永田音響設計News 04-10号(通巻202号)
発行:2004年10月25日





国見町文化会館“まほろば”がオープン

 あの国見?そう、あの国見。毎年お正月恒例のサッカー高校選手権で全国的に有吊な長崎県立国見高校のある町である。町のあちこちに、特産品の“たいらガネ”(ワタリガニを国見町ではこう呼ぶそうだ)がサッカーボールを持っているマークが目に入る。町職員の吊刺は国見高校カラーの青と黄色の縦縞模様と、町ぐるみでサッカーを応援している様子がよくわかる。そんな国見町は、長崎県島原半島、普賢岳の北の有明海に開けた町である。国見町文化会館“まほろば”は平成15年7月から総事業費8億円弱をかけて建設が進められ、平成16年3月に完成、4月11日にオープンした。ホールと図書館が平面的に配置されたシンプルな施設である。ホール側壁内装には大きな孔あき板(=大きな水玉模様)が使われており、その水玉が施設の特徴的なデザインとして図書館の天井や、サイン計画上にも表れている。設計は日本設計・九州支社である。

◆ホール 式典・コンサート・演劇をはじめ、町のサークル活動でのダンスや運動まで幅広いニーズに応じて、ホールは可動客席(ロールバックチェアとスタッキングチェア合計404席)を備えた平土間(約400m2)として計画された。平面図に示したように、テラス側に扉を多く設け、展覧会や展示会などでは外部空間からテラス、ホワイエ、ホール空間までが一体となって人を呼び込めるように考えられている。舞台(約200m2)は固定で、フライタワーはないが基本的な幕類・照明類を装備している。舞台音響反射板については、当初コストや規模の面などから割り切って省こうかという案もあったが、音楽系のサークル活動がいろいろあることや、また周囲の町に舞台反射板を持つホールがないこともあり、舞台上での演奏がしやすい環境になるように簡易な方法で設けることになった。正面反射板は石膏ボード仕上げのホリゾントと兼用とし、側壁反射板は4分割の回転する袖壁方式で袖幕機能と兼用とした。また、舞台天井に設けられているキャットウォークの下部にボードを貼り、反射音が舞台に返るように配慮した。

◆舞台貸し 本施設の使用料金区分には、“舞台のみ使用”という項目がある。使用料は1時間300円。コストや使用頻度を考慮の上、練習室・リハーサル室に浮き構造など特別な遮音構造の採用はしなかったので、図書館から最も遠く遮音上有利なホールの舞台をホールが使われていない時に「使わない手はない!《ということで、設計側も舞台貸しを積極的に提案した。近隣の町で稼働率UPを考え、すでに太鼓の練習などに舞台貸しが行われていることも参考にした。稼働率100%のホールというのもなかなかないわけで、貸し出し時期の難しさなどもあるが、大きなホールでも安価に舞台のみを練習用に借りられると喜ばれるのではないかと思う。本番と同じ舞台環境に慣れるためにも望ましいことである。

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 オープン後、ホールへなかなか訪れる機会が持てずにいるが、インターネットその他の情報では、コンサート、絵画の展覧会、生涯学習活動の催し、地区の会合、歌舞伎ゼミナールなど、町のホールとして多目的かつ活発に使われているようで何よりである。オープン時の町長の言葉通り、文化会館に様々な人が集まり、交流し、協働し、憩いの場として利用して欲しい。(石渡智秋記)             

札幌芸術の森野外ステージ

Sapporo Art Park Outdoor Stage
 札幌市によって建設が進められていた芸術の森の新しい野外ステージが本年3月に完成し、15周年を迎えた今夏のPMF(Pacific Music Festival)でお披露目となった。

 市はこれまでに芸術の森アートホールと札幌コンサートホールKitaraを完成させており(本ニュース1995年10月号および1997年7月号参照)、今回のプロジェクトが一連の総仕上げとでも言えるであろう。改築前の既存のテント張りの仮設ステージは1990年の第1回PMFに合わせて急遽用意されたもので、ステージ自体の改修と楽屋等の整備が待ち望まれていたのである。(本ニュース1993年8月号参照) 総工費6億円強をかけて野外ステージは新しく生まれ変わった。

 このプロジェクトではプロポーザル方式による設計者選定が行われ、特定されたのは㈱ハウ計画設計である。代表取締役社長の大橋馥(おおはしかおる)さんは、プロポーザルに指吊された時点で、地元の札幌からわざわざ東京の弊社まで直接みえて、音響設計の協力を要請された。御自身も声楽を嗜まれるとあって、プロジェクトを通して、その熱意は並々ならぬものがあった。音響の改善、バックステージの充実、札幌の雪の問題、日照および車の動線などの諸条件を、限られた予算と敷地の中で実現するためにはかなりの労力を必要とされたに違いないが、独自の人的ネットワークと粘り強い根気を持って設計作業を進められた。

 ステージ屋根は「空からふわっと舞い降りた雲《をイメージしてデザインされ、森の中に溶け込んだその姿はとても美しい。ステージは、間口24m、奥行き16mと、以前に比べて約2倊の広さとなり、ステージ上には演奏者を約200人まで収容することができるようになった。屋根先端の高さは約18mにもなっている。ステージ裏には大小合わせて9つの楽屋、備品収紊室およびトイレを備え、PMFをはじめとする各種のイベント時に活用できる。

