静けさ よい音 よい響き NAGATA ACOUSTICS
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News 11-06号(通巻282号)

発行:2011年6月25日

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オリンパスホール八王子(八王子市新市民会館)

施設の外観
施設の外観

 JR中央線八王子南口駅前にオリンパスホール八王子がオープンし、本年5月4日(水)にこけら落し公演が行われた。

◆施設概要

 オリンパスホール八王子のあるサザンスカイタワー八王子は、八王子駅南口地区第一種市街地再開発事業の中核施設として、40年前より計画が進められてきた。そして20年前に再開発準備組合が設立され、何度かの計画の見直しがあったが、昨年11月に完成を迎えることができた。

 サザンスカイタワー八王子は、オリンパスホール八王子のほか、八王子市の総合事務所、高層棟の集合住宅、業務施設、店舗などからなる複合施設である。

本施設全体の事業計画ならびに設計・施工を大林組が行い、八王子市所有公益施設の実施設計・監理は、建築:NTTファシリティーズ、舞台コンサル:シアターワークショップ、音響コンサル:永田音響設計が担当し、さらに舞台3設備の工事は、舞台機構:三精輸送機、照明:丸茂電機、音響:日本ビクターがそれぞれ請負った。

オリンパスホール八王子の内観
オリンパスホール八王子の内観


◆遮音計画

 建設地がJR八王子駅前であるため、鉄道軌道からの騒音・振動の影響が予想された。そのため、更地の段階で地盤振動調査を行い、そのデータを基にホールならびに各室の遮音構造の計画を行った。その結果、ホールとホール舞台階下に位置するリハーサル室に防振遮音構造を採用した。この遮音構造は鉄道騒音の低減のほか、リハーサル室や住宅、オフィス棟とホールとの遮音性能を確保するためにも有用であった。

 竣工後の測定では、鉄道の騒音は全く感知できなかった。また遮音性能は、ホール→リハーサル室間、ホール→オフィス間でD-85以上の高い性能が得られ、ホールでの発生音が周辺のオフィスや住居に影響を与えないことが確認された。

サイドバルコニー席
サイドバルコニー席


◆ホールの室内音響計画

 基本計画で示されたホールコンセプトでは、建築的方向性として、既に市内に存在する音楽重視の"いちょうホール"( 802席)とのすみわけを意図し、学生の利用に重きを置いたポピュラー音楽やミュージカルなど視覚条件と演出効果を重視した演目を主体としたホールとして位置づけられた。イメージとしては東京フォーラムAや中野サンプラザであろう。しかしながら、八王子駅に直結する新たな大型公共ホールとなれば西東京の音楽の拠点になるのは必定であり、音響計画としてはコンサートホールとしてクラシック音楽にも十分対応できる性能を有した多目的ホールとして設計に臨んだ。

 ホールは2000席規模だが、建築面積としては概ね1600〜1700席程度の広さである。多層バルコニー形式とするなど、設計者の入念な計画により可視線上も支障なくこれだけの客席数を盛り込むことが出来た。しかしどうしても客席の幅を広くせざるを得ず、室内音響的には側壁からの有用な反射音が1階客席に届かない形状となることが予想された。その不利な状況を少しでも解消するために、2階サイドバルコニー席の背後に壁を設け、そこからの反射音が1階客席へ到達するように工夫した(写真)。この壁をガラスにしたことで洗練されたイメージを作りだすことができ、デザイン的にも寄与できたと考えている。

 客席壁や舞台の側方と正面反射板は、全体を折板形状にし、表面を木質のリブにすることで音の拡散効果を期待した。またホールの内装は、温かみのある木質系の内装材と黒い天井で、格調高く落ち着いた雰囲気にデザインされている。音響上の拡散効果のためのリブは、そういった木調デザインのモチーフとして取り入れられ、ホールのインテリアとして上手く溶け込んでいる。

◆運営

 上記のような視覚条件を重視したホールという基本コンセプトとであったが、本ホールのエクゼクティブプロデューサーに指揮者の西本智実さんが就任された。基本方針はクラシック音楽主体と言うことだろう。就任期間は3年、クラシック音楽を基本にコンサートやオペラなど年間数本製作し上演するという。

