No.276

News 10-12(通巻276号)

News

2010年12月25日発行
伝承ホール客席

「文化総合センター大和田」オープン

施設断面図
施設断面図

今年11月、渋谷区に複合施設「文化総合センター大和田」がオープンした。渋谷というと若者の街というイメージがあるが、この施設は用途の異なる2つのホールをはじめ、渋谷に9年振りに復活したプラネタリウム、看護学校、区民健康センター等を備えており、文化施設だけでなく、教育、健康、福祉施設として幅広い世代による利用が期待されている。建物は渋谷駅の南側、セルリアンタワーとインフォスタワーに挟まれた場所にあり、最上階にある球体のプラネタリウムが目印となっている。平成9年に閉校した大和田小学校の跡地が敷地となっていることもあり、開館式典には施主の渋谷区関係者の他、多くの学校卒業生も出席された。

施設概要

 本施設は地下3階、地上12階建てで、音楽主目的のさくらホール、伝統芸能主目的の伝承ホールのほか、音楽練習室(全5室)、プラネタリウム、ファッション・デザイン支援施設、看護学校、健康センター、図書館、保育園などで構成されている。設計はNTTファシリティーズ・日総建の建築設計共同体、施工は大成建設で、弊社は主にホールの音響計画を行った。

遮音計画

 複合施設である本施設では、下層階に学習センターや図書館等の子供向けの学習施設があり、上層階には教室や会議室等が配置されている。これらの室に挟まれた中層階に位置する2つのホールに対しては、上下階との遮音性能を高めるため、防振ゴム浮床と石膏ボード12.5o×3による防振遮音構造を採用した。なお、コストの制約から、伝承ホールの防振遮音構造は舞台のみとし、伝承ホール上階の室をGW浮床、下階の5つの練習室に防振遮音構造を採用することでホールとの遮音性能を高めている。

施設平面図(6F)
施設平面図(6F)
さくらホール舞台
舞台
さくらホール客席
客席

さくらホールの室内音響計画

 さくらホール(735席)はクラシックコンサート等の生音の音楽演奏を主目的とした多目的ホールで、舞台音響反射板やオーケストラピット、可動プロセニアムを備える。シューボックス型を基本とした本ホールは天井高15m、客席幅17m、1層のバルコニー席をもち、1階席の側壁にはランダム配置の縦リブによる拡散性仕上げ、2階席側壁上部には2次反射音を反射させるための庇状の反射面が配置されている。建築デザインも兼ねた庇は舞台から客席後方にかけて連続しており、ホール全体が音響的にも意匠的にも一体の空間となっている。舞台音響反射板の側面反射板は天井収納方式で、正面反射板は防振遮音層も兼ねた固定式で空調吹出口も設けられている。なお、側面と正面反射板の上部はL字型の折り曲げ形状として天井反射板との隙間が小さくなるように工夫した。残響時間は、反射板設置時1.9秒(満席時、500Hz)、舞台幕設置時1.2秒、舞台条件により0.7秒という大きな可変幅が得られている。

伝承ホールの室内音響計画

伝承ホール(345席)は和楽器を使用する邦楽や舞踊など伝統芸能を主目的とする多目的ホールである。舞台間口は約5間〜6間の可変式、舞台奥行きは約6間で、小迫りや舞台音響反射板も備えている。客席側は幅12m、奥行き18mのコンパクトな室形状で、ワンスロープの客席と側部の桟敷席をもち、仮設花道も設置できる。

邦楽といっても演目や使用楽器によって望ましい音響条件は様々で、例えば長唄など生で演奏される演目では響きや反射音が重視される。また、発弦楽器の演奏者からは後壁から舞台への音の返りがある方が気持ちよく演奏できるという意見も多い。そのため、天井と側壁だけでなく、一部の吸音箇所を除き、後壁も反射面として利用した。とくに客席レベルの側壁と後壁については、反射音が鋭くならないような配慮として下見板張りの拡散形状とした。ホールの残響時間は舞台幕設置時で1.0秒(満席時、500Hz)、反射板設置時で1.2秒である。

伝承ホール客席
伝承ホール客席

オープン以来、施設の一つの目玉でもあるプラネタリウムが大きな注目を集め、ホールではオープニング企画として渋谷区の子供が参加する踊りや渋谷区在住の邦楽演奏者による公演が行われている。また、休日には図書館でゆっくりと時間を過ごすシニアの方や体験型の子供向け学習センターで遊ぶ親子連れもみられた。本施設は幅広い世代による区民参加型の複合施設としてスタートしたばかりであるが、筆者としては、やはり今後のホールの使われ方に注目している。自主企画よりも貸し館を主体とする運営方針と聞いているが、ホール以外の施設と関連付けた企画や、渋谷という高い利便性を生かして区民以外の方も多く集客するような積極的な企画があってもよいのではないかと思う。(服部暢彦記) 

