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ニュースの書庫

News 11-01号(通巻277号)

発行:2011年01月25日

いわき文化センター 大ホール改修 − 音楽ホールへの転換−

施設外観(いわき市WEBページより)
施設外観(いわき市ホームページより)

 いわき芸術文化交流館アリオスがグランドオープンを迎えた翌年2010年の春に、このPFI事業の最後となる"いわき市文化センター 大ホール"の改修工事が完了し、新しく音楽ホールとして生まれ変わった。

◆施設概要
  いわき市文化センターは昭和50年にオープンした施設で、JRいわき駅から徒歩10分程、アリオスからも数分のところにある。大ホール、科学展示室、調理実習室、会議室、展示室など様々な施設からなり、開館以来多くの市民に利用されてきた。

この内、大ホールエリアについて、施設の老朽化、市民の文化活動に要求される機能向上への対応として、改修設計・工事監理業務がいわきアリオス建設のPFI事業(本ニュース245号(2008年5月))に取り込まれた。旧ホールはプロセニアム形式、ワンスロープの客席(580席)で、舞台反射板は正面、天井のみに設置された典型的な多目的ホールであった。アリオスやアリオス別館に続く5つ目のホールとして、このホールは「音楽主目的中ホール」へと使用目的を転換する方針で改修が行われた。設計、監理は「いわき文化交流パートナーズ」、施工はいわき市に本社を構える加地和組である。

旧ホール
旧ホール
旧ホール

◆音楽ホールへの転換の取り組み
  改修は、要求水準に「(舞台部と客席部の空間を一体化するため、それらを区画しているRC垂れ壁の寸法を切り詰めて梁補強を行う。」と記載されていることから、既存ホールの内装を全て取り払って構造躯体のみを残し、内側に新たにホールの内装を造る方針で行った。

 多目的ホールから音楽ホールへと転換するために、限られた空間の中で出来るだけ天井高を確保するとともに、舞台と客席が一体となった空間となる室形状を実現するよう検討が繰り返された。この室内音響上の課題を解決するにあたって鍵となった取り組みが、前述の要求水準にもうたわれたプロセニアム上部のRCトラスの垂れ壁の変更である。プロセニアム部での天井高が舞台床から6m程度に抑えられたこの垂れ壁は、音楽ホールとしての室形状に制約を与えていた。

ホールという大空間において、主要な構造体であるこのRCトラスの垂れ壁に変更を加えるには、構造だけでなく、それらに伴う仮設計画からコスト等、様々な課題が伴った。次頁左上の写真がその問題となる垂れ壁である。当初はこの垂れ壁全体を撤去して新たに鉄骨トラスを導入する計画であったが、最終的にはRCトラス梁を残しつつ、トラス下弦材の大梁(A)を撤去する方針とした。中央の図にあるように、顎のような部分(B)と一体化したRCの梁を構築し、十分な強度が発現したことを確認後、その新規梁より下の躯体が撤去された。

改修前 プロセニアム上部RCトラス垂れ壁の梁補強方法

プロセニアム上部RCトラス垂れ壁の梁補強方法

改修後のホール
改修後のホール


このような工事の結果、当初の鉄骨トラス案の高さまではいかなかったものの、垂れ壁下端の高さが約1.6m上がり、舞台天井を高くして客席まで連続した曲面の天井を実現することが出来た。側壁についても舞台から客席へと連続した形状とし、舞台と客席が一体の空間となっている。また、舞台や側壁の下部は、強い反射音を和らげるよう曲面にタイル貼の拡散壁とした。客席椅子も幅の広いものに一新されて、白色の天井、側壁と赤い花柄の椅子が明るい印象を作り出している。

また、旧ホールはコンクリート躯体一枚で外部に接しており、さらに、客席に外部への避難扉が設置されていたため、外部との遮音性能が十分でなかったが、既存躯体内側に乾式遮音壁を設置し、防音扉を改修するなど遮音対策も実施した。空調騒音もNC-20以下とし、外部騒音、設備騒音のそれぞれに対して、静かな状態が得られている。

新しい大ホールは、旧ホールをご存じの方には改修とは信じられない空間になったことと思う。改修という枠の中で、どこまで音楽ホールに近づけるかに取り組み、メインの構造体を改修する大工事であったが、改修の可能性を広げた一例になったと感じている。(箱崎文子記)

いわき市文化センター大ホール ホームページ:http://www.city.iwaki.fukushima.jp/kyoiku/kominkan/chuo/005546.html


カザルスホールを守る会結成のお知らせと署名活動支援のお願い

 本ニュース269号(2010年5月発行)でお知らせしたように、日本大学カザルスホールが2010年3月31日をもつて運用を停止した。巨匠カザルスの冠をいただいたこのホールの行方は、音楽界、オルガン界にとって大きな関心事であり、何かの折りに話題となっている。ホールの存続を望む多くの音楽関係者の声に応えて、その保存運動がたちあがった。'カザルスホールを守る会'の結成である。発起人はピアニストの岩崎淑氏、音楽関係者を中心に100万名を目標に署名活動を展開中である。また、毎月1回のペースでチャリティコンサートが企画され、第1回が昨年の9月1日(水)、第2回が昨年の12月2日(金)、いずれも仙川アヴェニュー・ホールで行われた。

