静けさ よい音 よい響き NAGATA ACOUSTICS
ニュースの書庫

News 14-03号(通巻315号)

発行:2014年3月25日

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蘇州大学・音楽学院のホール建設プロジェクト

恩玲学生活動センターの完成予想図
恩玲学生活動センターの完成予想図

  中国・江蘇省の東南部に位置する蘇州市は、絹織物の生産で発展した歴史ある土地であり、現在も上海から高速道路で西へ約1時間という地の利がある。旧市街地とその周辺一帯を含め、古くから運河による流通が盛んであることから、かつて東洋のヴェニスと呼ばれた風情が残る。旧市街中心部には多くの歴史ある建物が現存し、世界遺産に指定されている庭園が点在する。有名な漢詩「楓橋夜泊」が詠まれた、唐の時代に建立された寒山寺があるのもこの旧市街である。上海と蘇州が舞台となった戦中の日本映画の挿入歌、李香蘭(山口淑子)による「蘇州夜曲」のメロディを耳にしたことがある方も多いのではないだろうか。また、パリ・ルーブル美術館のガラスのピラミッドの設計者として広く知られる建築家のIeoh Ming Pei(貝聿銘)は、この蘇州で代々地主を務めてきたPei家の出身であり、氏の設計による蘇州博物館の新館が、市内最大の庭園である拙政園に隣接する形で2006年にオープンしている。

恩玲学生活動センターの全体計画
恩玲学生活動センターの全体計画

建設中の多目的ホール棟(外観)
建設中の多目的ホール棟(外観)

建設中の多目的ホール棟(内観)
建設中の多目的ホール棟(内観)

  旧市街と湖を挟んで東側に広大なキャンパスを持つ蘇州大学の前身は1900年に創立された東呉大学であり、周辺の学校との合併などを経て、現在は江蘇省の重点総合大学として中国政府から特別に指定されている。医学の研究を筆頭に数多くの分野をカバーしており、総学生数は約60,000、教員数は約5,000となっている。

  昨年には音楽学部が新設され、Dr. Hekun Wu(呉和坤)が学部長として迎え入れられた。Dr. Wuは上海に生まれ、チェリストおよび指揮者として数多くのオーケストラと共演しながら世界中で活躍する一方で、アメリカ・オレゴン州の伝統校ウィラメット大学で教鞭を執るなど、後進の指導にも力を入れてこられたが、このたび、氏の地元に程近い蘇州大学での音楽教育にさらなる情熱を注ぐ決心をされたのである。

  新設された音楽学部では、演奏、作曲、理論および音楽史など、多くのクラスが英語で行われ、教員・学生ともに国際色豊かな環境に置かれる。例えば、本ニュース187号(2003年7月)でも紹介したアメリカ・ニューヨーク州のバード・カレッジとのあいだには、お互いの学生や教育プログラムの交換だけでなく、バード・カレッジのリベラル・アーツ・アカデミーを蘇州大学の学内に設立するための調査を始めるなど、包括的な業務提携が既に行われている。

  一方、音楽学部の創設より以前の2010年3月には、国際交流活動をより一層広げていくための場としてキャンパス内に新しいコンベンション施設の建設プロジェクトが開始されていた。その建設資金のために多額の寄付をされた香港の慈善家夫妻の名前から「恩玲学生活動センター」と名付けられた建物は、1,400席規模の多目的ホールを中心とした複合施設である。このホールは当初、プロセニアム開口、舞台設備を収納するフライタワーおよび2層のバルコニー席を持つ、ごく一般的な多目的ホールとして設計され、工事自体もコンクリートの構造体がほぼ出来上がりつつあったが、新設された音楽学部のDr. Wuからの招聘により永田音響設計がプロジェクトに新たに参加することになり、クラシック音楽のコンサートにも十分に対応できるよう、計画を見直すことになった。その結果、現状の構造体は残しつつ、プロセニアム開口部の高さを上げ、舞台設備としてオーケストラ・シェルを導入することが決まった。また、オーケストラ・ピットの床面をステージレベルまで上げて張り出し舞台としても機能させることにより、大きな編成のオーケストラをも収容可能なステージ面積を確保した。

  さらに、多目的ホール棟の北側には、室内楽を中心としたクラシック音楽の演奏会を主な使用目的とする400席のリサイタルホールが新たに計画されることになった。ホールの基本形状としてはステージの周りを客席が取り囲んで演奏者と観客のあいだの高い一体感や親密感が得られるようなアリーナ型を採用し、音響面を考慮して天井を十分に高く取っている。

  本プロジェクトの建築設計は、香港を拠点とするPhilip Liao & Partnersが担当している。敷地南側にあたる多目的ホール棟および音楽学院・ライブラリー棟の建設が第一期工事、また北側のリサイタルホールおよび野外劇場スペースが第二期工事として整理され、現在は第一期工事の2015年中の完成を目指し、各ホールの形状や内装の詳細など、急ピッチでデザイン作業を進めているところである。(菰田基生記)

蘇州大学音楽学部のホームページ


JATET FORUM 2013-14「劇場・ホールを震災対応調査から考える」

  1月29日(水)に、JATET FORUM 2013-14が開催された。劇場演出空間技術協会(JATET)主催のこのフォーラムは今回で3回目を迎え、これまでには、東日本大震災によるホール被害の調査、震災時の対応、天井が崩落したホールのその後の復旧工事や耐震計画などの報告が行われてきた。(本ニュース289号(2012年1月)参照)