下見板張りの壁面
下見板張りの壁面

文化総合センター大和田http://www.shibu-cul.jp/

海外で出会った音響材料3 − 孔あき板 −

 今回はいわゆる孔あき板を紹介する。孔あき板は日本でも吸音構造の表面仕上げとしてよく用いられる。その孔の形は円が一般的で、合板、無機質ボード、金属パネルなどの様々な板材料、様々な孔径・孔間隔の孔あき板が既製品として供給されている。一方海外では角孔石膏ボードを時々見かける。円孔の孔あき板は、どちらかというと一つずつ孔を開けた工芸的な(したがって高価な)仕上げと捉えられているようである。さらに最近ではレーザー穿孔技術を使った自由な形の孔あき板も見られる。

さて、興味深い孔あき板の製造方法がある。厚板の表面から半貫通スリットを刻み、次に裏面に表面とは異なる方向に半貫通スリットを刻む。スリットの深さを板厚の1/2より深くすると、表裏のスリットの交差部に貫通孔ができる。孔の形はスリットの交差角度により方形・平行四辺形・菱形など様々な四角形となる。また、スリット位置に裏側から半貫通円孔を穿孔すると、表面から見たときの開口面積の少ない孔あき板ができる。今年3月に訪れたスイスn’H Akustik + Design 社はこの加工方法による孔あき板の先駆者(ブランド名TOPAKUSTIK)で、製造過程や材料・表面スリットの幅や間隔・裏面孔の径や深さの異なる様々なサンプルストックをつぶさに見学させてもらった。

角孔石膏ボード(仏)
角孔石膏ボード(仏)
TOPAKUSTIK(スイス)TOPAKUSTIKのWEBページより
TOPAKUSTIK(スイス)
TOPAKUSTIKのWEBページより

最後に、発想は異なるが、見え方が上記スリット孔あき板によく似た”孔の見えにくい孔あき板”(本News 184号http://www.nagata.co.jp/news/news0304.htm )が”スリット仕上げ吸音板 やすらぎ”として製品化されたことをご報告させていただく。(小口恵司記)

TOPAKUSTIK
(http://www.topakustik.ch/ : 国内で販売されているTOPAKUSTIKはライセンスを得て伊Patt社が製造)
やすらぎ(北陽木工http://www.hky.co.jp/)

TOPAKUSTIKを使ったスタジオ調整
TOPAKUSTIKを使ったスタジオ調整
やすらぎ
やすらぎ

新しい歌舞伎座の着工

 銀座のシンボルとして多くの人たちに長く愛されてきた歌舞伎座が、惜しまれつつ本年4月30日の閉場式をもって幕を閉じた。その後、新しい歌舞伎座建設に向けて旧歌舞伎座の解体工事が進められていたが、10月28日に起工式が執り行われ、本格的に第五期歌舞伎座の建設工事が始まった。事業主体は(株)歌舞伎座および松竹(株)出資の特定目的会社、設計は(株)三菱地所設計+隈研吾建築都市設計事務所、施工は清水建設(株)である。当社は基本設計の段階から参画し、(株)三菱地所設計のもとで建築音響や騒音・振動の低減に係わる音響コンサルタンティングを行っている。

 新しい歌舞伎座の建設にあたっては、@劇場:歌舞伎座を中心とした複合文化拠点の形成(劇場の再生と機能向上、歌舞伎文化の発信スペースの整備、施設内のバリアフリー化、客席寸法の改善、トイレ増設等)、A都市基盤の整備(地下から地上へのバリアフリー導線の整備等)、Bみどり豊かな都市空間の創出(屋上庭園や建物周辺の緑化整備等)、C環境負荷低減への取り組み等の項目がコンセプトとして示されている。

 新しい歌舞伎座は、1889年に開場した初代の歌舞伎座から数えて5代目になる。解体された第4期歌舞伎座は、戦争で一部破壊された後、1951年に復興されたもので、建築家吉田五十八氏によって、従来からの格天井から客席後方に向かってせり上がる吹寄竿縁天井に変えられており、これによって音響的にも改善されたということである。第5期歌舞伎座は、客席数も第4期とほぼ同数で、基本的にはその第4期のイメージを踏襲するように計画されている。今後、音響的にも第4期にひけを取らない劇場の実現に向けて1/10縮尺模型による音響実験を行う予定である。しばらくは地下部分の工事が進められるため、地上部分の姿が見られるのは来年以降になる。新しい歌舞伎座は2013年春の完成を予定している。乞うご期待!(福地智子記) 

歌舞伎座 http://www.kabuki-za.co.jp/

オルガンコンサート「オルガンエンターテインメント4」のご案内

 2011年4月2日(土)13:30から”すみだトリフォニーホール大ホール”で開催される「オルガンエンターテインメント4」のご案内です。オルガニストは今までと同様、山口綾規氏。今回は、前日の4月1日13:30から同ホールにおいて、オルガン内部の映像をお見せしながらのレクチャーコンサート(オルガニスト:荒井牧子さん)も開催します。桜の時期、スカイツリーを間近に見られる錦糸町にお出かけしませんか?(福地智子記)