静けさ よい音 よい響き NAGATA ACOUSTICS
ニュースの書庫

News 08-12号(通巻252号)

発行:2008年12月25日

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西南学院大学 新チャペル

新チャペルの外観
新チャペルの外観

舞台から見た客席
舞台から見た客席

旧ランキン・チャペル
旧ランキン・チャペル

 西南学院大学の新チャペルは本年3月に工事が完了し、4月5日に献堂式典が行われた。新チャペルは老朽化したランキン・チャペル(1954年竣工)に代わる施設として同じ敷地に新築された建物で、大学講堂としての利用も兼ねている。本チャペルの建築設計・監理は設計競技で当選した株式会社一粒社ヴォーリズ建築事務所、施工は鹿島建設である。

 筆者が音響設計に関わった発端は辻オルガン代表の辻紀子としこさんからの電話であった。2005年5月頃だったと記憶する。「設計競技で当選した新チャペル案はオルガンの視点から問題があると思われるので第三者の立場から見てほしい」という内容であった。ランキン・チャペルのオルガンは故辻宏氏の作品であり、九州地区で話題を呼んだオルガンで、その献堂式典には私も参列した記憶がある。

 設計競技では、新チャペルには礼拝空間としてだけではなく大学講堂としての機能も備えることが求められていた。これに対して当選案は楕円形の外郭構造の中に扇形の平面形の客席を納めた空間で、天井高さも11m程度、チャペルとしての使用の他に舞台の可動の反射板や幕によって講演、授業、コンサート、簡単な演劇などが可能なように計画されていた。オルガンは旧チャペルと同様に上手袖である。このような多目的指向の基本形状に対して、筆者はオルガンの響きを重視するならば直方形を基調とする形状が好ましいこと、その上で多目的利用に対する対応を考えるべきではないかという意見を具申した。学院側もこの要望を真摯に受け止め建築委員会が設けられ、新しい形状に対して使い勝手についての様々な主張をはじめ、敷地の制約の中での客席数の確保など多くの問題が討議された。筆者が出席した委員会だけでも6回にもなり、要請を受けて天井高などについて意見を述べた。その結果、新チャペルはオルガンが舞台正面に設置された直方形(巾21m、奥行き30m、高さ13m)の空間に変更された。客席数904席。外壁は学院内の他施設と同様に赤いレンガ壁で、当初案の楕円形状を一部に残している。

 響きの設計にあたっての課題は、オルガンに好ましい豊かな響きと、説教、講義などで要求されるスピーチの明瞭度をどのように両立したらよいか、であった。当初、学園祭などの行事でのポピュラー音楽の上演に対して、側壁にカーテンによる可変吸音の導入を提案したが、これは残念ながら予算の関係で実現しなかった。

レンガの凹凸、透かし積み
レンガの凹凸、透かし積み

曲面形状、内倒しの側壁
曲面形状、内倒しの側壁

 残響時間の設計目標の設定にあたって考慮した事項は、@旧チャペルの残響時間は空席で1.6秒(500Hz)とややデッドな空間であったこと、Aオルガンを設置したチャペルやコンサートホールの音響設計の体験から平均吸音率0.2、小空間では0.15程度の響きの空間でも適切な拡声装置さえ設置できればスピーチの明瞭度は問題ないこと、という2点であった。そこで残響時間1.8秒、平均吸音率0.19(500Hz、満席時)と設定し内装設計を行った。

 内装構造についての反射面に対する音響設計からの要望は、振動が抑制された剛で質量の大きい構造であること、拡散効果をねらった凹凸のある表面の仕上げであることなどであった。設計者の意向で実現した壁は表面がラフな仕上げの白色煉瓦を積重ねた構造で、凹凸のある積み方や透かし積み、さらに、曲面形状を持ちながら内側に傾斜した積み方など音響設計の意図が意匠的に処理された形状になっている。オルガンバルコニー床は、オルガン製作者の要望によりスラブは設けず木軸組のみとしオルガンの低音が床面から放射される構造となっている。問題の拡声装置はスピーカークラスター(EV(FRX+640)×5台)を舞台前端上部に露出して設置し、バルコニー下には5台の補助スピーカを設置した。

 残響時間(500Hz)は、空席時2.3秒、満席時1.8秒(満席時は計算値)、オルガン設置後の予測値は空席時で2.2秒である。本チャペルの使い方からみて、使いやすい響きといえる。

 式典の際、確認した拡声装置の明瞭度は問題なく、聞きやすい音質であった。なお、オルガンは2009年9月に復元されステージ正面に設置される。新しい空間でのオルガンの響きが楽しみである。

 室形状の変更に理解を示してくださった大学関係各位、ならびに、設計・施工ともに工程が厳しい中、音響設計の趣旨を設計に見事に反映してくださった一粒社ヴォーリズ建築事務所の中山献児氏、施工および検査測定にご協力いただいた鹿島建設九州支店の皆様に感謝いたします。(永田 穂記)



The 37th inter noise 2008上海

セッション会場
セッション会場

 inter noise 2008(国際騒音制御工学会議)が10月26日〜29日に中国・上海の国際会議センターで開かれた。inter noiseは様々な騒音・振動に関する国際会議で、世界各地で年に1回開催されている。

 今年は口頭発表が500件以上(招待講演を含む)、くわえてポスターセッションやアジア太平洋地域の騒音制御に関する教育をテーマとしたフォーラム等が行われた。各セッションは8:30〜18:00過ぎまで、多いときには10を超える室で同時進行された。遮音・吸音材料、測定方法、数値計算予測、環境騒音、心理音響等、一口に騒音制御といってもその内容は多岐に渡っている。