Stage Section
 音響については、ステージ上と、屋根の懸かった500人収容の椅子席部分に重点を置いて検討を進め、天井と壁の形状を決定した。材質のほとんどがコンクリートである。右の写真にあるとおり、正面壁の下部と側壁は屏風折りの形状で、正面壁の上部も垂直ではなく、横方向にスリットの入った折れ壁とした。天井は分割された現場打ちコンクリートで、曲面で構成され、なおかつ縦方向に段差を設けたために、施工は大変困難なものとなった。

 椅子席の中に太い柱が立たないように片持ち出しとなった大屋根は相当な重量であるため、ステージ開口の門構えの上部を支点として、ステージ三方の壁面が錘(おもり)となって、前後にバランスを取るような構造となっている。

 ステージ天井面には、各種の催し物に対応するために、照明用および美術用のバトンを備え、さらに照明器具やスピーカ、幕類などを適宜吊り下げられるように、固定の吊りフックが分散配置されている。

 7月17日にPMF2004のオープニングセレモニーとPMFオーケストラの演奏会がこの新しいステージで行われ、続いてPMFオーケストラと札幌交響楽団による演奏会がいくつか開かれた。筆者はPMFオーケストラによる演奏を7月24日に札幌コンサートホールKitaraで、翌25日に野外ステージで聴くことができた。両日とも同じ曲目だったので会場による違いがよく分かったが、野外ステージの椅子席ではオーケストラの生の音がかなり気持ち良く聴こえて大変うれしかった。演奏会の後半はスピーカで拡声している後方の芝生席でも聴いたが、音量が大きすぎることもなく、のんびりと寝転んで周りの家族連れや緑の森を眺めながらくつろいでいられた。野外ステージにおける演奏会の良さは、そのような開放感を味わえることにあるだろう。最終日のピクニックコンサートは、首席指揮者として迎えられたゲルギエフ氏による演奏で盛大に幕を閉じたということである。

 芸術の森ではこの野外ステージを、音楽に限らず、舞踊、演劇、各種のパフォーマンスなど、オールジャンルで活用できる場所として気軽に利用して欲しいと、貸し出しを行っている。敷地内には既に美術館と野外彫刻、絵画など各種のアトリエや工房、レストラン、ロッジ、そして移築復元された有島武郎旧邸があり、これからさらに注目のスポットとなるのではないだろうか。短い秋のあいだに見られる紅葉も見事である。(菰田基生記)

問い合わせ:〒005-0864 札幌市南区芸術の森2丁目75番地 TEL:011-592-4123     (http://www.artpark.or.jp/

日本音響学会 2004年秋季研究発表会に参加して

University of the Ryukyus
 今年の日本音響学会秋季研究発表会は、台風21号の影響が心配される中、9月28日~30日の3日間に渡り、琉球大学工学部で行われた。沖縄県では初めての開催となる。今回の学会の研究発表数は約670件で学会史上最多ということであり、参加者も2日目時点で計900吊以上におよんだ。わが社からは「ミューザ川崎シンフォニーホールの音響設計《 「北上市文化交流センターの音響設計《「まつもと市民芸術館の音響設計《の3件を発表した。

建築音響に関する発表の中で特に印象に残ったものを紹介したい。

• オープン型の教室配置を採用する学校の教室間の遮音性能について、実務に関連した研 究が紹介された。オープン型の教室では従来のクローズド型の教室に比べて室間の遮音 性能が劣ることから、使用上の支障が多く出ている。教室に隣接するオープンスペース の奥行きを広げたり壁面を外傾させる、または教室を雁行配置とすることで、隣室への 音の伝搬が数dB低減されるという数値解析結果もあり、大変興味深かった。やはりオ ープン型での遮音性能の上足は否めないが、その良さを活かし運用で切り抜けている学 校もあり、物理的な遮音性能のみでははかれない問題であるようだ。

• 床衝撃音に関しては、日本騒音制御工学会床衝撃音分科会で行われた検討3件を含め計  12件の発表があった。実務に携わっている方からの発表が多く、「住宅の品質確保等に  関する法律《が施行されたのに伴い、住宅供給者側の音性能に対する研究が活発になっ  ているのを実感した。また、2000年のJIS改訂に伴い床衝撃音レベルの測定に導入され  た重量衝撃源のゴムボールに関して、従来のタイヤを用いた場合の床衝撃音レベル低減  量との比較や、測定者による測定値のばらつきについての発表があった。

• 高層建築から発生する風切り音問題が増加している中、外装部材として多用されている  パンチングメタルから発生する風切り音についての研究が紹介された。風切り音の発生  は孔径、開口率だけでなく、孔の配置、支持方法にも左右されるということで、そのメ カニズムは複雑そうだ。風切り音の発生を防ぐには、まずはこういった材料の持つ問題  を認識して使用することが必要という印象を受けた。前述の学校の遮音問題と同様、こ  のような研究が行われていることを設計に携わる方々にも紹介していきたいと感じた。

• 繊維構成を工夫することでグラスールとほぼ同じ吸音率を実現したポリエステル上織布 が紹介された。グラスウールに伴う繊維飛散等の問題解消だけでなく、触ってもチクチ クしないので取り扱い易い、白色である、コストが低い等、設計者・施工者側にとって も利点が多そうだ。今のところ上燃の認定が取れていないので、内装制限を受ける場所 に使用できないのが残念である。(箱崎文子記)        

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永田音響設計News 04-10号(通巻202号)発行:2004年10月25日

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