No.200

News 04-08(通巻200号)

News

2004年08月25日発行
Entrance of Kibou Hall

酒田の新しい市民会館『希望ホール』

 東北地方で旧くから栄えた港町、山形県酒田市には、昭和37年という全国的にもはやい時期に1,100席の市民会館が建てられ、42年の長きにわたり文化の中心としての役割を担ってきた。しかし、老朽化が問題となり、市は別の敷地に建て替えを決め、敷地の選定を経て設計者選定のプロポーザルを実施した。そして最優秀に選出された本間利雄設計事務所による設計監理のもとで2004年2月に新しい市民会館が竣工、その名も『希望ホール』と名付けられ7月3日にオープンした。施工は、建築が鹿島・みなとJV、舞台設備工事は、舞台機構・名物を三精輸送機、舞台照明を東芝ライテック、舞台音響を不二音響が担当した。永田音響設計は竣工時の音響測定を含めた音響全般のコンサルティング業務を行った。舞台計画についての設計協力はシアターワークショップである。

Entrance of Kibou Hall

旧市民会館のすぐ隣に選ばれた敷地

 市は新しい市民会館の建設予定地として、いくつかの候補敷地の検討を経て、広さについては必ずしも好条件ではないものの、商店街に隣接していて、交通の便と市街地活性化という観点から旧市民会館および市役所に隣接する敷地を選んだ。この敷地からは、新井田川越しに市の屈指の景観といわれる山居倉庫が望める。ケヤキ並木と土蔵の景観が特徴の山居倉庫は、酒田港口にある庄内米の船積みのための旧い木造倉庫群で、現在も使用されているが、保存建築物として整備されており、この5月から一部が酒田市観光物産館「酒田夢の倶楽」としてオープンしている。

Sankyo souko

コンパクトな敷地に充実した施設

 本会館は、1,280席の大ホールを核として、150席程度まで対応できる平土間のリハーサル室として計画された小ホール、練習室3室、会議室で構成され、敷地に余裕が少ないため、大ホール以外の諸室は積層配置されている。大ホールは「クラシック音楽を主目的とした多目的ホール」として位置付けられている。

コンサートホールの性能を目指した大ホール

 大ホールは吊り方式の舞台反射板をもつ多目的ホールであるが、主目的に設定されたクラシックコンサートに対してできるかぎり良好な音響空間を創ることを目標に音響設計を行った。とくに重要なホール形状については、反射板設置時に舞台と客席を含む空間全体がシューボックス形になるように、建築的な制約いっぱいの12.6mの舞台天井高を確保した。さらに、サイドスポット前の側壁を軸回転させることにより花道の鳥屋開口をふさぎ、初期の側方反射音が客席に分布するように配慮した。また、刺激の少ない反射音を得るために音響反射面は音が拡散されるような内装仕上げを建築設計に要請した。その結果、写真に見られるように、客席側壁にはかって産米を運んだ北前船の帆を、天井には日本海の波をイメージしてデザインされた曲面の拡散面が設けられている。さらに、旧市民会館の教訓から、反射音が希薄になりがちなバルコニー下の席の音響条件をできるだけ良くするために、バルコニー下の天井高を4.8mと、多目的ホールとしてはかなり余裕のある高さを確保している。常設の客席向けスピーカは舞台上部中央と両サイドに設置されているが、プロセニアム周りはどこでもスピーカが仕込めるようにスペースが設けられている。満席時の残響時間(500Hz)はコンサート形式で1.9秒、劇場形式で1.3秒、空調騒音はNC-20以下である。

自然光あふれる明るい小ホール

 小ホールは大ホールとはロビーを挟んだリハーサル棟の最上階に配置されている。建物としては大ホール棟との間に構造的なエキスパンションを設け別棟とすることで遮音性能を確保した。また、下階に練習室が配置されているため、小ホールに防振ゴムによる浮き床構造を、練習室にも浮き構造を採用している。ホールの天井はテクニカルギャラリーになっている。東側壁面は全面に、西側の一部にもガラス壁が採用されているので、町並みが一望できる明るいホールである。

盛り上がったこけら落とし公演

 酒田市主催の開館記念事業として、7月4日に『市原多朗&佐藤しのぶ オペラアリアコンサート』が開催され、華々しく新市民会館がスタートした。オペラ界で人気の高い二人の声楽家だけにもちろん満席である。そのうえ、市原多朗さんは酒田市の出身で、演奏にも熱がこもり、たいへんな盛り上がりとなった。おそらく、市原さんの幼少の頃を知っているお客さんも少なくなかったにちがいない。また、佐藤しのぶさんの、舞台に花が咲いたような華やかな雰囲気も新しいホールの門出にふさわしいものだった。幸い、ホールの音響についても、市原さんから高い評価をいただき、市をはじめ関係の方々からも好評でひと安心というところである。秋には小澤征爾さんのコンサートも予定されている。この盛り上がりが今後もずっと続くことを願っている。(中村秀夫記)

酒田市民会館 希望ホール TEL 0234-26-5450 FAX 0234-26-5452

「ハーモニーホールふくい」にパイプオルガン新設

 平成9年にオープンして以来、ハーモニーホールふくい (本ニュース1997年10月号参照)は、一般県民はもとより広く海外からも多くの世界的著名アーチストによる音楽会が催され、県民の発表の場として、また鑑賞の場として親しまれてきた。そして本年3月この大ホールにパイプオルガン(70stops)が完成し、パイプオルガンを持つ大型コンサートホールの仲間入りをした。

