静けさ よい音 よい響き NAGATA ACOUSTICS
ニュースの書庫

News 09-11号(通巻263号)

発行:2009年11月25日

稲城市立 i (あい)プラザのオープン

外観
外観

配置図  配置図
配置図

 秋晴れの心地よい10月18日(日)、市民待望の複合文化施設「稲城市立 i プラザ」がオープンを迎えた。開館記念コンサートはNHK交響楽団のソロ・コンサートマスター堀正文氏率いるN響トップメンバーによる室内楽演奏会であった。施設にはオープンを待ちわびたお年寄りから子どもたちまでのたくさんの市民が訪れ、賑わいを見せていた。

◆施設概要
 東京都稲城市は、都心より南西に25kmほどの多摩地区にあり、1970年代以降の多摩ニュータウンの建設に伴い都心のベッドタウンとして人口が急増した地域である。古くから梨やぶどうの産地として知られ、現在はJリーグの東京ヴェルディ1969のホームタウンとして有名である。

  i プラザは新宿から電車で約30分の京王相模原線「若葉台」駅から徒歩2分という場所にあり、駅前バスロータリーに出ると本施設がすぐ目に入る。周辺はマンションやスポーツ施設などが建設中であり、駅前の開発が進んでいるのがよく分かる。

  i プラザは稲城市の6つ目の文化施設で、若葉台地区の新たな「であい・ふれあい・まなびあい」の場として計画された。客席数410席の i プラザホールと音楽練習等に利用できる40人収容のスタジオのあるホールエリア、会議室・ギャラリーなどの生涯学習エリア、プレイルーム・創作室などの児童・青少年エリア、図書館、市役所の若葉台出張所などからなる。

 本施設はPFI(Private Finance Initiative)方式による事業で、NTTデータ、佐藤総合計画、松井建設、ジェイコム、京王設備サービスの出資により「いなぎ文化センターサービス株式会社」が設立されプロジェクトが進められた。設計・監理は佐藤総合計画、施工は松井建設・大石建設共同企業体である。永田音響設計は設計・監理の一連の音響コンサルティング業務を担当した。

舞台反射板設置時
舞台反射板設置時

舞台から客席を望む
舞台から客席を望む

◆ i プラザホールの室内音響計画
 若葉台の里山をイメージしたという i プラザホールは、ワンスロープの客席をもつ、音楽を主目的とした多目的ホールである。生音でのコンサートにふさわしい空間とするため、室形状はよい音響が得られやすいシューボックス型の平面を基本とした。また、十分な室容積を確保するため、プロセニアム開口の高さは舞台面から10mとし、天井は舞台反射板から客席後部まで、四つのなめらかな曲面で構成されている。1席あたりの室容積は11m3と、この規模のホールとしては大きい。そのため、客席から天井を見上げると視覚的にかなり高く感じられる。天井形状は初期反射音が最もよく客席に分布するように、3次元コンピュータシミュレーションを用いて傾斜角度を検討した。さらに、初期反射音の中でも早めに到達する反射音をやや減らし、時間的なバランスをよりよくしようと、舞台反射板の一部に有孔板+グラスウールによる吸音構造を配置した。また、舞台反射板と客席側壁の下部には、反射音の拡散を意図して、大きさや間隔をランダムにしたリブを配置した。このリブは木立のようにも見え、デザインコンセプトである若葉台の里山のイメージと音響的な配慮がうまくマッチしていると思う。客席椅子は木の葉が地面に落ちているかのように色の違うクッションがランダムに配置されている。残響時間は、舞台反射板設置時1.5秒(満席時/500Hz)と、生音主体のコンサートに適した値が得られた。また聴感的には、残響時間の値そのものよりも、より響きの多い空間である印象であった。舞台反射板から舞台幕に転換した状態では、残響時間1.1秒(満席時/500Hz)であり、多目的利用に十分な可変幅である。

◆開館記念コンサートを聴いて
 コンサート当日、リハーサルから聴く機会を得た。演奏者の皆さんもホールの響きを確かめながらアンサンブルをしている様子であった。筆者の感想は「暖かい音がよく響いているな」というのが第一印象である。

 コンサート本番は、曲間にトークも交えとてもアットホームな雰囲気であった。N響メンバーをはじめとする皆さんの演奏はさすがに素晴らしく、特にコントラバスの低音がよく鳴っていたのが印象に残った。曲目もシューベルトの「鱒」など親しみやすい曲で、市民の皆さんも楽しんでいるように見えた。

  i プラザのイベント情報を見ると、千住真理子さんや横山幸雄さん、中村紘子さんといった著名な演奏家の充実のプログラムが予定されている。そして i プラザが、実際に市民が催し物に使い、学校や仕事帰りに気軽に立ち寄れるような「であい・ふれあい・まなびあい」の場になることを願っている。ぜひ一度、足を運んでいただきたい。(酒巻文彰記)