 5月4日のオープニングコンサートでは、西本智実さん指揮、新日本フィルハーモニー管弦楽団の組曲「展覧会の絵」の演奏とともに、八王子に制作スタジオを持つデジタルハリウッドとのコラボレーションによるCGアニメーションが企画された。組曲を構成する楽曲ごとに、西本さんの持つイメージを聞いたうえでCGアニメーション映像を作るというプロジェクトをデジタルハリウッドの学生が担当した。

 デジタルハリウッドの杉山知之学長によると、指揮の西本さんも、このCGとのコラボにはいろいろな可能性を感じたとのことで、今後企画されているオペラでは、積極的に新たな舞台装置として取り入れることも考えているそうだ。これからの舞台美術への可能性を広げる新たな試みとして今後が期待できる。

 このような大型ホールは、八王子市だけでなく西東京全体における地域の文化レベルの向上に大きく役立つであろう。質の高いパフォーマンスを催されることで都心に行かずとも地元で享受することができる。今後の運営に期待したい。(小野 朗記)

オリンパスホール八王子:http://www.olympus.hall-info.jp/pc/index.html


ヘルシンキ・ミュージック・センターの完成−オーケストラによる最初のリハーサル−

ヘルシンキ・ミュージック・センター−オーケストラを入れたリハーサル−
ヘルシンキ・ミュージック・センター
−オーケストラを入れたリハーサル−

 フィンランドのヘルシンキにおいて、かねてより建設工事が進められていた新しいコンサートホール(ヘルシンキ・ミュージック・センター)がこのほど完成し、オーケストラを入れた最初のリハーサルが去る5月5日に実施された。このプロジェクトのために最初にヘルシンキを訪れたのは、新ホールの建築設計者選定のコンペが実施された(1999年〜2000年)前年の1998年4月のことで、それからおよそ13年を数える。プロジェクトが途中で何度もストップしたり、色々な紆余曲折もあったが、やっと完成の日を迎える。

 新ホールは1700席規模のクラシック音楽専用のコンサートホールとして計画・設計され、ステージの周囲にも客席を配置した、いわゆるヴィニヤード形式のホール形状が大きな特徴となっている。フィンランドを代表するの2つのオーケストラ、フィンランド放送交響楽団、ヘルシンキ・フィルハーモニーの本拠地ホールとなることが予定されている。

 一般的にコンサートホールが新しく完成するとその音響性能に注目が集まり、その結果が大きな話題となる。オープニングの当日ともなるとマスコミも巻き込んで大騒ぎになることもある。新しいコンサートホールの音響が良いのか悪いのか、最も重要な関心事であり、大きくクローズアップされて議論されるのも当然である。しかしながら、実はオープニングよりもさらに音響的に重要な日、我々音響設計担当を含めて関係者が神経質になる日がある。それがオーケストラを入れた最初のリハーサルの日である。

 コンサートホールというのはオーケストラにとっては家のようなものであり、新しいホールは新築の家である。新築された家の使い勝手に慣れるのに時間が掛かるのと同様に、その新しい音響に慣れ親しむのにもやはり時間が必要なのである。新しいホールの音響が良いのか悪いのかという単純な議論だけでは片付けられない。最初は演奏者が新しい音響に慣れなくて、あるいは慣れるのに時間が掛かって、ホールの音響の評価について色々取り沙汰されたけれど、時が経つに連れて演奏者も新しい音響に慣れてきて、結果としてホールの音響も好評という事もよく経験する。

