市立姫路高等学校音楽ホール(愛称パルナソスホール)オープン
姫路市制100周年および姫路高校創立50周年を記念して建設が進められていた音楽ホール、愛称パルナソスホール(客席数811席)が、今月11日にオープンした。高校の講堂がなぜコンサートホールとして生まれたのか不思議に思われる方も多いと思うが、この計画は姫路高校同窓会からの要望で講堂という形で出発した。しかし母校の施設として特徴のあるホールとしたいということで、音楽指向のホールへと計画が発展したのである。
建築の構想は学校施設ということで市教育委員会がまとめ、建築の設計・監理は大阪の赤松菅野建築設計事務所が担当した。当事務所は市との直接契約というコンサルタントとしては理想的な形で初期の段階から設計に参加し、監理・測定までの一連の音響設計を実施した。
講堂から音楽指向のホールへの発展の過程では、中新田町のバッハホールが教育委員会関係者に大きなインパクトを与えたようで、設計当初は残響可変機構とパイプオルガンを備えたホールがイメージされていた。しかし、姫路市には多目的ホールとしてすでに市民会館と文化センターがあることや、この程度の規模のコンサートホールでは、講堂として重要なスピーチの明瞭度の確保がさほど難しくないことなどから当事務所としては同一規模で可変機構、幕類を持たない松本市のザ・ハーモニーホールタイプの施設を提案した。偶然にも姫路市は“お城”が縁で松本市と姉妹都市であり、この提案が受け入れられたのである。パルナソスホールの特徴を簡単にまとめてみたい。
- 本ホールは室幅22m、奥行き40m、天井高14mの直方形で、プロセニアムはなく典型的なコンサートホールである。椅子席は一階だけで811席、浅いバルコニーがあるが、これは立ち席で、入学式や卒業式など学校行事の際の臨時の席として予定されている。
- 音の拡散を意図して側壁は上下ピッチが異なる折れ壁を採用した。特に側壁下部のタイルは鋭い反射音を抑えるために割り肌タイプとした。また、拡散面を兼ねて側壁上部にはヨーロッパの教会建築や古いシューボックスホールにみられるようなヴォールトを拡散体として建築側でデザインしてある。材料はGRCである。
- ステージ正面には姫路高校同窓会の寄付によるパイプオルガン(43ストップ)が来年10月に完成する。オルガンの製作はバッハホールのオルガンを手掛けた須藤宏氏である。
- 残響時間はオルガンリサイタルを考慮し、やや長めに設定した。500Hzの残響時間は空席時2.3秒、満席時1.9秒で、低音域でやや長めという素直な特性である。
- 拡声用スピーカはスピーチ拡声時の明瞭度確保に的を絞り、またコンサートホールとしての雰囲気を考慮して、客席前部両サイドのコラム型スピーカのみとした。式典の拡声から満足ゆく結果を確認している。
- 室内の空調騒音はNC-20以下、25ホン以下の静けさである。
オープニングの演奏会として、18日にNHK交響楽団の演奏会があった。夕方、姫路に着いて臨時バスでホールへ。はたしてどんな鳴り方をするのだろうという不安を胸に約20分、坂の上のホールから浮かび上がったステンドグラスの美しさに目を奪われた。作者は姫路市在住の作家・立花江津子氏で、テーマ“パルナソス”はそのままホールの愛称としても採用されている。ちなみに“パルナソス”とは、ギリシャの神々が宿る山の名前だそうである。
本番直前に指揮者秋山和慶氏のコメントを伺うことができた。「リハーサルでは響き過ぎるという印象を持った。しかし、お客さんが入れば大丈夫でしょう。私はこんなホールが大好きですよ。」とにこにこされていたのでひとまず安心した。
当日のプログラムは、オール・チャイコフスキーで、ピアノ協奏曲第1番(ピアノ:館野泉)と交響曲第4番であった。ピアノ協奏曲ではオーケストラの合奏、ピアノとのかけ合いともにバランスが今ひとつであったが、後半はさすがにN響という堂々とした演奏であった。
ちょうど一週間前、NHKホールでのN響の定期演奏会を聴いたが、印象は音量の点でもバランスの点でも全く異なっており、とにかく音が大きくまた低音がよく響き、比較的暖かい響きであるという印象を持った。ステージは大型のオーケストラでも無理なく乗ってしまう広さであり、当日も16型(1stVn.:8プルト、16人)の編成で、とにかく大きな音であった。この規模のホールでは、室内オーケストラあたりまでが音量の点で無難な規模ではないかと思う。しかし音量は大きくても、響きの余裕は十分であった。
本ホールの完成はパイプオルガンの据え付け、聴音が完了する来年の10月である。 須藤オルガンも楽しみの一つ。すばらしいコンサートオルガンが生まれることを願っている。
オープニングの式典の市長の挨拶で、このホールが地元の合唱団、合奏団の発足・発展につながれば、との希望を述べておられたが、ホールの評価は今後の企画・運営・サービスにかかっている。意欲的な活動に期待したい。(小口恵司 記)
〈パルナソスホール連絡先:姫路市辻井9-1-10 Tel. 0792-97-1141〉
音のある美術(MOMENT SONORES)
8月13日から9月24日まで、栃木県立美術館において表記の展覧会が開催された。1グループ23人の作家による40の作品が展示されていた。
音による環境づくり、視覚と聴覚に訴えるオブジェなどといわれる創作は最近、環境音楽、サウンド・スケープ、サウンド・インスタレーション、音響彫刻などの新しいジャンルの芸術として着目されている。栃木美術館への興味もあって会期ぎりぎりの9月23日、大雨の中を宇都宮に出掛けた。土曜日の午後であったが会場は人影もまばらでさむざむとした雰囲気であった。木材、金属、石、ビニールなどいろいろな素材を工夫して音を発生する仕組みである。オルゴールの組み合わせの小さな仕組みから天井一杯の装置まで様々であったが、ダビンチの発明のようなメカ的なものが多く、オブジェとしてまとまったものは僅かであった。最後の会場には“音装置V”という楽器?群による自動装置があったが、音はつまらなかった。
装置として面白いと思ったのは松村要二氏のサウンド・サーキュレーションという作品で、扇風機による風で回転する腕にぶらさがった金属の球がいろいろなものにぶつかって音を出す、という視覚と聴覚に訴えた作品であった。このような装置は小学生あたりに作らせたら面白いのではないのだろうか?
