編)
960504:R・シュトラウス:歌劇「ナクソス島のアリアドネ」:H・シュタイン指揮ウィーン国立歌劇場
4F正面バルコニー4列目(450シリング、\4500)
- ウイーン国立歌劇場はこれまで見学には2~3度来ているのですが、夜はコンサートの方が優先になったりで、実際の公演はこれが初めてです。ウィーン到着後すぐに来てみると、夜の公演はR・シュトラウスの「ナクソス島のアリアドネ」で、なんとホルスト・シュタイン指揮でグルベローヴァが出演とあるではないですか。これはもう聴かない手はありません。すぐにチケットを買い求めました。上から2段目のバルコニーの正面の前から4列目というあまりよくない席でした。それでも日本円にして\4500ですから文句はいえません。ついでに2日後のワーグナーの「さまよえるオランダ人」のチケットも買いました。こちらは最上階バルコニーの上手サイドの前から2列目です。きっとほとんど舞台は見えないでしょう。でも\1000ポッキリです。これで文句を言ったらバチが当たります。
- 始まってびっくりしたのは、とにかく音響的にデッドなことです。上野の文化会館で聴くオペラの方がずっと良いと思いました。ただし音響についてのみの話です。特に聴いた席がバルコニーの奥に入っているものですから、音の貧弱で遠いことといったら驚きでした。これがあのウィーン?というのが音響に関する偽らざる第一印象です。
- 演奏はさすがです。オーケストラはこの貧弱な音響でもいささかも不満を感じさせないほどに充実していました。これ以上、上質なアンサンブルがあろうかという印象です。
- この夜の圧巻はやはりエディタ・グルベローヴァのコロラテューラです。自由自在に軽々と歌いまくる才能は本当にすごくて、音響の貧弱さなど全然関係無しです。本当に優れた芸術の前では、音響の問題などは二の次、三の次というのはよく経験することですが、改めて実感しました。客席の拍手、ブラボーも大変なもので10分位は続いたと思います。というわけで、この\4500はとても得した気分です。
960505:R・ムーティ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団@ウィーン楽友協会大ホール
モーツァルト:ピアノ協奏曲第25番KV491(ピアノ:M・ペライア)、
ブルックナー:交響曲第7番
下手前方前から6列目(11000S、\11000)
- ムーティ+ウィーン・フィルという人気の組み合わせで、しかも今年のウィーン芸術週間の初日ということもあって、早くからチケット完売の公演でした。それをウィーンに居る知人に無理矢理頼んで、やっと前々日に手に入れたチケットです。聞けただけでもラッキーと思わなければならないのですが、席があまりにも悪過ぎました。前から6列目のしかも下手寄りでヴァイオリンと鼻を突き合わせたような場所です。座席の前後間隔が小さく、しかも最前列の前に通路もなくびっしりと客席が配置してありますので、前から6列目といっても普通のホールでいう4列目くらいです。
- 1曲目のピアノ協奏曲それほど悪くありませんでした。特にピアノは見上げるような角度の所にあるのですが、バランスは良くとてもきれいな音でした。
- オーケストラはヴァイオリンがmf以上になると相当シャープな、ウィーン・フィル特有のハイトーンの生っぽい音が耳について、とにかくもう少し離れて聞きたい衝動に駆られました。ホールが鳴っている印象はほとんどありませんし、残響音も全くと言ってよい程聞こえませんでした。ホールは全くの満席で後方の立見席などは何重にも人が重なって立っていました。見渡す限りでは空席を見つけることはできませんでした。後半はなんとか席を変えてと思っていたのですが断念せざるを得ませんでした。
- ブルックナーの時のアンバランスはかなりのものです。木管だけのアンサンブルが聞こえる部分や全体にpp~mf程度の音量の時はさすがウィーン・フィルという感じです。音量が大きくなっても濁ったようなアンサンブルの汚さは聞かれず、さすがウィーン・フィルなのですが、席によるアンバランスはどうしようもありません。ヴァイオリンはしゃくれ上がったようなヒスノイズばかりが耳につくし、ブラスが出てくるとかなり強烈な、ほとんど暴力的な音のみが聞こえました。いかにウィーン・フィル+ムジークフェラインといえどもこればかりは何ともならないようです。いかにもウィーン通の知ったかぶり人が「ムジークフェラインはどこで聞いても完璧なバランスで聞こえるのはさすがです」などといったようなことを言っているのを耳にすることがありますが、あれはオオウソです。
960505:エド・デ・ワールト指揮オランダ放送管弦楽団@ウィーン楽友協会大ホール
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲(ヴァイオリン:J・ベル)、
マーラー:交響曲第5番
上手側方バルコニー前方(ステージ真横、250S、\2500)→1F中央やや後寄り
- ムーティ+ウィーン・フィルは午前中の公演(11:00~)で、この公演は通常の夜の公演(19:30~)でした。午前のあの席ではどうしても収まらず雪辱戦といったところです。夜は直前の当日売りがすぐに買えました。客の入りは7~8割と言ったところでしょうか。席は、2Fバルコニーのステージ真横の席です。何せ安かったですから(\2500)。休憩後の後半は、しっかり1Fのど真ん中に移動して聞きましたから、午前中のと合わせて収支帳尻あわせといったところです。
- ステージ横の席は、もちろん1Fの最前部に比べるとはるかにバランスよく楽しめました。しかし、いわゆるムジークフェラインの、ホール全体が鳴る感じの、ブレンドされてしかもクリアーでという音ではなく、かなりクリアーさの勝った音、響きです。ホール全体が鳴るイメージについてもかなり希薄です。音が途切れたときに残響が客席空間で残っているのはよく聞こえます。しかしいずれにしてもこの席でこの音は、あえてムジークフェラインでなければ聞けないといった類のものではありません。
