静けさ よい音 よい響き NAGATA ACOUSTICS
ニュースの書庫

News 11-02号(通巻278号)

発行:2011年2月25日

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ニューワールド・シンフォニー(マイアミ)の新ホールオープン

「Polaris: Voyage for Orchestra」の演奏風景(写真提供:Rui Dias-Adios)
「Polaris: Voyage for Orchestra」の演奏風景
(写真提供:Rui Dias-Adios)

 去る1月25日、米フロリダ州のマイアミ・ビーチにNew World Symphony(NWS)のための新しいコンサートホールが完成し、オープニングのセレモニー、コンサートが開催された。NWSは世界的にもユニークな常設のアカデミー・オーケストラで、音楽大学を卒業した若い演奏家達を3年を期限にここで教育し、将来プロのオーケストラで演奏する奏者を育てようというものである。New World Centerと名付けられた新施設は、日々のオーケストラ活動の中心となる756席のコンサートホールの他、大小30室以上のリハーサル室、練習室などから成る。建築設計はフランク・ゲーリー(Gehry Partners, LLP)、舞台設備設計はTPC(Theatre Projects Consultants)で、弊社は設計段階から工事完了までの一連の音響設計を担当した。

 新ホールの概要、基本的な性格などについては、設計が完了し建設工事が開始された時点で本ニュース242号(2008年2月)にて紹介しているので、そちらを参照されたい。 ここではそれらを簡単にとりまとめておく。

  1. フル編成のオーケストラ用のステージに対して756席と小規模な客席。
  2. オーケストラの周りを取り囲むようなアリーナ型の客席配置。
  3. 客席上部空間が5枚の白い大きな壁面で構成されており、ライティングや映写による様々なプロダクションに対応可能(11台のプロジェクターを設置)。
  4. ステージと1階席の一部が可動になっており、かなり自由なステージのレイアウトが可能。
  5. メインステージの他に4カ所の小さなステージが客席周辺に配置されており、ソロや小アンサンブルとの同時演奏、連続演奏などのプログラムにも対応可能。

New World Center Wallcast(写真提供:Tomas Loewy)
New World Center Wallcast ™
(写真提供:Tomas Loewy)

 オープニングのコンサートは3日間にわたる多彩なプログラムで構成され、新ホールの機能や設備の披露を意図した意欲的なものであった。初日のバッハ「チェロ組曲第2番」よりプレリュードは、このコンサートのために特別に編曲されたもので、弦楽、木管、金管の11人の奏者が客席周辺の小ステージ群に聴衆を取り囲むように配置された。音響的な効果としてはまさに「サラウンド」。ホール空間を音が漂う印象は息をのむ程美しかった。

 2日目の注目すべきプログラムは、トーマス・アデス (Thomas Adès) による新曲「Polaris: Voyage for Orchestra」(世界初演)であろう。特別に制作されたムービーによる映像がホール壁面全体に映し出され、オーケストラ音楽とのコラボレーションが提示された。将来の新しいコンサートのスタイルとしてのひとつの提案である。この作品はニューヨーク・フィルなど他のオーケストラとの共同委嘱作品として新たに作曲されたものであるが、他のホールでは映像などがどのように提示されるのか、興味あるところである。

 3日目はシューベルト・ジャーニー (A Schubert Journey) と題されたオール・シューベルトのプログラム。歌、ピアノ、室内楽、弦楽合奏、合唱、オーケストラと、実に盛りだくさんのプログラムが用意され、2回の休憩を挟む3時間の長丁場となった。メイン・ステージの他、小ステージ群もフルに利用され、曲の一部のみ、あるいは交響曲の一つの楽章のみ、というように断片的に、しかもそれらが連続して演奏された。この実験的なホールにおけるひとつの使い方を提示したものである。

