ナディアパーク オープン
「ナディアパーク」は、名古屋市の中心地・栄に、昨年11月にオープンした複合商業文化施設である。本施設は12階のデザインセンタービルと23階のビジネスセンタービルの二つのビルが8 階まで吹き抜けのアトリウムで結ばれたツインタワービルである。前者には芸術文化・創造活動の拠点となる公共施設が設置されており、後者には店舗やオフィスが配置されている。設計は、大建設計と米国のKMD の共同設計である。
デザインセンタービルの3 階から7 階には「国際デザインセンター」が設置されており、3 階にはその中核となる 500人収容のデザインホールが配置されている。また、7 階以上には青少年の芸術・文化活動の支援を目的に「青少年文化センター(アートピア)」が設置されていて、11階に主施設である客席数 724席のホールが配置されている。ホールは、演劇を主目的とした多目的ホールではあるが、ピアノリサイタル程度は可能なように舞台反射板も設置されている。7 階から9 階にはダンスや演劇の練習室3 室、音楽練習室3 室、スタジオ2 室(録音用、ミニコンサート用)およびリハーサル室が配置されていて、日常の練習にも十分に対応できるように計画されている。練習から本番まで一貫した利用が可能となっているのが、本施設の大きな特色である。
このような複合施設では、音響設計の第一の課題はなんといっても遮音性能の確保である。とくに運営団体が異なる施設が一つの建物内に近接して配置されることから、各室の使用目的や運用状況を確認しながら遮音構造を検討した。構造的な理由から鉄骨構造にしたいという希望も出されたが、乾式構造では隙間ができやすく、またその処理も難しいことや工事の出来具合に個人差が出るため性能のバラツキが多いなどから、ホールや練習室等の遮音性能の確保が必要な室の周辺はSRC構造とした。また、国際デザインセンター側への音漏れ防止やホールとの同時使用に対して、ホールに近いリハーサル室、電気楽器の練習に対応させた音楽練習室およびスタジオでは図(A)のような防振構造を、またダンスや演劇用の練習室では(B)のような防振構造を採用した。工事完了後の音響測定では、リハーサル室~ホール間で90dB以上(500Hz)の遮音性能が確保されているなど、所期の目標を満足する結果が得られていた。
青少年文化センターのホールは、演劇主体の多目的ホールということから幕設置時の明瞭度の確保とピアノリサイタル等の生音のコンサートに対して反射板設置時の有効な反射音の確保を目標に音響設計を行った。設計初期にはクラシックコンサートを指向した多目的ホールとして計画されていたため天井高をかなり高くしていたが、市の意向や周辺のホール事情を考慮して演劇を主目的とする多目的ホールへ変更し、それに伴い天井高を低くした。客席のデザインは、設計者の弁では海の中から上を見上げたような雰囲気ということで、天井形状は波をイメージした大きな曲面に、壁は岩を模倣した凹凸面になっている。これらの形状については客席への初期反射音の到達状況をコンピュータシミュレーションで確認しながら決定した。
国際デザインセンターのデザインホールは、展示会やファッションショーを主な使用目的として計画された。 230席の移動観覧席が設けられた平土間のホールで、天井には照明やスピーカが設置されたキューブが全面に配置されている。使用目的から響きは短めに設定した。また、階下の店舗や階上の会議室等との遮音確保のために、デザインホールの天井裏および店舗の天井裏に防振遮音天井を追加設置した。
国際デザインセンターは、昨年のオープンと同時に展示会等の各種催し物が開催されている。また、青少年文化センターのホールは、2 月7 日のピッコロオペラで開場し、3 月末まで開館事業としてダンス、演劇、コンサート等、各種の催し物が予定されている。交通の便も良いし、使いやすい規模の施設が比較的低料金で使用できることなどから、各施設とも高い稼働率が期待できるものと考えられる。また、施設内にはゲームセンター的なスペースも設けられていて1 日十分楽しめる空間でもある。(福地智子記)
アンプなどの音質について見直しの気運
最近になってスピーカ、アンプなどの音質比較試聴会が増えている。メーカーサイドの販売促進のためではなく、ホール建設時点においてメーカーや機種選定のための施主、設計側からの要望である。このきっかけとなったのは、新国立劇場建設着工後、技術運営スタッフがそろいだしたころと記憶しているが、新国立劇場の音質は最高でなければならない、という気概から、音響専門部会(委員会組織)や技術運営スタッフのメンバーらが施工(メーカー)担当会社の作っている音響調整卓(アナログ、デジタル)からパワーアンプ、マイク・スピーカケーブルまでの機器の音質を確認しようとしたことによる。その結果、すでに定評のある外国製の機器に1 日の長が認められた。主に中低音域で量感と瑞々しさがあり音が前に元気良く飛び出してくる感じがし、さらに高音域は澄んでいるという特徴があった。