 新しいホールの音響に慣れるためにはある程度時間が必要である。通常、ホール完成後は物理的な音響特性を調整するたの調整期間を設けるが、これはせいぜい1週間から10日程度のことで、それに加えてコンサートホールにおいてはオーケストラがその新しい音響に慣れるために必要な時間も考慮に入れる必要がある。これらを含めて音響のチューニングと呼んでおり、ホールのオープニングの前に数ヵ月を目処にこれらの時間を用意する。理想的なチューニングのための時間はどのくらい必要かという質問もよく受けるが、音響の立場からいうと長ければ長いほど良い。実際にホールがオープンしてから2-3年経ってからやっとホールの音響が安定してきたというケースもある。しかしながら、ホールのオープンの前に2-3年ものチューニング期間を設けることは現実的ではない。実際には3ヶ月から6ヶ月というケースが多い。ヘルシンキ・ミュージック・センターにおいては約4ヶ月のチューニング期間が設けられ、その最初のリハーサルが去る5月5日に行われたのである。

 果たしてその結果であるが、初めてのホール内での音出しとしては上々の出来であった。音が豊かに、しかも非常にクリアに鳴り響いた。このしばしば相反する2つの音響的に重要な要素が高い次元で両立することが重要である。チェロ、コントラバス等の低弦楽器も最初は鳴りが良くないことが多いがここでは最初から十分な音量で鳴り響いた。演奏者もステージ上でお互いの音が良く聞こえるという。それでもリハーサルの最初と最後を比べると、最後の方がアンサンブルが断然良い。演奏者が新しい音響に慣れてきているのである。結果として音響も良く聞こえる。時間を掛ければ掛けるほど音響は良くなっていく。来る8月31日の新ホールのオープンが楽しみである。(豊田 泰久記)


本の紹介 「調律師、至高の音をつくる−知られざるピアノの世界」
高木 裕 著 朝日新書 定価:本体700円+税


 著者の高木 裕氏はニューヨークのスタインウエイ社で調律を学ばれた方、彼の名前を知ったのは2008年に出版された「スタインウエイ戦争」―洋泉社−である。これはピアノ業界に大きな波紋をなげかけた著書である。しかし、ここで紹介するのは、プロのピアニストを対象に、これまでの調律という作業を見直し、ピアニストそれぞれが指向する理想の楽器を提供するという画期的なシステムの紹介である。本書の要点を箇条書きに示すと、

  1. 高木さんが惚れ込んだ音、これは20世紀に活躍した巨匠といわれるピアニストが愛用してきた19世紀後半に製造されたニューヨーク製のスタインウエイの音である。
  2. ところが、ピアニストによって、理想とする音色、タッチの感触などには微妙な違いがある。これは演奏家が愛用する楽器としては当然のことである。
  3. ピアノ以外の楽器はヴァイオリンの例をひくまでもなく、殆どの楽器は演奏者自ら所有している。しかし、ピアニストは演奏会場備え付きの楽器を使用せざるを得ない。
  4. ところが、演奏会場において、ピアノの調律、調整に許された時間は、普通、リハーサル前の2時間である。しかも、調律、調整の範囲は限られている。これを超えたときは、元の状態に戻さなければならない。

 以上のような現実をふまえ、高木氏が開発したピアニストに理想的な楽器を提供するというシステムは次のとおりである。

 以前からスタインウエイ社はピアニストのためにピアノを運んでサポートするというサービスを行ってきた。高木さんはこの伝統を採用した。名器といわれるスタインウエイの楽器を買い集め、これをオーバーホールし、理想的な楽器に復元した。現在、クラシック、ジャズ系を含め17台のスタインウエイのコンサートピアノが、彼が設立した会社、タカギクラヴィア株式会社に待機し、演奏者の好みに応じて貸し出す体制になっている。

 この際の最大の問題は重さ500Kgに及ぶピアノの運搬である。これを可能にしたのは機械いじりが好きだった高木さんの技術力で、彼は空調設備まであるピアノ運搬車(愛称 ごぶちゃん)と指一本で動かすことができるピアノ移動機構の開発を行い、実用化した。

 ピアノはホールに常設される楽器である。本書には調律を通してみたホールの響きについて独特の見解があり、ピアノの設置場所についても的確な指摘もある。一読して、楽器の音を創るという調律の仕事と、動かすことができない楽器である空間の響きを創るというわれわれの音響設計には音に関しての共通した思いがある事を感じた。(永田 穂記)



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