守る会は代表者のピアニスト岩崎淑氏、名誉顧問のマルタ・カザルス・イストミン夫人を中心に、作曲家、指揮者、音楽学者、弦楽器奏者、管楽器奏者、声楽家、鍵盤楽器奏者、打楽器奏者、それぞれの部門総勢約50名で構成されている。その主旨は'カザルスホールを愛する著名な音楽家たちが結束して、感動と思い出と歴史がいっぱいの名ホールをぜひ存続させてほしい、どうにか守り抜くことができないかと切実に訴えています'である。

シンポジウムのパネリスト
シンポジウムの舞台
シンポジウムのパネリストと舞台

 その特別企画として、昨年の11月16日(火)、18:15より、下北沢の北沢タウンホールにおいて音楽関係者、建築関係者6名のパネリストによるシンポジウムが行われた。そのテーマは<音楽家と建築家から見る価値>で、カザルスホールにおける演奏活動、カザルスホールを巡っての思い出、カザルスホールの建設の経緯、建築と音響の特色、わが国における建築の保存活動の実態などについて提言があった。このシンポジウムの席で、カザルスホールの設計者の磯崎新氏からも支援の発言があり、守る会の運動が建築界とも連携ができたことが大きな成果であった。また、シンポジウムの前後に、岩崎恍、堀了介、堀沙也加 3名のチェリスト、岩崎淑さんのピアノによる演奏が行われ、パブロ・カザルス編曲のカタルーニャ民謡'鳥の歌'で会をおわった。来場者は約200名であった。

 カザルスホールの運用停止の先にみえかくれする取り壊しは、カザルスホール建設に関わった者のひとりとして、それよりも、音楽文化財の破壊を憂える者の一人として、なんとかして避けたい事態である。

 現在の私にできることといえば、まず、岩崎淑氏が進められておられる、署名運動にできるだけ多くの署名を集めることと、毎月1回のペースでおこなわれているチャリティコンサートのPRをすることである。

 是非「カザルスホールを守る会」HPを訪ねて署名活動にご協力いただきたい。また、今後、仙川アヴェニュ−・ホール他で開催予定のチャリティコンサートの予定をここに記しておく。

「カザルスホールを守る会」チャリティコンサートの予定

 なお、詳細は下記の「カザルスホールを守る会」事務局まで問い合わせください。(永田穂 記)

〒182-0002
 東京都調布市仙川町1-25-2 仙川アヴェニュ−北プラザ2F
        Tel:03-5314-9746 Fax: 03-5314-9759
   事務局 最上沙紀子

公式ホームページ: http://casals.us/



JATET FORUM 2010:劇場演出空間技術協会設立20周年

高田一郎会長の基調講演
高田一郎会長の基調講演

 2010年12月3日(金)から2日間、池袋の小劇場"あうるすぽっと"でJATET FORUM 2010が開催された。劇場演出空間技術協会(JATET)は、1990年7月に設立されたので20周年を迎えたことと、新たに公益社団法人の認定を受けたのでこれらを記念しての開催となったものである。

 劇場技術に関する協会は世界各国にあり、それらは劇場芸術国際組織(OISTAT)でつながっている。1968年にOISTATの前身であるOISTT(国際舞台美術劇場技術協会)主催の国際会議に高田一郎氏(舞台美術家、現JATET会長)らが参加した際、国内にも劇場技術者組織の必要性が認められ1969年5月に日本劇場技術協会(JITT)が設立された。その後、JITTは1989年に一旦、解散し、対象を劇場・ホールから演出空間全体に拡大して翌年にJATETとして再出発したものである。

 米国では60年代の初頭に、舞台照明設備用の制御信号"DMX"などの各種規格の標準化や労働安全基準等を策定するUSITT(米国劇場技術協会)が設立され、1987年には舞台設備機器の製造販売や運用サービス市場を対象とする北米エンターテイメント技術協会(ESTA)が設立されている。欧州では英国を本拠とするPLASA(プロフェッショナル照明音響協会)が1983年から活発な活動を続けている。これらの団体はすべて非営利で、舞台芸術に関係する舞台美術家、舞台技術者、劇場建築家、コンサルタント、設備機器メーカ、施工会社、学校教育団体、省庁、自治体などが参加して、国家規格に準じた舞台関連の標準規格の制定や安全運用等の普及に努めている。

 わが国では、2001年に文化芸術立国を目指して「文化芸術振興基本法」が施行された。初日に講演された文化庁の門岡裕一氏(文化活動振興室長)によると、今後の人口減少や厳しい経済情勢によって文化芸術基盤が脆弱化してゆくとの予測のもとに、文化芸術で社会基盤を強化するためホールを創造拠点として再組織化するなどの重点施策を立案しているそうだ。劇作家で内閣官房参与の平田オリザ氏は2日目の「機構としての公共劇場」と題した講演で、フランスにおいては公共劇場がプロデュースに深く関わり、複数の劇場が連携して質の高い演劇上演を実現している現状を紹介。初日のシンポジウムでも桑谷哲男氏(座・高円寺支配人)が英国の教育プログラムと同様に、杉並地区の小中学校を対象に演劇の面白さを知らしめる活動を行なっていると報告。何事も掘り下げ、社会を耕すことが文化の源泉となることは間違いないだろう。このほか、日本舞台監督協会と共同で劇場の安全や新技術の紹介などのシンポジウムが開かれ、充実した2日間を終えた。(稲生 眞記)

JATET:http://www.jatet.or.jp/

文化芸術振興基本法:http://www.bunka.go.jp/bunka_gyousei/kihonhou



(株)永田音響設計

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