静けさ よい音 よい響き NAGATA ACOUSTICS
ニュースの書庫

News 07-10号(通巻238号)

発行:2007年10月25日

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上野学園に新校舎棟が誕生

新校舎の外観
新校舎の外観

 東京の文化の中心地のひとつとして緑豊かな敷地の中に国立博物館、西洋美術館、東京文化会館など数多くの文化施設が集まる上野公園。それらを一望する高層の校舎棟が、上野駅から徒歩10分ほどの学校法人上野学園に完成した。

 上野学園は中学、高校、短期大学、大学からなる総合音楽学校で、今年、創立103年を迎えた。この春、旧校舎棟群が改築されて新校舎棟が竣工し、また、中学から大学までの全てが男女共学となって、新しいスタートをきった。

■施設概要  この新校舎棟は地下2階、地上15階建て(鉄骨造)で、中学・高校・短大・大学の校舎機能が全てここに移転した。建物の低・中層部が中学・高校ゾーン、10階以上の高層部は短大・大学ゾーンである。ホームルームなどの一般の教室の他、オーケストラ用、合唱用や室内楽用等、大小5つのリハーサル室、学生がレッスンを受けるための室37室、個人練習室24室等、多数の音楽系の諸室が設けられている。これらの室の多くは建物周囲のカーテンウォールに面して配置され、明るく開放的な雰囲気となっている。また、床衝撃音の影響を考慮して体育館は地下に配置され、14〜15階に図書室、15階には見晴らしのよいラウンジも設けられている。

 設計は現代建築研究所・日総建、施工は清水建設である。弊社は多数設けられたリハーサル室、レッスン室、練習室等の音楽系諸室の音響設計を担当した。

リハーサル室
リハーサル室

レッスン室
レッスン室

■音楽系諸室の遮音計画  本ニュースでもすでに紹介したいくつかの音楽大学施設と同様に、本施設においても音楽系諸室間の遮音性能の確保が音響設計上の大きな課題であった。新校舎では一般の教室等他室への音の伝搬防止を考慮して各音楽系諸室を8〜13階の6層にまとめて設ける配置計画となっている。

 遮音構造については、リハーサル室、レッスン室、練習室等、室の性格別にグレードを設定した。最も高い遮音性能が求められたリハーサル室は、固定側の遮音壁としてTLD55の乾式遮音間仕切り壁を採用し、その内部に、浮き床と石膏ボード複層貼りの防振遮音壁・天井による完全な防振遮音構造を構築した。浮き床の仕様は室により、防振ゴム浮き床とGW浮き床を使い分けている。レッスン室、練習室の遮音性能は基本的に固定の遮音間仕切り壁のみで確保するものとし、レッスン室にTLD55、練習室にTLD50の乾式間仕切り壁を採用した。さらにレッスン室同士が隣接する場合には、隣接壁面にのみ石膏ボード複層貼りの防振遮音壁を併せて設置した。床はレッスン室全室および直下階が大音楽室となる一部の練習室について浮き床を採用し、天井については両室とも内装仕上げを防振支持している。

 このように、室の用途に応じて遮音構造のグレードを細かく設定することは、必要な遮音性能を確保しながら、経済性や限られたスペースを生かすことにも有効であったと考えている。しかしながら、一方でこの数種類の遮音構造を施工者にきちんと理解してもらうことの難しさを実感することにもなった。乾式遮音間仕切り壁の施工においては、一般の壁面の施工にはない、遮音性能を確保するための納まりや心配りが必要となる。また、今回の建物は鉄骨造であるため、構造体と固定間仕切り壁の取り合い部の遮音対策も複雑となり、さらに数種類の防振遮音構造が組み合わさっている。このため、施工管理担当者だけでなく工事担当者にも音響関係の工事について理解を深めてもらう機会を持ちたいと考え、説明会を企画した。説明会が現場での適切な工事内容に結びつくには我々の伝え方にももう少し工夫が要りそうだが、高い遮音性能を実現するためには、実際に手を動かす職人さんレベルまで「音響工事である」という認識を持ってもらうことが欠かせないと感じている。