また、マイク、スピーカケーブルの音質差は少しはあるという程度の認識で、変化は感じられるが音質の善し悪しにまで言及できない程度ではないかと思っていた。しかし、この予想は見事に外れ、アンプなどの音質差にも匹敵するほどの差が認められた。ちなみに、試聴したケーブル長は約60mである。このケーブルによる音質の変化は、例えるならノイズが無くなっていくがごとく、どんどん静かになっていくような感じである。また、音像定位もハッキリしてくる。したがって、ロックなどの音楽では音楽そのものの雰囲気がまったく違ってしまい、同じ音楽ではなくなってしまうほどである。ケーブルも音楽ジャンルによって選択できるようになったようだ。最近のいわゆる1 ボックス型のスピーカが、このわずかな差を表現できるように、性能が飛躍的に向上したとも考えられる。
これらの結果に対して、奮起した施工者、定評のある機器を採用した施工者それぞれが、強烈な刺激を受けたことは事実である。これらの影響であろうか、設計、メーカー、ホールの音響技術担当者側に加え施主側の建設・運営担当者も音質に関心が高くなってきており、試聴会の開催となって現れている。非常に好ましいことである。現在私の知る限りにおいて、音質改善に取組み良い結果をだしているメーカーは、TOA、不二音響、松下通信工業である。すでに海外の定評のあるメーカーの音に追い付いているように思えるが、後はメーカー独自の音をいかに創っていくかに関心が集まっているともいえる。今後の音に注目していきたいし、期待している今日この頃である。(浪花克治記)
コンサートホールの「甕(かめ)」
昨年末の深夜、某民放テレビで「コンサートホールの音を探る」と題した番組が放映された。コンサートホールの音の秘密をテーマにした、一種の科学番組風の内容であった。この中で、日本の能舞台の床下に見られる「甕(かめ)」が紹介された。能舞台で足踏みした時、この床下の「甕(かめ)」が音の良さに寄与しているという説があり、一方で科学的根拠に乏しいとする説もある。番組では、この「甕(かめ)」の中で、ある周波数の音が共鳴してその音が外部に放射されることを実験的に紹介したうえで、東京の某ホールにはこの「甕(かめ)」に相当する物が「音の秘密」として設置されていることを紹介していた。
早速、当事務所で音響設計を担当し現在設計や建設が進んでいるホールの建築設計者や自治体の担当者から「設計中のホールにもこのような物を導入した方がよいのではないか」「住民から、今度できるホールにはこのような音を良くする「甕(かめ)」が設置してあるかと聞かれ、それにはどう解答すればよいか」などという問い合わせがあった。
コンサートホールなどに「甕(かめ)」の類を導入したりするのは、音の放射よりもレゾネーター(共鳴器)としての吸音効果を期待してのことで、実際には「甕(かめ)」というよりも箱状の空洞に小さい開口部を設けたものを多数用意して、特に低音域における特定の周波数の音を吸収してブーミングなどを防止する目的で使用することがある。共鳴器としての箱の容積や開口部の形状、寸法などにより、吸音する周波数が決定され、それらを多数組み合わせて利用することになる。しかしながら、吸音の効率が低いことや多数のレゾネータを組み合わせる必要があることから、実際にコンサートホールに導入され、利用されている例は世界的にみても希といってよい。
今回放送された番組が、どのような意図で「甕」を取り上げたのかは分からない。しかしながら、テレビや新聞などのマスコミが、視聴者や読者がより興味を持つように特定のポイントをことさら強調して取り上げる傾向がしばしばあることは、筆者等のこれまでの経験からも十分頷けることである。ニュースや特別企画番組などで、予めあるストーリーのもとに取材を受けることもよくある。インタビューの質問などもそのストーリーに沿った答えが引き出されるように仕向けられることもよく経験する。かくして受け手に、より強いインパクトを与えることができるのであろうが、内容の科学的、技術的な正確さという点では誤解を与える可能性があることは否定できない。
以前に某新聞社から「ホールの音響」についての取材を受けた際、取材の主旨を説明されたので、逆に時間を十分確保してもらって裏の裏まであらゆる情報、知識をお伝えしたことがある。ところがその記者氏は、よく分かったが逆に当初の主旨どおりの記事が書けなくなってしまったと悩んでいた。すべてを理解してもらった上でまとめあげた原稿は、上司から「それでは面白くない」と却下されたそうである。マスコミはその影響力が大きいだけに、その取り上げる内容、取り上げ方については、十分な検討が必要であることはいうまでもない。自分の専門分野以外のほとんどの情報が同様のフィルターを通して我々に提供され続けてきていることを考えると恐ろしい気がする。(豊田泰久記)
日本劇場演出空間技術協会(JATET)のホールデータベースの紹介
日本劇場演出空間技術協会の建築部会では、3 年前からホールのデータベース作りに取り組んでいる。現在、第1 集、第2 集(合計55ホール収録)が同協会から発売されており、ホールの諸元や図面などが満載されている。ホールの設計、コンサートの企画など、様々な分野に有効に活用できるものである。また、CD-ROM版が付いているので、コンピュータ上でのデータベース化の向きには大変便利であろう。詳細、連絡はJATET事務局(Tel:03-3360-6134)まで。(豊田泰久記)