 稲城市立 i プラザ公式ホームページ http://www.iplaza.inagi.tokyo.jp/



舞台音響反射板について〜その2〜

 前回(NEWS260号)は、多目的ホールにおける舞台音響反射板の機能について紹介した。本号では、舞台音響反射板の種類と実例を紹介する。

図1 舞台断面図
図1 舞台断面図

◆舞台音響反射板の収納方式
 多目的ホールの舞台面積やフライタワーの大きさは、主とする催物や建築計画上の制約等からホール毎に異なっている。そのため、舞台内に収納される舞台音響反射板の収納方式は、それぞれのホールで工夫がされている。その収納方式は、図1のように反射板の収納位置によって、天井収納方式(A)、奥舞台収納方式(B)、奈落収納方式(C)に分けることができる。舞台音響反射板が舞台機構の一つとして導入されたのは1950年代であり、当時はフライタワー内に反射板を吊って収納する方式(A)が主流であった。しかし、ホールの多目的機能の拡大に伴い、吊物装置・照明設備の規模が拡大し、それらと収納時の反射板の納まりが問題となった。その解決方法としてB、Cのような収納方式が考案されたのである。実際には、ホールの性格や舞台の大きさに合わせて、上記3方式、あるいは組み合わせた収納方式が採用されている。本号では、まず、天井収納方式(A)、奥舞台収納方式(B)の2方式について、以下に紹介する。

◆天井収納方式
 この方式は、天井・側面・正面の各反射板を分割して舞台上および袖舞台上に収納する最も一般的な方式である。フライタワー内の吊物装置の間に吊って収納するため、反射板の重量と厚みには制約が生じる。また、反射板が組立て設置時に衝突しないようにクリアランスを確保しているため、反射板設置状態では各反射板同士の隙間が大きくなってしまう。音響的には、この隙間が吸音面となるため、舞台・客席への反射音が減少するだけでなく、反射板の設置時、収納時による残響時間の可変幅も小さくなってしまう。1面で構成された天井反射板等、反射板の分割数が少ない場合には、反射板収納時の吊物装置との納まりや反射板設置時の隙間の問題は多少軽減される。

写真1 旧杉並公会堂
写真1 旧杉並公会堂

◆天井収納方式のホール実例〜旧杉並公会堂〜
 旧杉並公会堂(1957年竣工)は、本格的な舞台音響反射板が導入された初期の多目的ホールのひとつである。正面反射板は固定式、天井反射板は天井収納式、側面反射板は回転式の構造で、2分割された天井反射板の間に、照明用のスペースがある(写真1)。また、回転式の側面反射板は、閉じた状態では音響的な反射面としてはたらき、袖幕のように開いた状態では舞台への人やモノの動線と見切りを確保する。この回転式の側面反射板は、音楽系のホール、舞台奥行きが狭い小規模ホール等で採用されることがある。

 比較的古いこの方式の反射板は、薄いボードで構成された反射板により低音が吸収され、また、反射板間の隙間により高音が吸収されるため、反射板設置時と収納時の残響時間の差が低・高音域で少ない傾向にある。

写真2 兵庫県立芸術文化センター
写真2 兵庫県立芸術文化センター

◆奥舞台収納方式
 この方式は、反射板を一体型として、奥舞台(写真2)や袖舞台の専用スペースに収納する方式である。実際には奥舞台の収納スペースを減らすため、反射板を門型構造として、分割して収納する場合が多い(写真3)。天井の吊物装置の配置の自由度は高いが、反射板が床走行式の場合、舞台床に反射板の走行レールが必要となる。音響的には、反射板を一体型にすることで反射板間の隙間を最小限に抑え、重量も重くすることが出来るが、門型に分割する方式では、形状が限定されてしまう。

また、奥舞台など、十分な収納スペースがとれない場合の収納方式として、反射板を舞台奥上部に折りたたんで収納し、アーム状の機構で反射板を舞台側へ押し出す方式がとられる(写真4)。この場合、床走行レールも不要で、天井収納方式と比べると反射板間の隙間、吊物装置との納まりの問題は少ないが、アーム機構による反射板の重量制限や、折りたたみ式のため、仕上げの凹凸などの拡散形状の制限を受ける。

  写真3 オーバード・ホール
写真3 オーバード・ホール
  写真4 アーム状の機構
写真4 アーム状の機構

写真5 岩見沢市民会館
写真5 岩見沢市民会館

◆奥舞台収納方式のホール実例〜岩見沢市民会館〜
 岩見沢市民会館(2003年竣工)では、天井反射板と側面反射板が折りたたみ式で、正面反射板と一体の構造となっている。収納時(写真5)は、反射板を折りたたんで収納空間をなるべく小さくし、また、舞台床レベルよりも上に吊り上げることで、舞台上のスペース、動線への影響が少なくするように工夫されている。反射板を設置する時は、上手・下手の袖舞台上部に設置された走行レールによって前進する。さらに、折りたたみ式の天井・側面反射板の設置枚数を変えることで、図2のように演奏形態・編成に合わせた2通りの舞台サイズにすることが出来る。

 次回は、奈落収納方式、および、その他の方式の特徴、実例について取り上げたい。(服部暢彦記)

  図2 反射板の設置パターン1    図2 反射板の設置パターン2    図2 反射板の設置パターン3 
図2 反射板の設置パターン


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