永田音響設計News 91-4号(通巻40号)
発行:1991年4月25日





仙台サンプラザホールの竣工

仙台サンプラザホール(劇場形式)
 大規模な区画整理で景観が一変した仙台駅東口から徒歩で約10分、仙石線榴ケ岡駅前に1989年4月から工事が進められていた仙台サンプラザがほぼ完成し、6月のオープンに向けて準備が精力的に行なわれている。この施設は、ホール、ホテル、宴会場、大小会議室、フィットネスクラブ等を集合した複合施設で、設計・監理は山下設計・佐藤総合計画共同企業体、施工は鹿島・間・西松・東急・日本国土開発共同企業体である。

 本施設の中心となるホールは多目的ホールであるが、プロセニアムのない大胆な円形の平面形、2層のバルコニーを持つ最大2710席という東北一の規模のホールである。平土間から劇場形式に、さらに様々なステージ形式に対応できる可動客席、可動ステージなど、一般のプロセニアム形式の多目的ホールの枠を越えた試みが特徴である。1階部分は直径38m、面積1134m2で、ほぼ全面が大型自動車の直接乗り入れ可能な強度の可動床になっており、床下に入れば高さ7mの空間に巨大なマシンが所狭しと配置され壮観である。本ホールの音響設計にあたっては、当然、円形という平面形がもっとも大きな課題であった。円形の平面形状は、音響的に問題のあることは承知の上での施主側の方針であり、音響設計については、円形に起因する障害をなくして、できるかぎり良好な音響性能を実現してほしいとの要請があった。円形ホールの音響設計の難しさは、音響設計を経験すれば身にしみて感じるもので、とりわけ音楽ホールの響きとしてある程度の水準を確保しなければならないとなると容易ではない。ホールではわずかな面でも凹面はできるかぎり避けるのが常識といわれるなかで、すべての壁が凹面になる円形ホールはできれば担当したくない、というのが筆者を含めて多くの音響設計者の偽らざる気持ちであろう。この厳しい条件を克朊するため、施主、建築設計部門につぎのような条件を要求した。

・クラシックコンサートに対しては、音響効果上限界があるのは避けられないので、電気音響設備を使用する催物を主とした運用を行うべきである。頻度が低いとはいってもクラシックコンサートの使用も考慮するなら舞台反射板が上可欠である。

   ・客席天井は音響的に反射性の仕上げとする。
   ・壁面は、内装仕上げ面と躯体の間に音響上必要な空気層を確保する。

 施主、建築設計部門の理解により上記の条件はいずれも優先事項として設計に組入れられることとなった。こうなると音響設計担当としての責任は重い。プレッシャーのかかるなかでもっとも重視したのは、障害の大きな原因となる1階壁面をできるかぎり“完全な”吸音面にすることである。既存の円形ホールで音響的な障害の原因の多くが、吸音面で吸音され尽くされないわずかな反射音が、円の中心部に集中することによるものである。具体的には吸音面に凹凸をつけることによる実効的な面積増と背後の空気層による低音域の吸音量の増加を図った。これに加えて音響反射面は徹底して拡散形状とした。これらは内装仕上げ面背後に奥行き1m近い空間が確保されたために実現できたものである。電気音響設備は、ステージ上部に設置された3台の電動昇降式のメインスピーカのほかに効果用のウォール、ホリゾントスピーカを備え、操作の確実化、簡易化を図る目的で、出力マトリックス卓からパワーアンプまでの出力系統をパソコンによって制御するシステムを導入した。また、系統の中に任意に挿入して使用できるオートフェーダも組込んである。さらにホールの運用体制を考慮して持込み設備に対する電源、各種コンセント等の充実を図ったことはいうまでもない。

 4月初旬に総合的な音響測定を実施した。その結果、円形形状に起因する音響的な障害は聴感上ほとんど無視できることを確認した。一抹の上安を抱いて注目していた施主等の関係者ともども一安心というところである。残響時間は空席時2.1秒、80%収容時1.8秒(500Hz)で、これは設計目標とほぼ一致している。

仙台サンプラザホールの残響時間周波数特性
ホール容積V=22,271.5m3

 現時点でまだ未解決の問題は、クラシックコンサート用の音響反射板の設置方式である。設計段階では、ポリカーボネードパネルを浮き雲状に吊り下げて用いる方式で計画していたが、設置・撤収の手間、舞台照明との取り合いなどの問題から、ホール運用部門を中心にして本ホールに適した方式の検討が進められている。6月5日にはオープン記念としてN響のコンサートが予定されており、その際には実際に新しい試みの反射板を見ることができよう。

 本ホールは、当初“センターステージをメインとし、エンドステージも出来る”というコンセプトで計画が進められた。この時点では円形形状は必然的な意味をもっていたのであるが、実際にホールを使用する公演関係者からセンターステージをメインとすることに強い難色が示され、“エンドステージをメインとし、センターステージも出来る”に変更を余儀なくされた。したがって円形形状の必然性は薄らいでしまったのだが、すでに工事が進行していたため、外形の変更はなされなかったという経緯である。この状況をとおしての各関係者の立場、主張等を考えると、わが国における劇場計画の難しさ、とくに新しい試みを実現する難しさを感じざるを得ない。
 おわりに、音響設計の実施にあたって、山下設計の佃氏から終始、助言と激励をいただいたことに対し厚く御礼を申し上げたい。(中村秀夫 記)