 新ホールにおける音響面での課題、また大きなチャレンジでもあったのは、750席規模のいわば小型のコンサートホールに大編成のオーケストラをいかに適応させるかということであった。そのためにホールの天井高はこのクラスのホールとしては異例の高さとなり、ステージ上の天井高は2000席クラスのコンサートホール(例えばディズニー・コンサートホール)のそれに匹敵している(およそ15m)。これらの成果が試されるオープニングのプログラムということでは、いずれも2日目に演奏されたワーグナーの「さまよえるオランダ人」序曲とコープランドの交響曲第3番であろうか。いずれの曲も、フルオーケストラの大音量に対して余裕のある響きが実現されていることを確認した。小音量 (pp) から大音量 (ff) まで包容できるキャパシティを備えているといって良いであろう。ただ一方で、オーケストラがもう少しこの新しいホールに慣れてくれればという印象もあったことも事実である。何しろ若い奏者の集まりである。最大限のフルパワーで力んだ印象の音を出していた。同じ大音量でも、もう少し力を抜いた余裕のある音が欲しかった。ここら辺りは演奏者側の慣れに要する時間の問題もある。工事完了からオープニングまで2ヶ月程度しかなく、オーケストラ全体のリハーサルも数回しか行われていない。今後、使用を重ねていくうちに段々と慣れてくるであろう。もう少し長い目で見る必要がある。

 オープニングのコンサートにはNYやワシントン辺りからのマスコミ関係者も多数取材に来ていた。日本からはほぼ地球の反対側といえる程の遠隔地なので、さすがに日本の取材陣は見かけなかった。しかしながら、NWSの音楽監督のマイケル・ティルソン・トーマス (MTT) の大ファンという潮(うしお)博恵さんという女性が日本からわざわざこのオープニングを取材に来られていた。潮さんは、MTTと彼が同時に音楽監督を務めるサンフランシスコ交響楽団 (SFS) に関するホームページをネット上に開いていて、彼らの活動を日本語にて紹介されている。SFS事務局との個人的なパイプを持っておられて、色々な情報を提供してもらっているという程の筋金入りのファンである。今回のNWSのオープニングのコンサート、新ホールについても詳細にレポートされている。日本からのプレスは皆無だっただけに、とても貴重な報告である。併せてご覧いただくとよい。(豊田泰久記)

(http://www.sfs.ushiog.com/index.php?FrontPage#w0700d73)


「東大寺総合文化センター」完成

 2010年に平城遷都1300年を迎えた奈良県は、記念イベントやマスコットキャラクター・せんとくんによる観光アピールもあって大きな注目を浴びた。その奈良県の一番の観光スポットともいえる東大寺に、昨秋、東大寺総合文化センターが完成した。

◆施設概要

 施設は東大寺南大門のすぐ脇、東大寺が経営する東大寺学園の校舎跡地を利用して建設されたもので、新築の展示室棟と既存の体育館(設計:黒川紀章)を改修したホールからなる。展示室棟は東大寺が所有する国宝(日光・月光菩薩像など)や文化財のための展示室(免震構造)、収蔵庫、書庫からなり、展示・収納に適した室内環境への調整を経て、竣工1年後の今秋にオープンする予定である。設計はアーキヴィジョン、施工は大林組で、弊社はホールの音響設計を行った。

金鐘ホール
金鐘ホール
金鐘ホール

◆ホールの音響設計

 体育館を改修した新たなホール(金鐘ホール:客席数321席)は、式典・講演会、収蔵品に関する映写のほか、付近の学校や住民による音楽発表の場として計画された。そのため、舞台には可動式の反射板と映写スクリーン、客席には開閉式の遮光ロールスクリーンが新設されている。特に舞台については、元々の舞台スペースが狭かったため、収納スペースに配慮した反射板が採用されている。正面反射板は可動間仕切り壁のように天井レールで舞台袖にスライドして収納する方式で、側面反射板は裏側に袖幕が付いており、回転させるだけで舞台幕状態に転換でき、収納も不要である。さらに反射板収納時には舞台奥に仏像の壁面彫刻をもつ祭壇が現れるという東大寺ならではの仕組みもある。

 客席空間については、既存体育館の寄せ棟型天井や壁面の窓ガラスをなるべく残したいという設計要望があり、既存空間の構成を残しつつ、音響的な要素を加えている。

  

