No.058

News 92-10(通巻58号)

News

1992年10月15日発行

立正大学「石橋湛山記念講堂」の竣工

立正大学開校120周年の記念事業の一貫として、大崎キャンパスでは昭和61年から再開発工事が3期にわかれて漸次進められてきており、この度、敷地内に客席数593席の講堂が完成した。設計は椎名政夫建築設計事務所、施工は清水建設である。

敷地の条件から、講堂は地下部分に位置しており、講堂の屋上はプラザとして学生が憩う広場になっている。手頃な広さなので各種集会が催されることが予想され、その際の歩行や飛びはね等の床衝撃音の遮断を行う必要があった。当初、同様の配置条件や使用方法の前例に倣って、防振ゴムやロックウール等の浮き床構造の方法をとることとしたが、ここでは次のような特殊な条件からこのような方法の採用が難しかった。特殊な条件とは、このプラザが消防車等の緊急車両の進入路になっていることである。とくにハシゴ車を固定する際のアウトリガーは400×400mmのスペースに6~7.5tもの荷重がかかること、消防の訓練は定期的に行われるということから、歩行音等の床衝撃音を遮断し、さらに緊急車両の重量にも耐えられるような浮き床構造を選定する必要があった。最終的には、床の表面はパーミアコンというザクザクした仕上げを行い、中間に板状の防振ゴムを挟んだ厚さ400mmのコンクリート構造を採用した。床衝撃音遮断性能は重量衝撃源に対してL-35、軽量衝撃源に対してL-30で、実際の使用状態では歩行音等はまったく聞こえなかった。

講堂の利用は、大学の式典や講演会が主ということだが、その範囲内でクラシックコンサート等も行いたいという学校側の意向があった。これに沿って、初期反射音の確保、明瞭度の確保を目的に、舞台反射板の形状、内装材料、および電気音響設備の検討を進めた。敷地の条件から、舞台の袖や後ろ、およびフライを大きく取れなかったこと、構造の柱が舞台袖にあるなどから、舞台の基本形を反射板設置の状態とし、必要に応じて天井反射板および側面の反射板(一部)を開閉して幕や照明を設置するようにした。なお、舞台の正面はその背後に安置されている仏像のための扉を反射板として利用している。残響時間は室容積4600m3に対して1.5秒(500Hz:空席時)であった。

大学の講堂ということで一般の人の出入りが限定されることから、外部の方たちへの紹介も兼ねて、オープン前の9月25日に大学・設計・施工各社主催のコンサートが催された。また、それを前にして内輪でバイオリン、ピアノ、声楽(ソプラノ)の試奏による音響の確認を行った。その時の感じでは、弦や声楽には少し響きが不足しているが、ピアノの響きは余裕があって適当に思えた。9月25日のプレオープニングのコンサートはロンドンアンサンブル(フルート、ピアノ、ヴァイオリン)によるもので、演奏の印象は試奏のときとほぼ同様だった。演奏が素晴らしかったこともあるが、曲間に曲目や作曲者の紹介があるなど和やかな雰囲気の良いコンサートだった。

10月7日、開校120周年記念の大法要が講堂において行われた。学生僧を初めとする50人あまりの読経の声が講堂に響き渡り、荘厳で華麗な式典は45分にもおよんだ。皆の声が非常に良く、読経の明瞭度はすこぶる良かった。また、読経に併せて奏される太鼓や鐘などもうるさくなく、ほっと胸を撫で下ろした次第である。(福地智子 記)

5周年を迎えたカザルスホール

カザルスホールが10月13日で5周年を迎え、関係者による式典が行われた。ハレー・ストリング・クァルテット、カザルスホール・クァルテットという2つのレジデンス・クァルテットの育成、オープン時のホルショフスキー(ピアノ)から今年のカルミナ・クァルテットなど、かくされた宝物のような数多くの演奏家や演奏団体の招聘、レクチャーとお茶つきのティータイム・コンサート、ハイドンの交響曲の全曲演奏から始まり現在はモーツァルトの作品に入っているホリデイ・アフターヌーン・コンサート、オープン以来続けられている恒例のアマチュア室内楽コンクール、チェロ連続コンサートなど、ユニークな企画を精力的に続けてきた。プロデューサー組織による運営でなければできない事業である。最近では地方のホールヘのプログラムの提供も始めている。カザルスホールはわが国の音楽界の一つの拠点となってきた。

カザルスホールは平面も断面も矩形の正真正銘のシューボックス型のホールで、客席数は511席、室容積6,060m3、満席時の残響時間は中音域で1.6秒とホールとしてはライブな空間である。その上、オルガンを予定して計画されたこのホールのステージは150m2もあり、これはウィーンの楽友協会の舞台よりやや広い。したがって、リサイタルや小規模の演奏ではステージ空間はとりわけライブになる。このライブさは弦楽のアンサンブルなどには心地好いが、ピアノについては曲目によって、また、弾き方によって、音が重なってクリアーでなくなることが一部の演奏家や音楽関係者から指摘されてきた。また、室内楽でも演奏者によってはパートの音が聴きとりにくいという点の指摘もあった。このような苦情に対して、われわれも吸音パネルを持ち込んだり、カーテンを吊したりしてその効果の実験を行ない対策を検討してきた。上の写真は1988年の8月に行った実験風景である。これまでの実験でこの問題は舞台空間のわずかな吸音で解決できることが確認できた。オルガンが設置されれば解決する問題ではあるが、オルガンの設置はあと5年も先である。