“音響・振動のアクティブコントロール”に関する国際シンポジゥム盛況に終わる

 4月9日から11日まで、都市センターホテルにおいて、上記のシンポジゥムが開催された。主催は日本音響学会で、アメリカ、欧州各国、ソビエト連邦、ハンガリー、ポーランド、リトアニアなどの旧東欧圏、近くは中国、韓国など15カ国から300吊を越える参加者を迎えた。このシンポジゥムは次の三部門で構成されていた。すなわち、

   ・騒音のアクティブコントロール(Active Noise Control)
   ・振動のアクティブコントロール(Active Vibration Control)
   ・音場のアクティブコントロール(Active Sound Field Control)

 騒音のアクティブコントロールについては、NEWS90-05号で紹介したように、逆位相の波を発生させて、騒音をキャンセルするという原理である。現在、空調ダクト内の低音域のような一次元の波のアクティブコントロールについては実用化されており、今後は急速に普及する見通しである。防音塀の回折波に対してのアクティブコントロールの実験報告から、アクティブコントロール用スピーカの開発など実用化レベルの報告が多かった。騒音のアクティブコントロールの究極の目標は三次元の音場の制御であろう。つまり、限られたスポットでもよい、音のない空間を創りだすことである。環境音楽もここでやっと活躍の場ができるのではないだろうか。

 振動のアクティブコントロールについては、錘を移動して船舶の揺れを小さくするというアイディアが1891年に提案されていたという城戸先生の報告があった。現在では外力による制御のほかに、振動系のばね定数や粘性を変えて振幅を小さくする手法が開発され、小は精密機械室の床の防振から、大は風や地震に対して建物全体の揺れを小さくする手法が実用化されている。

 音場のアクティブコントロール(ASFC)とは室内にスピーカから残響音や反射音を放射して、音場を調整する方式をいう。今、家庭用ビデオの周辺機器として出回っている各社の音場コントロール装置、“世界のコンサートホールをわが家に”などの謳い文句で市販されている装置がまさにこの音場のアクティブコントロールなのである。
 このASFCの元祖はロンドンのロイヤルフェスティバルホールの残響時間を延ばす目的で開発された“Assisted Resonance”(AR)といわれる方式で、1964年以降、このホールのクラシックの演奏会には常時使用されている。東京芸術劇場の大ホールにはこのARシステムを導入してあるが、可動するのはオルガン工事の後、多分来年の夏頃になると思う。

 最近のASFCはディジタル信号処理の技術を取り入れ、好みの反射音、残響音を付与することが可能となっている。ASFCはロイヤルフェスティバルホールの場合のように、もともと音響上の欠陥を補う目的で開発されたものであるが、現在では、在来の残響可変装置のように多目的ホールの常設の設備として導入を前提としたホールが計画されていることは注目に値する。なお、わが国の特殊な事情として、オルガンリサイタル時の残響音の増強を目的としてホ*ルや教会に導入するケ*スも増えている。

 機能的にみればこの音場のアクティブコントロールは魅力的な設備である。また、室の形状に対してのデザインの自由度を拡大するという点で、建築家にもアクセプトできる設備であると言えよう。しかし、問題は音色、つまり、クラシック音楽に対して音の自然性がどこまで保証できるかという点である。これには信号処理の技術だけではなく、収音の方法やスピーカによる音の与え方など現実に即した実験的な検討が必要である。
 わが国ではヤマハ(株)が開発したAA(Assisted Acoustics)という方式が礼拝堂、コンサートホールなどに浸透している。しかしまだ“クラシック音楽に電子の音”という潜在的な拒否反応が底辺にある。それだけに使用の実態、効果の詳細が明確でないことが一つの問題である。

 今回のシンポジゥムはこれまでの音響関係のミーティングとしては異色の感があった。湾岸戦争の余波を受けて、一部の招待者のキャンセル、対応の遅れなど事務局としてはたいへんなご苦労のようであった。しかし、会場の雰囲気から印刷物のデザインまで、実に“あかぬけ”した明るい雰囲気の学会であったことは喜ばしい。これには一重に組織委員会として実務を担当された橘、山崎、桑野、浜田等諸先生の若いエネルギーとセンスによるものであろう。

日本オルガン研究会4月、5月、6月の例会のお知らせ

◆4月27日(土)東京池袋に昨年オープンした東京芸術劇場の見学とガルニエ氏の講演会
 大ホールに現在工事中のガルニエオルガンは、三つのターンテーブルの上にクラシック、モダンの二つの様式のオルガンが設置された世界でも初めてのコンサートオルガンである。オルガンファンの方はどうぞ。スケジュールは下記の通りである。
   10:00~12:00 大ホールとオルガン見学
   13:30~15:30 ガルニエ氏の講演会
   集合:10:00 東京芸術劇場エントランスホールエスカレーター前(時間厳守)

◆5月25日(土)姫路パルナソスホールの須藤オルガンの見学会と演奏会
 姫路パルナソスホールはNEWS89-10号で紹介した811席のコンサートホールで、ここに43ストップの須藤オルガンが設置されている。講演は須藤氏、演奏は高田富美氏の予定。

◆6月22日(土)霊南坂教会講演と演奏会
 講 演:高橋昭氏、
 テーマ:モーツァルトとオルガン(仮題)
 演 奏:モーツァルトの教会ソナタを中心としたプログラム
 詳細は日本オルガン研究会事務局今井奈緒子氏まで。


永田音響設計News 91-4号(通巻40号)発行:1991年4月25日

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