 まず天井形状については屋根形状と同じ寄せ棟型の天井を基本とし、さらに階段状の断面形状とすることで、天井からの初期反射音を増やした。つぎに壁面の大部分を占める窓ガラスに対しては、フラッターエコーを防ぐためにガラスの前面に円柱状の木ルーバーを配置した。また、窓枠からの強い反射音が舞台へ集中しないように窓枠にも木リブを取付けた。ホールの残響時間は、反射板設置時で約1秒(空席時、500Hz)である。

昨夏、強烈な日差しと猛暑のなか施設を訪れたが、木仕上げを基調とするホール内部は柔らかい雰囲気であった。音響の要望で配置した窓周りの木ルーバーは外光を和らげるのにも役立っているようだった。(服部暢彦記)


「座・高円寺」の活動について、支配人・桑谷哲男氏に聞く

「座・高円寺」支配人 桑谷哲男氏
「座・高円寺」支配人 桑谷哲男氏

 東京都杉並区の「座・高円寺」(本ニュース 258号2009年6月 参照)は2009年5月のオープン以来、ユニークな活動を続けている。その秘密を探るために、支配人の桑谷哲男氏にお話しを伺った。

 桑谷さんは、小劇場の照明デザイナーとして出発された後、長野県県民文化会館、世田谷パブリックシアター、可児市文化創造センター、そして座・高円寺の開設や運営に係わってこられた。もうかれこれ30年近く劇場の仕事に携わられており、いわば劇場の表も裏も知り尽くした方である。係わったそれぞれのホールは2,000席規模の大型ホール、演劇専用ホールなど、規模も性格もまちまちであるが、いずれも建設当時のトレンドを代表する施設である。そしていずれもがとても活発でユニークな活動を展開している。桑谷さんは「劇場は作品を作って、観て楽しんでもらう場所」とおっしゃる。その実現のためにいろいろな活動をやってこられた。例えば、世田谷パブリックシアターでは、バックステージツアー/養成講座/子供の劇場/観るラジオドラマ(リーディング)の4つの企画を提案しておられる。いずれも桑谷さんの経験が活かされた企画内容である。

 それでは、座・高円寺では? もちろん、上記のアイデアは踏襲されているが、小劇場の特徴を活かした取り組みも行われている。上述のとおり、桑谷さんは小劇場で照明デザイナーとして活動を開始され、そして今、また小劇場に戻ってこられた。その出発点である自由劇場の理念「拠点劇場/移動劇場/壁面劇場/教育普及」を座・高円寺で引き継ごうとされている。座・高円寺では年間2,3本のドラマなどを制作し、それを全国展開しようとしている。これが拠点劇場と移動劇場。オープンの年(2009年度)には「旅とあいつとお姫様」を制作し全国展開した。好評だったため昨年(2010年度)も再演している。高円寺を歩くと座・高円寺のポスターを見かけるが、ポスターは街を劇場にする。これが壁面劇場。街を劇場にするといえば、「座・高円寺地域協議会」という組織が座・高円寺のオープンをきっかけとして発足し、大道芸や演芸祭など4つのフェスティバルの後押しをしている。そして、演劇関係の資料(アーカイブ)の収集や保存、演劇学校、シアターマガジンなどの発行。これが教育の普及。これらを行いながら可児市で培ってきた市民参加型のホールをさらに進めて、地域との連携、地域に根付いたまちづくり型ホールを目指している。

 桑谷さんたちは、指定管理者として座・高円寺の企画・運営を行っている。様々な企画を行うためには資金は不可欠であるが、この資金の捻出はなかなか大変なことでもある。今までの経験を活かした取り組みの他に、なみちけ(割安回数券)、道草カウンター(貸し出しチラシカウンター)など、あまりみられない面白い企画も行われている。各劇場の利用率はいずれも非常に高い。規模が手頃ということもあるかもしれないが、桑谷さんたちの日々の活動が反映されているのだと、お話しを伺って確信した。(福地智子記)

座・高円寺:http://www.za-koenji.jp/



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