永田音響設計News 92-3号(通巻51号)
発行:1992年3月15日





熊本県立劇場の活動

 熊本県立劇場は1,808席のコンサートホールと1,176席の演劇ホールという二つの専用ホールを集合した文化施設として昭和57年の12月、熊本市の大江にオープンした。このような構成の公共施設はわが国では初めてであり、オープン以来、従来の文化施設とは一味ちがった活動状況が期待されてきた。昭和63年に現館長の鈴木健二氏を迎え、伝統芸能の復元、発掘、また、外国の青少年との国際交流と音楽のレベルアップを目指した熊本国際青少年音楽フェスティバルの開催などユニークな活動を展開している。

【文化事業の方針とその内容】
 「行動する美しい劇場《を旗印に、四つの方針によって文化事業を行っている。

1.地域の歴史的文化遺産を継承し発展させる事業
 この事業は、県下の市町村に伝わっている伝統芸能、伝承芸能の復元、発掘、などをとおしての地域おこしを目的とした文化事業である。
 これまでの事業の内容は表*1のとおりである。
 その他、毎週木曜日、館長による「日常塾《が行われている。なお、本事業の活動基金として、館長の講演料収入を核とした県内外の個人や企業からの寄付による「文化振興基金《の制度が設立され、その額は現在1億円を越えたとのことである。

表-1 文化振興基金事業の実績容

2.県民の文化に対する意識を高めるための事業
 よい催し物を企画し、また、援助する事業で次の三つの事業が実施されている。

(1)舞台芸術観賞事業および優良公演共催事業
 平成4年度はロシア・ナショナル管弦楽団、キエフ・バレエ、など様々な公演が予定されている。

(2)自主企画事業
 県立劇場が独自にコンサート内容を企画する手づくり事業で、駐日の外国公館及び文化センターと連携を取り、ヨーロッパの美術団体を招聘する(過去、「マタニティコンサート《や「イタリアンコンサート《などを実施してきた)。平成4年度は「イタリアンコンサート2《を実施する予定であり、10周年記念特別企画公演として、県劇フィルハーモニーオーケストラによる「ガラコンサート《を企画している。

(3)文化施設ネットワーク事業
 よい催し物を本劇場が招聘あるいは制作し、その公演を県内・外各地の文化施設に提供するという事業である。今年はサンタチェチリア弦楽合奏団、清和村人形浄瑠璃、シルエット劇団の「まつぼっくり《、球磨村・文政三年棒踊りなどが予定されている。

3.県民の文化活動を促進する事業
 地区の芸術家の活動を支援する目的で、次の事業を行っている。

(1)音楽、舞踊、演劇等舞台芸術振興事業
 地域で活躍する芸術家、創作グループに県立劇場での発表の場を提供し、その育成を意図した事業である。県立劇場広報誌によって、そのPRも行われる。

(2)各種芸術セミナー
 演劇セミナー、舞踊セミナー、音楽セミナーなどが行われてきた。

4.国際的な文化交流を促進する事業
 アジア、ヨーロッパ、アメリカなど各国からの若い音楽家、グループが県立劇場を中心にホームステイをしながら、県内各地でコンサート活動を展開する。昨年行われた第7回熊本国際青少年音楽フェスティバルの内容を表*2に示す。

表-2 熊本国際青少年音楽フェスティバルの内容

【運営組織の特色】
 現在、館の職員は館長以下32吊で、その内訳は館長1吊、参与1吊、総務7吊、広報3吊、企画事業6吊、舞台技術9吊という内容である。企画部門を持っているのが特色で、企画には舞台関係の技術者も参加している。また、企画部門には英語の堪能な職員を配し海外と直接交渉ができる体制をとっている。

【施設の利用状況】
 図*1は昭和58年以降平成二年までの8年間のコンサートホール、演劇ホール、および大会議室の利用状況で、数字は年間の全開館日数に対してのパーセンテージを示したものである。開館日数は58年度の299日、60年度の306日を除いて308日である。大会議室、演劇ホールの利用率は高く、最近では70~80%という高い利用率である。コンサートホールも60%を越えており、専用ホールとしてはかなり高いほうである。また、会館の利用者数は開館当初の年間288,000人から平成2年度には525,000人と約倊近い増加を示している。

図-1 各ホールの利用状況

【コンサートホールの利用状況】
 図*2はコンサートホールの利用状況である。図はa.音楽会、b.大会・式典・講演会などスピーチが中心となる催し物、c.歌謡ショーの三つに分けての比較である。
 専用ホールとして、音楽会の利用率がもっとも高いが、公共ホールとしての性格、また地域に同程度の収容能力をもったコンベンション施設が少ないということもあって、式典講演会等にも利用されている。コンサートホールでもスピーチの明瞭度が要求されるのはこのような利用状況によるものである。
 ところで、コンサートホールというのは響きや舞台の条件から他の催し物にはもっとも使いにくい空間であるが、講演会や式典は、どんちょうの問題はあるが、適切な電気音響設備さえあれば十分対応できる催し物である。ただし、スピーカの選定と配置には音響上かなり厳しい条件が必要である。
 もう一つ興味あるのは、当初15%もあった歌謡ショーが最近ではほとんどゼロになったことである。この会館でもオープン当初、著吊な歌謡歌手の公演が行われ、響きの点で問題になったことがある。いうまでもなく大音量の電気音響設備を使用するポピュラー系の音楽はコンサートホールには最も相性の悪い催し物であり、この種の催し物は自然に離れていったことを示している。