  今回のフォーラムは、「3.11以降の劇場・ホールを震災対応調査から考える-劇場・ホールにおける防災・安全・技術(その3)-」と題し、過去2回に引き続き、ホールの被災状況、復旧計画等の報告や、ホールの天井耐震計画、また被災地の様々な立場の方からの報告により、これからのホール施設をどのように組み立て、計画して行くべきかという課題を共有する場として開催された。

  第1部では、東京都市大学の勝又英明教授から、全国の民間ホールを含む2253館を対象にした震災による被害状況と復旧工事のアンケート調査の報告が行われた(回収は1061館)。調査内容は、被害状況や復旧工事とそれに要した期間および費用、事業再開・継続状況、避難所設置の状況、耐震性能と今後の長期修繕計画などである。また、特に大きな被害を受けた14施設に対してのヒアリング調査の報告も併せて行われた。仙台高等専門学校の坂口大洋氏からは、ホールによっては避難経路上の天井の落下等により、想定されていた避難経路が必ずしも安全ではなかったこと、被災地のホールで人的被害がなかったのは現場スタッフの適切かつ自主的な判断が大きな要因であり、その時・その場での現場スタッフの的確な対応を今後に伝えていくなど、ハード・ソフト両面の対応の検討が特に重要であるとのことであった。

  第2部では、進行中のプロジェクトとして、上田市の交流・文化施設のホール天井の耐震性について梓設計の小林裕明氏より報告があった。大・小ホールを持つこのプロジェクトは2010年に設計が、2012年より建設が始まった。元々「耐震天井」として計画されていたが、震災の発生を受け着工直前の2012年7月に「建築物における天井脱落対策試案」が公表され、建築基準法が改正されることが明らかとなった。当時まだ具体的な検討方法が明らかでない状況であったが、できる限り法改正の内容に準じるため天井の仕様変更を行ったとのこと。基本方針としては、脱落の原因となり得る吊り天井を止め天井の形状に合わせた骨組フレームを組むこと、加振試験により下地の固定方法や天井面と建物とのクリアランスの検討を行うなどであった。仙台市の細井崇久氏からは、震災当初は皆が生きることに必死で文化活動は必要ないのではと考えた時期もあったこと、しかし復興コンサートなどの音楽に触れることでそれまでの緊張が解け生きていることを実感したことなど、当時の切迫した状況が伺えた。東北大学大学院の小野田泰明教授からは、津波で被害を受けた岩手県釜石市で、小野田氏や建築家の伊東豊雄氏らプロジェクトチームとともに市民自らが参画し、市の東部地区に復興と賑わいをもたらす大型商業施設とホール施設が併設されたフロントプロジェクトと呼ばれる計画について報告があった。最後に行われたパネルディスカッションでは、小野田氏に並び、劇団青年座の高木達氏、宮城県仙南芸術文化ホールの水戸雅彦氏、日本大学の本杉省三教授らにより行われ、今後のホール計画のあり方について議論された。盛りだくさんのフォーラムの詳細については報告資料集をご覧いただきたい。(酒巻文彰記)

劇場演出空間技術協会(JATET)のホームページ


伊藤美歩さんにファンドレイジングについてお聞きする。

伊藤美歩さん
伊藤美歩さん

  講師をお招きして興味深いお話を伺う会を所内で不定期に行っており、今回は伊藤美歩さんにファンドレイジングについてお話しいただいた。伊藤美歩さんは、アメリカのノースウエスタン大学を卒業された後、ウォルト・ディズニーコンサートホール建設のためのファンドレイジングにも携わっておられた。帰国後、(有)アーツブリッジを設立され、NPO団体や公益法人へのファンドレイジングについてのコンサルタントを行う傍ら、コンサートの企画・制作なども手がけられている。現在、日本ファンドレイジング協会の理事もされている。実は、永田音響設計アメリカ事務所に2003年まで在籍されていた。

  多くの芸術団体では事業収入だけでは経営が成り立たないところが多く、国などからの公的助成金や企業からの支援金を受けているが、政策の変化や景気の変動で安定した経営が難しくなることも考えられる。個人からの支援を得られれば、安定した収入源が確保できるのだが、個人の寄付が日常的に行われているアメリカとは異なり、日本では寄付はまだ特殊なことで、実現にはほど遠いのが実状とのことである。2009年に、日本ファンドレイジング協会が設立され、ファンドレイジングを根付かせる活動を行っている。日本ファンドレイジング協会の大きなミッションは「2020年には善意の資金総額、年間10兆円」の実現である。また、ファンドレイザーが誇りと自信を持って活動できること、そして寄付をする方の幸せと満足が得られる社会を目指して活動されているとのこと。

  実際にファンドレイジングに取り組まれている例として、神奈川フィルハーモニー管弦楽団のお話があった。支援を募る時に大切なことは、目標設定を明確にすることだそうである。神奈フィルの場合は、3億円の債務超過を解消し300万円の純資金を確保するために“目標5億円”を掲げてブルーダル基金を設置した(ブルーダルは横浜のマスコットで犬のキャラクター)。様々なコンサートを神奈川県内の至るところで開催し、2012年度は280回を数えたそうである。ホームページに記載されている積み立金も現在4億6千万円強と目標達成間近である。さらに定期会員が増加したということで、支援が継続していることが伺える。支援が単発に終わらずに継続した形とすることが重要で、そのためには結果の報告が欠かせないこと、支援更新のためには年間7回以上いろいろな立場の人が様々な方法でコンタクトすることが望ましいこと、そしてお礼の気持ちを手紙で伝えることも大切だということをお聞きした。支援する側とされる側の橋渡し役であるファンドレイザーの役割は重要だと感じた。日本でもファンドレイジングへの関心が高まれば、制度や支援のあり方が変わるのかなと考えさせられた。(福地智子記)



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