 また、鉄骨造につきもののカーテンウォールであるが、今回採用されたガラスと白いアルミのカーテンウォールは、レッスン室等の固定遮音層としての役割も果たしている。設計者の求める意匠性が高く開放感のある仕様に対して、どのような遮音対策が出来るか、現場では設計者、施工者と共に繰り返し検討を行った。カーテンウォールを含んだ遮音構造については、意匠や構造による制約が多いことから、今後も個々のプロジェクトで解決策を探っていくことになるだろうと考えている。(箱崎文子記)

 上野学園ホームページ  http://www.uenogakuen.ac.jp/index.html

遮音設計シリーズ番外編U「M'曲線って何?」

 サッシの気密性の向上などによって最近の集合住宅の音環境は静かになっている。しかし、室内が静かになることで、今までは気が付かなかった隣室からの音が聞こえて気になるという新たな問題が生じている。その一つの原因といえるのが有意(味)騒音と呼ばれる騒音の存在である。有意(味)騒音とは、例えば隣室から聞こえてくる会話や音楽、便所の給排水音のように音量の変動やリズムがあり、意味をもっているかのような騒音のことをいう。この有意(味)騒音は、空調設備騒音のような広帯域で定常的な無意味騒音よりも耳に付きやすいという特徴があるため、たとえ小さな音量であっても一度聞こえると気になってしまい、不快に感じやすいのである。

 特に静けさが求められるコンサートホールやスタジオでは、有意(味)騒音(自動車・鉄道の走行音、他室の演奏音)が少し聞こえるだけでも気になって問題となる場合があり、それらの施設の遮音設計では空調設備騒音の評価に用いられるNC曲線と区別して「M'曲線」という評価曲線を有意(味)騒音に対して用いている(ニュース99-0806-05号)。このM'曲線という評価曲線は、今から50年以上前にNHK技術研究所時代の永田穂によって提唱されたものである*。当時、録音スタジオにおいて空調設備騒音よりも小さな演奏音(有意(味)騒音)が他のスタジオからダクトを経由して聞こえてきてしまうという問題があり、空調設備騒音とは異なる評価値が必要とされたことが提唱の背景にあったと聞いている。

 本ニュースでは、聴覚で生じるマスキング現象をもとに考え出された有意(味)騒音の評価曲線「M'曲線」について説明したい。

■「マスキング」って? 例えば室内で会話をしているとき、航空機や鉄道による大きな騒音が外部から聞こえてくると、話し声がそれらの音にかき消されて(マスクされて)、聞こえなくなってしまうことがある。これがマスキングである。一般にマスクする音の音量が大きいほど、また、マスクされる音とマスクする音の周波数が近いほどマスキングが起こりやすいという特徴がある。

NC曲線とM'曲線の比較
NC曲線とM'曲線の比較

■「M'曲線」って? マスキングの考え方によれば、耳に付きやすい有意(味)騒音であっても、意味の無い室内騒音によってマスクされるほどの小さな音量であれば聞こえなくなる。

 図中の曲線(破線)はNC曲線(Noise Criterion Curves)と呼ばれ、コンサートホールや会議室等の空調設備騒音等の広帯域の定常騒音の評価に用いられている。このNC曲線に沿った周波数特性をもつ定常騒音があるときの純音の最小可聴値を表す曲線がM曲線(Masking Threshold) といわれるもので、NC曲線に沿う定常騒音によってマスクされる音の大きさの境界線を示している。計算で求められるこのM曲線の値はマスキングが起こりやすい低音域においてはNC曲線の値よりも大きくなってしまう。有意(味)騒音と定常騒音が同時に存在する場合には、聴感上は聞こえない有意(味)騒音の値が定常騒音の値より大きくなることがあるため、M曲線を補正したものが図のM'曲線(実線)である。例えば暗騒音がNC-20の受音室へ透過する有意(味)騒音のレベルがM'-20を超えればその騒音は聞こえ、M'-20以下であれば暗騒音にマスクされて聞こえないことになる。遮音設計を行うときには、図に示したNC曲線とM'曲線の関係を利用して、受音室で聞こえては困る外部からの有意(味)騒音に対してはM'値を、設備騒音等の定常的な騒音に対してはNC値を許容騒音レベルとして設定している。