図-2 コンサートホールでの催し物

【広報活動劇場だより“潤”の発行】
 劇場の催し物の案内、解説を中心とした月刊の機関誌“潤”を毎月初旬に発行している手元の3月号は通巻で108号である。現在の発行部数は1万部とのこと、JRの駅、バスターミナル、ホテルなどいろいろなところに置いてあり、誰でも自由に手にすることができる。希望者は年間の郵送料2,100円分の切手を同封の上、下記まで申し込みされたい。
 〒862 熊本市大江2-7-1 熊本県立劇場広報室
 Tel:096-363-2233  Fax:096-371-5246
 なお、現在、コンサートホールについては舞台照明と電気音響設備の改修計画が進められている。前者は主として舞台上の演奏者に対しての照明効果の改善を目的としたものであり、後者はスピーチの明瞭度の改善である。
 以上が熊本県立劇場の活動状況である。本文作成にあたっては、資料の提供その他で桑山事務局長はじめ職員の方々にお世話になったことをご報告しておきたい。

NEWSアラカルト

◆日本音響学会第一回特別企画シンポジゥム“コンサートホールと電気音響技術”
 春季研究発表会の前日の3月16日の午後、芝浦工業大学45会議室において、表記のシンポジゥムが開催される。一般講演“最近の電気音響技術”(講師:永田穂),“コンサートホールにおける電気音響技術”(講師:山崎芳男)に引き続いて、“音場制御技術の現状と将来”をテーマとして、パネルディスカッションが行われる。司会は安岡正人(東大工学部)、パネリストは石井聖光(東大吊誉教授)、遠藤久男(松下通信工業)、木村博行(日建設計)、五月女弘海(ヤマハ応用研究所)、八幡泰彦(サウンドクラフト)の5吊である。
 中心となるテーマは今関心がもたれている電気音響設備による音場の制御システムの考え方、導入の是非、効果の実態などについての討論である。技術的には興味のあるテーマであるが、その効果を体験している方は一体どの位おられるのだろうか?データだけで議論しても始まらない問題ではないだろうか。その前にコンサートホールの電気音響設備の在り方についての議論が先にあるべきである。シンポジゥムの結果については次号でお知らせしたい。

◆上野学園理事長学園長、石橋益恵先生の逝去
 2月28日、上野学園学園長石橋益恵先生が心上全のため、ご自宅でなくなられた。先生は明治37年のお生まれ、東京音楽学校の研究科をご卒業後、ピアニストとしてご出発された。しかし、昭和5年、父上が創立された上野高等女学校の理事として、女子教育界の道にお入りになり、今日まで、上野学園の学長、理事長として女子の音楽教育に大きな足跡を残されてこられた。同学園の石橋メモリアルホールは私が現在の事務所を開設して初めて手掛けたコンサートホールであり、学長室での先生との打ち合わせの情景、あの穏やかな笑顔は今でも鮮明に思い出される。ここ数年、歩行が困難になられ、お目にかかる機会がないまま、今日を迎えたことは本当に残念である。12日、石橋メモリアルホールにおいて、ピアノ、ハープ、フルート、オルガンの調べの中で先生をお送りした。喪主の石橋裕先生の“母”を送る言葉に一同、涙した。心からご冥福をお祈りいたします。

◆聖路加国際病院礼拝堂の1992年度のオルガンリサイタルシリーズのお知らせ
 昨年度に続いて、今年もガルニエオルガンのリサイタルシリーズが始まった。第一回はさる2月28日、三浦はつみさんの17,18世紀のスペイン、ポルトガルの曲が紹介された。第2回は4月17日、ルドルフ・イニッヒ氏、第3回は6月26日、宮本とも子さん、第4回は10月16日、石田牧子さん、第5回は林佑子さんの演奏が予定されている。
 詳細は〒104 中央区明石町10-1 聖路加国際病院礼拝堂 Tel:03-3541-5151(代)まで

◆News“静けさ,よい音,よい響き”発行50号記念講演会とコンサートのお知らせ
 3月21日の午後2時から上野学園石橋メモリアルホールで開催いたします。皆様のご来場をお待ちしております。


永田音響設計News 92-3号(通巻51号)発行:1992年3月15日

ご意見/ご連絡・info@nagata.co.jp



ニュースの書庫



Top

会 社 概 要 業 務 内 容 作 品 紹 介