もうひとつ音を楽しむという点では金沢健一氏の“音のかけら”という作品二点と、鉄片と石片を床に並べた二組の作品があった。これらは人がたたいて音を出すだけの装置であるが、いろいろな音色を楽しむことができる。子供が無心に遊んでいたのが印象的であった。
素人の批判なので当をえていないかもしれないが、建築や風景の中のオブジェとしても、また楽器としてもまだまだ完成度は低く、遊びの領域の作品といえるものが多かった。まず発生音のレベルが低いこと、共鳴や共振などの自然の物理現象をもっと利用して音量や音色の変化の効果をとりいれるべきである。それに発生音の大半が衝突による音である。玩具の太鼓や鐘のように音色がやすっぽい。装置の仰々しさの割に、出てくる音が貧しいのである。
これらに比べると、わが国の“水琴窟”というのはすばらしい発明ではないかと思う。水滴の落ちる音を水瓶の共鳴を利用して響かせるだけの仕掛けであるが、装置は土中にあって見えない。手水鉢の下に埋めてこぼれる水で妙なる音が出る。心にくいばかりの巧みな装置、江戸時代の発明である。
また風鈴などもさりげなくて音もすずしく、わが国の夏の風物詩としてとけ込んでいる。笛一つとっても長い歴史の中で育ってきた楽器というのは、単純な構造で魅力のある音を発生することができる。
この分野はどのように発展するのだろうか?カナダなどでは環境音楽が盛んだと聞いている。国際的なレベルの作品にも接してみたいと思う。
NEWSアラカルト
津田ホールのシェイクスピア
10月11日、津田ホールにおいてロンドン・ステージカンパニーによる“マクベス”が上演された。読んでもわかりにくいシェイクスピアであるが、コンサートホールでの演劇に気がかり半分で出掛けた。
舞台は箱を並びかえて、5幕の背景を演出。照明は持ち込み、音楽はテープによる再生という簡素な舞台設備の中で行われた。何より心配したセリフの明瞭度はまったく問題なかった。横向き、後ろ向きのセリフでも明瞭度が落ちなかったのは舞台の反射面のせいではなかっただろうか?
それにしてもあの声の力のすばらしさ、迫力は何によって生まれるのだろうか?休憩のない3時間半の公演であったがあっという間にすぎてしまった。鍛え上げた声の力、これはいかなるスピーカもおよばないと思った。それに比べるとスピーカから流れる音楽のうすっぺらさが気になった。
久しぶりのベートーベンホール
10月14日、武蔵野音楽大学の創立60周年の式典が江古田のキャンパスで行われ、久しぶりにベートーベンホールの響きに接した。記念演奏は同学オーケストラ、合唱団によるハイドンの“天地創造”ほかであった。このホールは1960年の竣工で、オルガンを持ったコンサートホールのはしりである。
音響設計はNHK技研、旧NHKホールに続く初期の音響設計であり、素朴に残響時間と天井反射音線図をたよりに設計を進めたホールである。室形は今でいうシューボックス。何の変哲もない素朴なホールである。室容積の制約から、残響時間が1.6秒とやや短めであることを除けば、響きの質は実によい。典型的なシューボックスの密度の高い響きのホールで、バロックや小編成のオーケストラ、室内楽には最適のホールではないかと思う。私の好きなホールの一つであるが、残念ながら公開されていない。
全国ホール協会管理運営ゼミナール
ホール協会が毎年実施している研修事業の一環として、表記のゼミナールが19、20日の二日間、札幌の北海道厚生年金会館で開催された。
議題は次の三項目、“ホール建設ブームの現状と今後の問題について(永田)”“ホールマネージメントシステムについて(日本チケットVANサービスの今井氏)”“映画〈冒険とスポーツの国際映画映像〉(白馬村観光課山岸、岩城氏)”で、全国の会館・ホールから約100名の参加があった。私の興味をひいたのは“ぴあ”のチケットサービスとホール管理、運営のOA化の話で、人気番組の電話予約の難しさはなんとかならないのか、など生々しい質問がとびかった。
管理・運用面の話題がとりあげられるようになったことは喜ばしいことである。