- このホールの本領発揮は、やはり後半に1Fの中央やや後ろ寄りに移ってからです。かつて聞き覚えのある、あらゆる形容詞が当てはまるような音が聞こえて来ました。ステージから音が溢れ出てくるような、クリアーでしかもソフトなバランスの良いサウンドです。ブラスが最強音を出したときでも弦はきちっと聞こえていました(午前中のウィーン・フィルの時はそうではありませんでした)。最もここらあたりの楽器間のバランスについてはオーケストラそのもののバランスも影響しますので、ここは是非、日本フィルをこのホールで聞きたかったところです。
- 1F中央寄り後方で聞くこのムジークフェラインの音は、やはりone of the best in the world といってよいと思います(もちろん2Fバルコニーのステージに近すぎないところも良いはずです)。アムステルダムとの違いは興味のあるところです。ここウィーンでは、ホール全体が鳴るイメージの大きさという点では、アムステルダムに比較すると一歩及ばずという感じがします。上手くいい表せませんが、ウィーンはホールが鳴っている、響いているという感じなのに対して、アムステルダムはホール全体が楽器という感じで、その中で聞いているというイメージです。そして、よりゆったりとホール空間の拡がりを感じます。それに比べるとウィーンの空間の鳴り方はかなりタイトさを感じます。これはバーミンガムでも感じたことで、おそらくホール空間のディメンジョンの違いだと思われます。この点ではサントリーホールの空間的に拡がったイメージは、とても余裕のあるゆったりとした音、響きとして聞こえ、個人的にはとても好きです。ただし、サントリーホールは、今回聞いた良いホールがすべて低音弦の量感を伴っているのに対して、低音のレスポンスがやや貧弱なことを感じました。そしてこのことが、残念ながら日本のオーケストラに見られるバランスの傾向と一致しており、サントリーホールにおいては海外と日本のオーケストラの違いがより強調されているように思います。
960506:ワーグナー:歌劇「さまよえるオランダ人」:L・ハーガー指揮ウィーン国立歌劇場
5F下手最上バルコニー2列目→5F上手最上バルコニー1列目
- 最上階の5Fバルコニーのサイドなので、乗り出しても舞台は半分位しか見えません。それでも2日前に聞いた4Fバルコニーとは全然音が違います。ここでは東京文化の5F席のように非常に音量が大きくオーケストラの音を近く感じます。響きとしてドライなのは同様です。その点では東京文化ににたような響きです。あえていうなら東京文化の5Fの方がより大きくて近い感じがするのと、響きももう少しあるような気がします。4Fバルコニーは、バルコニー席が全く奥まっていて、しかもバルコニーの天井が客席段床と平行に迫り上がっているためです。このような配置の方がより多くの客席数を確保できることは確かです。東京文化の4F以下のバルコニー席との決定的な違いはこの点にあります。5Fバルコニーはウィーンでも東京文化会館でも同様に天井からの反射音の寄与があります。
- 話は違いますが、Leicaの双眼鏡は実によく見えます。5Fからオーケストラピットを見ていて、上手サイドに2ndVnが座っているのかVlaが座っているのかがよく分からなかったのですが、上手サイドから双眼鏡で楽譜が見え、ト音記号とヘ音記号の区別ができました。結局上手に座っていたのは2ndVnで、その内側にVlaがいました。
- さて演奏ですが、序曲が始まるやいなや耳を疑いました。アンサンブルは汚いしリズムはバラバラ。これが本当に2日前に聞いたのと同じウィーン国立歌劇場のオーケストラ?といった感じです。さては今日は手を抜いて二流どころか三流のメンバーが集まっているのかと思ってLeicaの小型双眼鏡で覗いてみると、コンサートマスターをはじめ見覚えのある顔ばかり。これが噂に聞くウィーンの連中の手抜きか?と思って聞いていると、序曲を終わってから段々良くなってきました。1幕の半ばを過ぎてからやっといつものすごいアンサンブルが聞かれるようになり、2幕から後はもう完璧なまでにウィーン国立歌劇場そのものでした。彼らもエンジンがかかるのに時間が必要だったようです。
3回にわたってお届けした日本フィル・ヨーロッパ公演随行記も今回で終わりである。今回は、日本フィルは登場しないウィーンでのコンサートの印象記となったが、実は筆者が帰国した後で日本フィルのウィーンのムジークフェラインザール公演が行われたのである。スケジュールの都合でやむを得なかったが、ウィーンでの日本フィルを聞きのがしたことは大変残念であった。とはいえ、今回の日本フィルの公演を中心としたヨーロッパの著名ホールめぐりは非常に貴重な体験であった。いろいろなホールの音を同じオーケストラ、しかも同じプログラムで短期間に聞き比べることができたし、オーケストラの奏者からも各ホールのステージ上の音響について様々な意見を聞くこともできた。
日本フィルの演奏は、いずれもお世辞抜きで大変素晴らしかったことを改めてご報告しておく。従来、日本のオーケストラの海外公演のマスコミ情報などでは絶賛されたと書かれていても、本当はどうだったのか訝しがる声を聞くこともしばしばであったが、今回の日本フィルに関する限りは間違いなく素晴らしい公演の数々であったし、各地での聴衆の反応も非常に熱っぽいものであったことを筆者自身の目と耳で確認してきた。今回の公演旅行に当たり、日本フィルの楽員の方々には各ホールの公演毎にステージの音響に関するアンケート調査にご協力いただいた。この場を借りて感謝の意を表したい。その成果は、12月に予定されている日米音響学会ジョイントミーティングにて発表の予定である。機会があれば、いずれこのNewsでもその概要をご紹介したいと考えている。(豊田泰久 記)