静けさ よい音 よい響き NAGATA ACOUSTICS
ニュースの書庫

News 13-10号(通巻310号)

発行:2013年10月25日

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クレモナ・ヴァイオリン博物館+室内楽ホール、オープニング

  イタリア北部のヴァイオリンの街、クレモナにヴァイオリン博物館と室内楽ホールが完成したことは、昨年の本ニュース297号(2012年9月)にてお伝えした。その後、約半年の準備・調整期間を経て今年の春頃に迎える予定であったそのオープニングは、さらに半年遅れてこの9月14日にようやくオープンした。遅れの原因は純粋に政治的な理由による。当初イタリア大統領のナポリターノ氏のオープニングへの出席が予定されたのであるが、2月に実施されたイタリア総選挙の結果から大統領のスケジュールが急遽不透明となり、日程が決定できないままこの秋口まで延期することになったものである。

  しかしながら、オープニングの日程がずれたことにより、新ホールの準備・調整にはより時間をかけてゆっくり行うことができ、新ホールにとってはむしろ悪くなかったといえるかもしれない。この間、色々な演奏家やアンサンブルを迎えてリハーサルを行い、彼らに新しいホール空間に存分に慣れてもらうことができた。ヴァイオリンを含む各種ソロ楽器、弦楽四重奏、木管アンサンブル、コーラス、等々様々であり、筆者もいくつかのリハーサルに立ち会った。

Fig-1 標準配置のアンサンブル
Fig-1 標準配置のアンサンブル
Fig-2 円形配置のアンサンブル
Fig-2 円形配置のアンサンブル

  新ホールの客席レイアウトは、普通のホールに比べると大変ユニークといえるであろう。450席の小型ホールにもかかわらず、ステージはホールの端ではなく真ん中に設置されており、およそ1/3の客席はステージの後ろ側に配置されている。これは、あらゆる客席がステージにより近くなるようにするためであり、また客席どうしの顔が見えるようにして、より親密感の増した客席レイアウトを目指した結果である。しかしながら、このユニークなレイアウトに戸惑う演奏家も少なくなかった。すなわち、まず最初にこのホールのステージに入ってきてどっちを向いて演奏すればよいのか、ちょっと戸惑うのである。やがて聴衆の多くがいる方を正面としてリハーサルを始めるのであるが、このようなレイアウトに慣れていない演奏者は、時々後方の客席が気になる素振りも見せる。筆者がアドバイスしたのは、従来型のステージでのレイアウトに拘らないことである。客席が一方向だけではなく、四周ぐるりと取り囲まれているのだから、例えばアンサンブルも円陣を組むようにお互いが向き合ってやってみてはどうかというものである(Fig-1、Fig-2 参照)。その結果、多くのアンサンブルが演奏家どうしが向き合った配置に興味を示し、ほとんどの演奏者は通常の配置よりお互いのコミュニケーションが取りやすいことを経験した。実際に、ある弦楽四重奏は事前のリハーサルでお互いに向き合った配置に興味を示し、オープニングの一環として行われた彼らのコンサートのアンコールにおいてこの配置を披露してみせたのである。これらの試みが、ユニークなスタイルを持つこの室内楽ホールのひとつの“売り”になればいいと思う。

Fig-3 オープニング式典
Fig-3 オープニング式典

  オープニングのコンサートに先立ち、ホールが所属するヴァイオリン博物館のオープニング式典が博物館前の広場にて執り行われた。ナポリターノ大統領は最終的には出席できなかったものの、地元のクレモナ市長を始めとしてイタリア政府の閣僚やEUからの主要メンバーも参列して行われた(Fig-3)。広場に集まった一般の聴衆も二千人位はいたであろうか。クレモナでこのように多くの人が集まったのを見たのは初めて、という地元の人達の声も聞かれた。政治家や名士達による挨拶の多くは、新博物館、新ホールが人を呼ぶことによって地元クレモナにもたらす経済効果に期待を込めたものであった。上手な運営無くしては人は集まらないし、その経済効果も期待できない。今後の運営に関すること、博物館、ホールの将来に対するヴィジョンについての議論、啓蒙などの言葉もあって欲しかったと思っている。(豊田泰久記)


新潟市秋葉区総合体育館のオープン

  10月14日の体育の日に、新潟市秋葉区総合体育館がオープンした。新潟市秋葉区は、2005年に旧・新津市が新潟市へ合併され、その後、新潟市の政令指定都市移行に伴い2007年に誕生した区である。

施設外観
施設外観

  秋葉区総合体育館は、既存の旧・新津市民会館が新しい秋葉区文化会館(本ニュース309号)として生まれ変わるのに伴い、旧市民会館のあった敷地に計画された。施設は、区民のための各種スポーツ大会が開催可能なアリーナをはじめ、多目的ルーム、研修室、会議室等からなり、区民の生涯にわたるスポーツ活動や健康づくりを実現する施設として整備が進められた。アリーナはバスケットボールコートが3面、2階には540席の観覧席が備えられ、アリーナ2階とアリーナ以外の共用スペースを合わせた施設全体を一周するようにランニングコースが設けられている。

