グランキューブ大阪(大阪国際会議場)
大阪国際会議場は、大阪における世界交流の拠点として計画・建設され、2000年4月にオープンした。2,754席収容のメインホールを中心に、イベントホール・中小会議室・特別会議場など、総合的なコンベンション開催可能な施設が収容されている。施主は大阪府、設計は黒川・イプスタイン・アラップ共同企業体、施工は竹中工務店ほかJV、運営は(株)大阪国際会議場である。
全体概要
建築規模は地下3階・地上13階。中間トラス層を東西6カ所のコア(巨大な柱)が支える鉄骨スーパーフレームという構造で、東西約95m×南北約30mという各階平面を無柱で形成している。主要各室は中間トラス層をはさんで積層に配置されている。
メインホール
メインホールは主階席:1,706席、2階席:1,048席の2層構成で、壁・天井は折り紙をイメージして複雑に折れ線が入ったデザインである。会議が主目的ではあるが、式典、ポピュラー系・クラシック系コンサートなど多目的な用途への対応も図られている。2分割利用のための大型可動間仕切り、客席から舞台への転換が可能な大規模可動床、舞台名物機構・舞台照明設備、舞台音響反射板など建築設備的な対応のほかに、音響的には次のような対応を行った。
(1) 大音量への対応:
ロックコンサートなどの大音量を、周辺会議室において支障ない程度に遮音するために、メインホールを防振遮音構造とした。特徴は、段床PC版をゴムで支持した防振床である。上階会議室・下階イベントホールにおいて、500 Hzで80dBを越える遮音性能が得られている。
(2)音場支援:
メインホールは会議が主目的であるため、建築的には短めの響き(平均吸音率0.3)になるように内装条件を設定した。折り紙形状壁面の約50%が有孔板(背後にグラスウール)による吸音仕上げである。この室内音響条件はロックコンサート等SRシステムを使う音楽には適しているが、クラシック音楽など生音のコンサートには響きが短い。そこで、音場支援装置としてAssisted Acoustics (AA、ヤマハ製)を導入した。AA収音系はホールを一体で使用する場合と2分割する場合の舞台の位置に対応して2系統24チャンネル、再生系は60チャンネルである。空席時における中音域の残響時間は、会議形式(舞台袖壁・舞台天井:閉、音場支援:OFF):1.6秒、コンサート形式(舞台 反射板設置、音場支援:ON):1.9秒、劇場形式(舞台袖壁・舞台天井:開、音場支援:OFF):1.3秒である。3月23日、施設運用の予行演習を兼ねたプレイベントとして大阪センチュリー交響楽団の演奏会が行われたが、オーケストラにとって初めての会場ということで音場支援装置は使われなかった。ゲネプロで席を移動して聴くことができたが、全体的に響きが少ないという印象であった。生音を中心としたコンサートでは音場支援動作を標準とすべきとの思いを強くした。
□特別会議場
特別会議場は、半径11.5mの円筒の上にドーム天井を乗せた形状である。音響学の教科書では最も音響障害が起きやすいとされている形状である。音の集中を緩和するために、ドーム天井と下見貼風壁面の中・低部を有孔板(背後にグラスウール)による吸音仕上げとした。当初ドーム天井の開孔率は45%であったが、施工途中でドーム面への映像投射という機能の追加があり、その両立を図るために、開孔率を20%に変更した。変更にあたって、既存の全天空映像ドーム(ドーム仕上げの開孔率10%および20%)内での拡声音試聴を行い、映像の質が許容できる最大の開孔率20%であれば、拡声設備を用いた会議は可能であることを確認した。また、最終調整段階で、通気性のない透光性シートを中央部リング状照明フレームの内側に貼った。こうした対応を行っても音の集中がまったく解消されたわけではないが、実用上問題がない程度には和らげられている。室中央では音の集中が強く残っているが、会議用机・椅子を馬蹄型に配置した使用パターンでは中央付近には人が立ち入らないため、電気音響設備を使った講演会・会議など、ほぼ支障なく行うことができる。
メインホールの多目的利用のための防振遮音や音場支援導入、特別会議場の円形・ドーム形状への対応など、音響的に興味深い課題がいくつか与えられた施設の設計であったが、所期の目標は達成できたと考えている。メインホールの音場支援や特別会議場など今後の使われ方をフォローして行きたい。(小口恵司記)
ヘルシンキ・ミュージック・センターのプロジェクト