吸音対策の大きな問題は吸音パネルの意匠であった。磯崎新氏による空間を損なわないという条件で検討が行われた結果、側壁のカーテン状のトラスウォールを本来のカーテンにした写真のようなユニットの吸音パネルが製作され、そのテストが今年の8月11日、ピアニストの仲道郁代さんの協力で行われ、使用する位置や効果の確認を行った。このパネルは早速、9月14日のジョン・リルのピアノリサイタルで使用された。彼のピアノはどちらかといえば大ホール向きのタッチであるが、このパネルですっきりとした音となった。面白いことに、当日来場の音楽評論家の方も、われわれが説明しない限りこのパネルには気付かれなかったから、一般の方はまず分からなかったと思う。ホール側の話では、千葉馨さん(ホルン)からも画期的な仕組みだとお褒めにあずかったとのことである。このパネルは演奏者の希望によって用意される。次回は今月21日の「仲道郁代の新しい世界」HASEKO CLASSIC SPECIALで使用されることになっている。この吸音パネル製作の他に5周年事業として行われたのが、バルコニー席の視野の改善である。このバルコニー席は明瞭度と響きの豊かさがバランスした特別席ではあるが、問題は目の前の手摺がステージへの視野を邪魔したことであった。今回、写真のように、シートを7cmほどかさ上げする工事が行われ、バルコニー席からの視野は大幅に改善された。ぜひ、今回の二つの改善効果を確認していただきたい。

バルコニー席椅子
吸音パネル

NEWSアラカルト

浜離宮朝日ホールの披露コンサート

11月オープン予定の浜離宮朝日ホールで、10月13日の午後、音楽関係者に披露コンサートが行われた。朝日新聞で長年、音楽界を担当されてこられた雑喉潤氏を中心に、竹中工務店の設計・施工、音響は竹中技研、アメリカの音響学者ベラネク氏の指導、さらに安川加寿子、東敦子、江藤俊哉という音楽アドバイザーを加えた本ホールの音響設計組織は、音に力と金を注ぎ込んだこれまでのプロジェクトにはない重厚な組織である。

浜離宮朝日ホール内観

ホールは新橋から築地方向に歩いて10分ちょっとという距離で、朝日新聞本社に隣接した位置にある。エントランスロビーもホワイエもゆったりとしているが、仕上げは実に簡素であり、すべてがホールに集中している感じである。

ホールは552席のシューボックス型。後部とサイドにバルコニーがあり、カザルスホールよりやや大きい感じである。常々、シューボックスホールの難しさはホール空間のデザインにあると思っているが、内装、とくに、照明を利用した拡散面の処理は見事である。ベラネク氏が主張するfine scale diffusionを彷彿とさせる壁もあるが、これもうまく処理されている。全体的にオーソドックスな格調のある空間である。

演奏はピアノ、歌、ヴァイオリンおよび弦楽合奏であった。オープン前のテスト演奏ではまだ響きの本質を云々することはできないが、響きは遊びがなく、このような響きが正統派シューボックスの響きなのであろうか。ピアノ用の空間と聞いていただけにベーゼンドルファーとスタインウェイの違いもよく分かったが、思ったよりライブな印象であった。また、一階席とバルコニー席との響きの特色もこの種のタイプのホールに共通するように思えた。開演を知らせるグラスハーモニカもこのホールの特色のようであるが、雑喉さんの説明の拡声の音が壁の後ろから聞こえてくるような音質であった。調整前だからであろう。このホールも雑喉さんの構想のもとに、11月の初旬からウイーン弦楽四重奏団など魅力ある公演が予定されている。

プログラム、番組のチケットの問い合わせは、浜離宮朝日ホールオープニングコンサート事務局、Tel:03-3545-0411まで

日本のオルガン・の発行  日本オルガニスト協会 定価15,000円

“日本のオルガン”は1985年、わが国はじめてのオルガン資料集として発行された。本書はその続編であり、217台のオルガンについてその製作者、写真とともに鍵盤数、ストップリストなどが収録されている。前編の323台とあわせると現在の日本のオルガンは500台を越えることになる。

発売元:シャローム印刷出版事業部 Tel:03-3816-5421

「日本のオルガンはこれでよいのか」、日本オルガン研究会シンポジゥムのお知らせ

日本オルガン研究会では例会の一つとして、表記のシンポジゥムを今月末に実施する。このシンポジゥムは今回が3回目、毎年一回同一のテーマで行ってきた。これまでオルガンの保守、国産オルガンと輸入オルガン、オルガン選定のあり方、オルガン専従者の業務、オルガンの運用などの問題が取り上げられたが、今回はオルガニストにお集まりいただき、オルガニストから見たオルガンビルダー、オルガンの運用、保守などの問題について、現状、問題点などをお話しいただく予定である。ご来場をお待ちします。

日  時:10月31日(土)15:00~17:00
場  所:六本木鳥居坂教会 港区六本木5-6-15 Tel:03-3401-8704
パネラー:林 佑子(オルガニスト、フェリス女学院教授)
     酒井 多賀志(オルガニスト、東京純心女子短期大学助教授)
     保田 紀子(オルガニスト、松本市音楽ホールオルガニスト)
     鈴木 雅明(オルガニスト、東京芸術大学助教授)
司  会:永田 穂