  設計・監理は久米設計、建築工事は本間・水倉・近藤特定共同企業体である。弊社は設計段階における音響コンサルタント業務と完工時の音響測定を担当した。

アリーナ内観
アリーナ内観
アリーナ天井
アリーナ天井

◆残響過多の抑制
  体育館の音響設計として最初に挙げられる課題は残響過多の抑制である。体育館・アリーナなどの施設は、対象となる体育練習、競技の種類・内容によってアリーナ床面積、収容人数、天井高の確保という要件から、必然的に室容積が大きくなる。残響時間は室容積に比例するため、大空間の残響時間は長くなりがちである。また、ホールのように吸音性の客席椅子や幕といった吸音要素も設置されることが少ないため、どうしても響きは長くなりやすい。音環境としては、使用条件を考慮するとできるだけ吸音が多い方が望ましいが、アリーナの側壁は人やボールが当たる可能性があるため、衝撃に強い内装材であることも求められる。秋葉区総合体育館では、天井と壁上部にグラスウール25mm厚、アリーナ側壁の一部には有孔板+グラスウール25mm厚、観覧席通路の天井には岩綿吸音板等による吸音構造を採用した。完成したアリーナ(35,000m³)の残響時間は約2.7秒(500 Hz、平均吸音率0.22)であり、スポーツ大会等の利用に対して支障のない結果が得られている。

◆電気音響設備
  体育館において拡声が聞きづらいというのは、しばしば経験することである。大空間であることにより響きが長いことに加えて、適切な数のスピーカが適切な位置と向きで設置されていないことも聞きづらい要因として挙げられる。秋葉区総合体育館では、天井に9台の分散スピーカ(JBL社AC2215シリーズ)を配置し、アリーナ面、2階観覧席がスピーカのカバーエリアにきちんと入るよう計画した。完工時の音響調整において、スピーカの出力レベルの調整、イコライザによる音質の調整を行い、スピーチ等の拡声において、適切な明瞭度が得られていることを確認した。

  体育館という施設は、ともすると音環境は後回しにされてしまいがちであるが、ここで挙げた検討項目以外にも、施設内外との遮音対策、屋根の雨音対策、床衝撃音対策など体育館の使い方や立地・配置条件に応じた課題は多い。特に、体育館は大空間として式典・集会にも使用され、場合によってはホールの代替施設となることもあるため、使用目的に応じた音環境への配慮が必要となる。2020年の東京オリンピックの開催が決まり、スポーツ界は大変な盛り上がりを見せている。7年後を目指す子供たちが、より良い環境のなかで育ってくれると嬉しい。(酒巻文彰記)


“ 携帯電話のスイッチをお切り下さい ”

  “公演の録音・録画は固くお断りいたします”、“携帯電話はマナーモードに設定の上スイッチをお切りください”、“当ホールは耐震構造です。地震発生の際は席にお座りのまま係員の誘導をお待ちください”。コンサートや芝居の前に流されるマナー確認や注意喚起のアナウンスである。各地にコンサート専用ホールや演劇専門劇場が建て始められた80年代は録音・録画の禁止のみであった。その後携帯電話の登場・普及で公演中に着信音が鳴るトラブルが頻発し、スイッチ・オフの注意喚起が加わった。さらに3.11の大地震以降は、公演中に地震が発生した際の冷静な行動を呼びかけるアナウンスも行われるようになり、今では時間的に結構な長さとなっている。このような開演前の注意喚起は、日本ではなぜか聴覚に訴える(音声で伝えられる)ことが多い。コンサートの場合、開演を知らせる予鈴代わりのメロディー音も含めて、公演と関係のない音(音楽・音声)が流れることに違和感を感じるという意見も聞かれる。

白色系壁面へのサイン
白色系壁面へのサイン
オペラカーテンへのサイン
オペラカーテンへのサイン

  携帯電話が登場する以前、ヨーロッパでは聴衆・観客のアプローチ動線に録音・録画の禁止のサインが掲げられていたものの、ホール内で開演直前に注意を促すような表示やアナウンスが流れた記憶はない。ところが、携帯電話の普及にともなって公演中に着信音が鳴るトラブルが増えたのか、最近ではホール内で携帯電話のスイッチ・オフを促す注意喚起が行われるようになった。興味深いことに、電話の呼び鈴や一時期大きなシェアを誇っていたノキア社携帯電話の着信音(Nokia Tune)など、音による呼びかけも多少はあるが、壁面や幕面へのサインやテキスト投影など、視覚に訴える例が多いように思う。

  さて、視覚に訴える注意喚起といえば、北京の国家大劇院で見た光景が忘れられない。同劇場への入場に際しては空港のようなX線手荷物検査が行われており、カメラの持ち込みは禁止である。ところが携帯電話・スマートフォンは持ち込んでも良い。最近はカメラ機能がついていない携帯電話やスマートフォンを探す方が難しいが、案の定、カーテンコール時にあちこちでステージを撮影する聴衆が見られた。そのとき、撮影している携帯画面に向けて赤色レーザーが照射されたのである。振り返ると、後方に控えていたレセプショニストが撮影を止める目的でレーザーポインターを向けていた。所変われば、まさに様々な対応があるものである。

  最近はヨーロッパでもカーテンコール時に携帯電話やスマートフォンでステージを撮影する光景をよく目にする。文化や習慣によらず撮影したくなるのが人の習性のようではあるが、マナーには気をつけたいものである。(小口恵司記)



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