フィンランドの首都ヘルシンキの新しいコンサートホール(ヘルシンキ・ミュージック・センター)のプロジェクトが始まった。およそ1800席のオーケストラ用のコンサートホールで、オープン後はヘルシンキの2つのオーケストラ(フィンランド放送交響楽団、ヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団)のホーム・グラウンドとなることが決まっている。また、オーケストラの他にシベリウス・アカデミー(フィンランド国立の音楽大学)も入ることが決まっており、アカデミーのための各種練習室も計画に入っている。場所は、現在2つのオーケストラのホーム・グラウンドであるフィンランディア・ホール(Alvar Aalto設計)に隣接した敷地で、反対側の隣地には現代美術館(Steven Holl設計)、向かい側は道をへだてて国会議事堂という、まさにヘルシンキの中心部といえる所である。オーナーは、フィンランド政府+ヘルシンキ市+フィンランド放送局の3者で、各々が 50%(政府)、25%(市)、25%(放送局) を出資することになっている。
国家的プロジェクトであることから建築設計者は国際的なオープンコンペによって選定することが計画され、1999年の3月にコンペの要項が発表された。このコンペの大きな特徴は、2段階コンペとした上で1段階目でいくつかの優れた案が選定されるが、2段階目に進むのは選ばれた優秀案のみでなく1段階目の全ての応募者に対して2段階目に進む権利が与えられたことである。かつてこのような選定方法は聞いたことがないが、1段階目を経ることによって応募者に審査員達の意向やプロジェクトそのものをより理解してもらった上で2段階目に進んでもらい、より充実した案を選ぼうという意図のようである。従って、1段階目と全く違った提案も可能であった。機会はより広く平等に、しかもプロジェクトの性格を十分理解してもらった上で良い提案を求めるひとつの考え方かもしれない。しかし、これらに費やされる応募者の負担も全体では膨大なものとなる。
1段階目のコンペは1999年8月に締め切られ、11月には優秀6作品とともにその講評が発表された。翌2000年1月に2段階目のコンペ要項が発表され、2000年4月に作品提出の締め切り、2ヶ月後の6月には最終結果が発表された。事務局によると、1段階目の応募者は247名(うち国外が約半数)、2段階目は71名とのことである。コンペの審査委員会は、地元の建築の専門家を始めとして国や市、放送局の担当者、オーケストラやアカデミーら使用者側の代表者など19名で構成され、この他に9名が審査委員会のアドバイザーとして指名された。永田音響設計は審査段階の音響関係のアドバイザーとして審査委員会に協力することと、コンペ終了後に引き続き実際の設計業務を担当することを依頼された。
最終的には、1等賞、そして実際の設計担当者として、地元トゥルク(Turku、ヘルシンキの西方約160Km程の所にあるフィンランド第2の都市)の Laiho-Pulkkinen- Raunioという約20名程の建築事務所が選ばれた。この10月から早速、オーナーや使用者なども交えた具体的な設計のためのミーティングが開始されている。ただし、現状では予定敷地内に古い倉庫群が存在しており、これらを利用した夏期の「市」が市民の憩いの場として定着していることから、これらの撤去に対する反対運動も起こっており、今後のスケジュールに関しては未だ紆余曲折が予想されている。(豊田泰久記)
東京事務所移転とUS事務所開設のお知らせ
来年1月に東京事務所を移転します。新しい事務所は、地下鉄丸の内線の本郷3丁目駅から徒歩約4分、本郷教会の隣の閑静なところです。文京区の保存樹木に指定されている楠の大木が目の前にあり、事務所の窓からその豊かな緑を目にできるという、都心部ではなかなか得難い環境のもとで、新たな気持ちで業務に取り組む所存です。移転に際しては何かとご迷惑をおかけしますが、皆様のご理解と今後も変わらぬご支援をお願い致します。新事務所での業務開始は平成13年1月15日(月)を予定しています。
【東京事務所移転先】
〒113-0033
東京都文京区本郷2丁目35番10号
本郷瀬川ビル3階
TEL:03-5800-2671
また、本年初号でお知らせしたとおり、弊社はアメリカを中心とした海外業務を積極的に展開していく方針のもとに、その具体化に向けて計画を進めてきましたが、第一歩として、このたびカリフォルニア州サンタモニカ市にUS事務所を開設しました。当面は、ロサンゼルス市内に建設が進められているウォルト・ディズニー・コンサートホールをはじめとして、現在進行している米国内のプロジェクトの対応が主となります。機会がありましたら是非お立ち寄りいただければ幸いです。
【US事務所】
201 Ocean Avenue,Suite1205B
Santa Monica,CA 90402
U.S.A.
TEL:(310) 451-6230
US事務所は2005年6月より下記の場所に移転いたしました。
2130 Sawtelle Blvd., Suite 307A,
Los Angeles, CA 90025, U.S.A.
Tel: (310) 231-7818, Fax: (310) 231-7816
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