 中国開催ということで、News 05-07号(通巻211号)でも紹介をしているが中国科学院のDah-You Maa教授の考案されたMicro perforated Panel (MPP)に関するセッションや、北京の国家大劇院や上海東方芸術中心の室内音響に関する報告もあった。また、欧米の大学・研究所等に所属する中国人研究者の発表も多かったように思う。

 弊社からは筆者が"Sound Insulation Structure in Auditorium Buildings-part 2, An example of the measurement results of sound insulation in a rock music performance space"のタイトルで、ロック音楽用ホールの遮音設計と遮音性能の測定結果等の報告を行った。興味を持って聴いていただけたのか、質疑では思いの外、多くの手が挙がった。ロック演奏音が130dBにも達するという報告に、驚いたような質問もあった。英語の不得手な私は、会場の日本の先生方にお世話になりながら、どうにか?発表を終えた。

上海の夜景(浦東新区を臨む)
上海の夜景(浦東新区を臨む)

 私が発表を行った会場(写真の会場)は、セッション会場の中で一番広かった割にスクリーンが小さく、スピーカも移動式が側壁に沿って客席側を向いて数カ所に置かれているだけで、講演者へのトークバックスピーカもなかった。質疑が始まると会場からはマイクを使って質問がされる。弁解に聞こえるかもしれないが、講演者に向かうスピーカがないので、とても質問が聞き取り難かった。講演会場の音響設計を行うことは多いものの、大きな講演会場で自分が講演する経験は貴重であり、身をもって適切なスピーカ配置の重要性を体験することとなった。

 会議が開かれた国際会議場のある上海の浦東新地区は、今年秋にアジアで2番目に高い上海環球金融中心(492m)ビルが竣工し、高層マンションも多数建つ上海の中でも特に新しく開発された地区であった。道幅も広く、建物はみな高いか、高くなければ大きい。やはり、大陸は広いなぁと感じた。(石渡智秋記)



ウィーン楽友協会大ホール

外観
外観(右側が正面入口、左側に楽屋口。正面
入口の前面道路の地下にNews 08-04号
紹介した4つの小ホールが増築されている。)

大ホール内観
大ホール内観

 ウィーン楽友協会大ホールといえば、世界で最も美しい響きを持つといわれているシューボックス形状の代表的なホールである。インテリアは金襴豪華で黄金ホールともいわれている。某プロジェクトに関連して、今年1月に内部の見学とコンサートを聴く機会を得た。楽友協会のホームページには日本語のサイトもあり、いかに日本人のファンが多いかがわかるのだが、私が聴いたコンサート(ファビオ・ルイジ指揮ウィーン交響楽団、曲:リヒャルト・シュトラウス「ドン・キホーテ」、ブラームス「交響曲第1番」)でも多くの日本人が訪れていた。見学では、楽友協会に25年間勤務している技術部長のStefan Billing氏にお話を伺った。今回は、楽友協会大ホールに関する雑学をいくつかご紹介したい。

 1992年5月、事務所の研修旅行で楽友協会大ホールを訪れ、3晩続けてコンサートを聴いたことがある。当時、ホール内には空調設備がなく、5月とはいえ暑さに辟易したことをNews 92-08号(通巻56号)に書いている。そのことを話したところ、10年くらい前に冷房設備の設置工事が行われ、今は冷暖房が完備されているということである。また、その時にはバルコニー席の椅子にはクッションがなかったのだが、2,3年前に設置されており、今回は背中やお尻が痛くならずに快適にコンサートを楽しむことができた。

 ホール内の吸音材料は、この客席椅子以外にはメインフロアーサイドの手摺りにかけられたタペストリーのみである。このタペストリーは建築当初から設置されているもので、現在のものは40年程前にバックハウゼンによって新調されたものである。

 舞台の広さは、ニューイヤーコンサートの映像からもわかるようにオーケストラの両脇に寄り添うように客席があったり、奥行も10mしかないなど、オーケストラ用としてはかなり狭い。大編成のオーケストラが余裕を持って並ぶことはかなり難しいため、そのような場合には、客席前方の3〜5列をはずして1.5〜3m伸張することができるようになっている。今までに舞台上に乗った最大人数は700人程度、また3つのオーケストラで演奏したこともあると話されていた。客席数が1,680席だから、さぞや壮観だったことだろう。

サイドバルコニーからメインフロアーを臨む
サイドバルコニーからメインフロアーを臨む
メインフロアーサイドの手摺りに掛けられたタペストリー
メインフロアーサイドの手摺りに掛けられたタペストリー

メインロビーのクローク
メインロビーのクローク

 楽友協会大ホールでは楽友会や技術者たちの舞踏会が年2回開催される。そのために会館全体で3,500人分のクロークが用意されている。私が聴いたコンサートでもその公演の前後、クローク前はごった返していたが、手際のよい応対でそれほど時間もかからずコートを預けたり受け取ったりすることができた。楽友協会大ホールの椅子の前後幅は、キチンと座っても膝頭が前の椅子の背にくっつくほどに非常に狭い。したがって、厚手のコートを持って座ることはほぼ不可能である。私たちがウィーンを訪れたときはその1週間前までの寒さが嘘のように暖かだったのだが、通常は非常に寒く厚手のコートは手放せないということである。クロークがホールの必需品であることを実感した。((福地智子記)


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