パイプオルガンの設置計画

 ホールの計画段階からパイプオルガンがホール正面に設置されることが決まっており、オルガンバルコニーが用意され、壁面はいずれ外すことを考慮してデザインされた。 また音響面では、パイプオルガンがホール内における大きな吸音体となるため、パイプオルガン設置前後のホールの音響条件をなるべく変えないように、パイプオルガンの吸音を想定した吸音体(面)を正面壁面に設けていた。

オルガンビルダーの選定

 オルガンビルダーは、ホールに関わりのある音楽関係者や県内の識者などにより組織された選定委員会により、国内1社、海外6社(ドイツ3社、スイス2社、フランス1社)の7社の候補の中からプロポーザル方式により、ヤマハ株式会社を代理店とするシュッケ社が選ばれた。シュッケ社は、ベルリンを本拠地とし、当地のベルリンフィルハーモニーホールを始めとし、日本ではNHKホール、愛知県立芸術劇場、石川県立音楽堂などの著名ホールへの納入実績を持っている。オルガン製作と現場の工事期間は約2年半で、豊田市コンサートホール(本ニュース2003年11月号参照)においてオルガン(ブランボー社)の選定にかけた時間や完成まで8年という長さに比べるとこの選定方法や工事期間は日本の建設工事の感覚に近い。しかしその違いがどこに現れるのか、そのオルガン本体のもつ魅力はそれぞれあると思うが、それをどのように使いこなしていくか、使い手側の知恵と工夫や今後の意気込みにも繋がっていくように思う。

パイプオルガン設置後の残響時間

 パイプオルガン設置前後の残響時間(空席時)を比較して下図に示す。設置前と比較として500Hz、1,000Hzはほとんど変わっていないが、125Hz、250Hzについては0.2~0.3秒短くなっており、当初オルガンの吸音を見込んだ吸音面の吸音力よりオルガンの吸音力がやや大きかったことになる。図からも分かるが、設置前の残響特性は比較的フラットであったが、設置後は馬の背中のような特性となっている。125Hz、250Hzあたりの残響時間が短くなったことは悪いことではないが、このように周波数特性が変わり、舞台正面壁に大きな拡散吸音面が出来たことで反射音性状も変わることになり、響の質がどのように変わっているのか、今後のコンサートが楽しみになる。(小野 朗記)

ハーモニーホールふくい(福井県立音楽堂)http://www.hhf-cf.or.jp/java/index.js

本の紹介 日本のオルガンⅢ

発行所:日本オルガニスト協会 定価15,000円税込
編集:廣野嗣雄、馬淵久夫、椊田義子、菅 哲也

 本書は日本のオルガンⅠ(1985年)、Ⅱ(1992年)に続く3巻目の出版物で、その内容は教会、コンサートホールから個人宅まで、わが国にあるパイプオルガン320台の外観、仕様(鍵盤の段数、ストップリスト等)が、北海道から南九州の順にまとめてある。前回までの資料を含めると、わが国では850台以上のパイプオルガンが活躍していることは驚きである。

 この第Ⅲ巻で気が付いた点は、日本のオルガン製作社約20社による作品例が112件と、国際的に見てもトップにあることである。また、日本オルガン研究会の資料によれば、首都圏に限ってもオルガンコンサートは毎月20を越えている。しかし、その殆どは一般のクラシック音楽界からは隔絶した状況で行われている。

 オルガンは建築空間に固定して設置される大型の楽器であり、その導入に当たっては設置される空間の建築や音響との関連が大きな課題である。それだけに、本書において、これらについての記述がないことは建築や音響関係者にとっては残念である。また、その運用の実態についての資料もほしいと思う。本書はオルガニストによる編集ゆえにやむを得ないとしても、オルガンを巡る多彩な環境についての資料を望むものである。(永田 穂記)

永田音響設計News 発刊200号

 本Newsは事務所の活動状況、音響に関する話題等を紹介し、より深いご理解の中で仕事を進めたいと、1988年1月に初刊し、今月号で200号となります。これも皆様のご支援、ご指導の賜と厚くお礼申し上げます。

News 1号の「サントリーホールの1年」という話題で、オープン後の利用状況から今でこそあたり前の「企画」と「サービス」の重要性を、50号の「建築音響設計と音響技術」では、いろいろな角度から音響設計技術の現状と課題について、100号では「音響設計と音場シミュレーション技術」として音響設計におけるツールとその適応等、まだまだ不確定なものもあるものの、音響設計の現場ではほぼ確立されてきた音響技術について取り上げてきました。また、「今後のホール運営を考える」というシリーズでは、元気なホールの秘訣を探るとはいかないまでも特徴あるホールにスポットを当て、ホール運営の情報交換的な役割と位置付け、その実態をご紹介してきました。ホールを取り巻く社会環境は確実に変化しており、様々な要求水準に対しより適切な対応が求められています。ここでは、初刊当初の精神に基づき皆様との意見交換の場として紙面の充実に努めたいと考えておりますので、今後ともよろしくお願い申し上げます。(池田 覚記)

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