 室用途を考えずに過度に静けさを求めると、新たな騒音に悩まされることになってしまう。快適な音環境とするためには、その室用途に適した静けさを考えることが大切である。(服部暢彦記)

 *「有意騒音に対する許容音圧レベル」永田穂 音響学会研究発表論文集,1954.5

ICA2007 と ISRA2007報告

 3年に一度開催される国際音響学会(ICA, International Congress on Acoustics)が、9/2-7の日程でスペインのマドリッドで開催された。筆者は2日間だけであったがそれに参加し、昨年11月末にオープンしたサンクトペテルブルグ(ロシア)マリインスキー劇場の新コンサートホールの音響設計について紹介した。筆者の参加した室内音響+建築音響部門のコンサートホールの音響に関するセッションは、9/4,5の2日間にわたって行われ計39の発表があった。

 取り分け注目を集めたのは、セッションの冒頭で2コマ(40分)を使って行われたDr. Leo Beranekによる「Concert Hall Acoustics 2001-2007」である。1914年生まれのDr. Beranekは今年93才であるが、自身の発表にしても他の発表者とのディスカッションにしても全くその年齢を感じさせない素晴らしいものであった。60才代といわれても納得してしまう若さとエネルギーを感じた。発表の内容は「2001-2007」というよりさらにさかのぼって、SabineやEyringに始まる残響理論から、その後の初期反射音に対する注目、近年の反射音の方向性に関する研究までを網羅的に解説したもので、その長い歴史を実に要領よく簡潔に、しかも分かりやすくまとめたものである。幸運にも当日の発表で使われた資料のそのままのコピーを入手することができ、このニュースでお知らせする許可までいただいた。コンサートホール室内音響関係の研究者必見の資料といえよう。下記のウェブ・サイトでダウンロード可能です(Dr. Beranek提供)。(豊田泰久記)

http://www.nagata.co.jp/news/070904BeranekLecture@Madrid.pdf


パリ新フィルハーモニーと秋吉台国際芸術村を取り上げたポスター展示 パリ新フィルハーモニーと秋吉台国際芸術村を取り上げたポスター展示
パリ新フィルハーモニーと秋吉台国際芸術村を
取り上げたポスター展示

 翌週の9/10-12、室内音響に関するシンポジウムISRA2007が会場をスペイン南部のセビリア大学建築学部に移して行われた。シンポジウムには35ヵ国から160名が参加し、口頭とポスター合わせて86件の発表が行われた。当社からは筆者が参加し、模型実験用スピーカの試作について発表を行った。

 ICAの後のサテライトシンポジウムはこのところ恒例化しているが、今回はICAの前にイスタンブールで国際騒音制御工学会が開催されたこともあり、日本からも含めて参加者は少なめであった。また、コンサートホール音響や空間印象に関する大きなセッションがICAで行われたこともあってか、内容的にもやや低調な印象を受けた。そんな中、聴感的な空間印象(神戸大・森本教授)や、舞台と客席のような結合室の音響(Rensselaer Polytechnic Institute・Prof. Xiang)に関する基調講演はわかりやすく大変興味深かった。また、我々が音響設計を担当した秋吉台国際芸術村のコンサートホールを、様々な場所で演奏できる"多焦点(multifocal)"レパートリーに対応したホールという観点からまとめたポスター発表に出会ったのは驚きであった。(小口恵司記)


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