永田音響設計News 00-02号(通巻146号)
発行:2000年2月25日





富山に新たなホール:富山国際会議場(大手町フォーラム)

富山国際会議場の平面図
富山国際会議場の外観
 富山市内には、すでに富山市民プラザ(本誌25号で紹介)、富山市芸術文化ホール(オーバードホール)(本誌 108号で紹介)など、私どもがお手伝いした室内楽ホール、本格的なオペラもできる大きな舞台を持つ劇場があり、市民の文化、芸術活動をサポートする場として親しまれている。ここでご紹介する富山国際会議場は、昨年8月オープンしたホールで、環日本海交流時代に向けた中核都市・富山の拠点施設として市中心地区の大手町に都市型ホテルと合わせて建設されたコンベンション施設である。この大手町地区は、JR富山駅から南約1kmに位置し、県庁、市役所、県民会館、図書館等の公共施設が集まった官庁街と、中心的な商業街である総曲輪地区のほぼ中間にあり、お堀で囲まれた緑の多い城址公園に隣接している。

 この城址公園周辺にはすでに10年ほど前に前述の富山市民プラザがオープンしている。市民プラザはアトリウムを中心に308席のアンサンブルホール、アートギャラリー、マルチスタジオや市民学習センター、外国語専門学校などの文化、情報、学習施設をはじめレストラン、ショップ、フィットネスクラブなどのレクリエーション施設を複合した都市型のパブリックセンターとして広く利用されている。この市民プラザの建設に合わせて前面の大手町通りがプラザと一体的に開発され、大手町モールと呼ばれるオープンスペースも誕生しているが、新たにオープンした国際会議場はこの大手町モールに面して建てられている。市民プラザが市民の日常的な、また多様な活動のためのものであるのに対して、これに隣接する国際会議場を柱としたコンベンション施設は、これからの国際社会を視野に入れた地元の企業や商店関係者の活動の場としてはもちろんのこと、市民に対する国際的な情報交流を支援する場としても位置付けられ、これら施設の集積、相乗効果によって富山の中心であるこの地区の活性化が期待されている。

 このコンベンション施設は、富山市大手町地区第一種市街地再開発事業によって整備されたもので、大手町モールを挟んで東地区のホテル棟と西地区の国際会議棟の東西2棟の建物により会議、バンケット、宿泊機能を一体化している。県、市等からなる第三セクターの富山大手町コンベンション(株)が運営する国際会議場は、1階がポスターセッション、資料展示、物産展などコンベンションに関わる企画展示のできるアトリウム、交流ギャラリー、アートサロン、2階が特別会議室、約500㎡の4分割可能な多目的会議室等の会議室群、3、4階が広いホワイエを持つメインホールという構成で、ガラスのカーテンウォールの内側に木格子のスクリーンが取り付けられ落ち着いた外観が特徴の建物である。この木格子、ガラスと組合わせられた内外装材として、また、日射の調整、外部からの視線を遮りながら内部からの展望を確保するなど、いろいろな機能を担っているが、視覚的にも北陸にあって温もりのある空間を創り出しているように思う。東地区のホテル棟とは地下駐車場で連結されている。設計は富山市民プラザ、大手町モールを手がけた槇総合計画事務所である。

富山国際会議場メインホール
 メインホールは扇形の平面形状に、ワンフロアーの客席配置とした825席の会議場である。オープン形式のステージと、それを取り囲むような客席からくる一体感、長時間の会議やイベントに配慮して、ゆったりと配置された座り心地のよく、メモ台、手元照明を備えた大型の椅子、6ヶ国語対応の同時通訳室、大型映像設備をはじめとする充実した特殊設備、椅子下部吹出し方式の快適な空調設備等々、関係者の要望により会議場に求められる機能を積極的に取り込んだ会議場である。

 このメインホールは、すでにあるオーバードホール(1650~2200席のプロセニアム型)、市民プラザのアンサンブルホール(308席のオープンステージ型)の性格、形態、規模、利用実態等から、基本計画では、国際会議等の会議系の使用を主目的としながら、この規模のホールの需要を配慮し、クラシックコンサートの使用も視野に入れられていた。このため、会議系ホールとして必要なステージと客席条件に基づいた平面形状等と響きを抑えた設定を検討する一方で、豊かな響きが要求されるコンサートホールとしても対応できるように、余裕のある空間、響きの質に関係する初期反射音の付与と残響の伸長を意図した音場支援装置の導入、その他、遮音、設備騒音の低減、内装仕上げの音響性能のグレード等についても検討してきた。しかしながら、実施設計段階において、国際会議等の会議系を主目的とするという明確な方針が示され、当初のコンサートホールとしても利用するという厳しい音響条件が外された。このため、音声の明瞭度の確保に重点を置いて音響設計を行ったが、竣工時の音響測定データを含めて、結果的に良好な音響性能を持つ国際会議場として完成している。

 本会議場のオープンは、学会等のシーズンということもあり、早々に学会、フォーラム、シンポジウム、式典・大会、講演会、展示会等の利用が連日であった。なかには、コンサート、落語などの催し物もみられるが、ほとんどが会議系の利用である。今年は「2000年とやま国体《の年でもあり、その関連イベントの会場として多くの方の利用、参加が見込まれている。このホール、コンサートホールのようなオープンステージ形式の美しい空間であるだけに、コンサート会場としての期待も高いようである。会議を主目的とした施設であるが、その条件の中でいろいろな催し物に利用されることも期待したい。(池田 覚記)
(富山国際会議場:富山市大手町1-2 TEL.076-493-4455 http://www.ticc.co.jp/) 


同時通訳ブースの標準規格(ISO2603)

 国内各地で国際会議場の完成の話題を良く耳にする。本誌11月25日号では新たに完成したつくば国際会議場を、そしてこの号では富山国際会議場の完成をご紹介した。またこの春、大阪国際会議場もオープンする。景気刺激策の一つとして10年ほど期間延期された民活法に基づいた特定施設に対する支援も、国際会議場の整備を推進させている一つの原動力となっているようだ。

 このような国際会議場に上可欠な同時通訳ブースについての標準仕様がISO2603に定められており、一昨年Third edition(第三版)が出された。内容は、この規格の有用性や適用範囲、出典、用語の定義などから始まり、ブースの構造や性能に対する設計の条件、通訳者のための付属施設および設備、通訳機器の性能や大きさ、配置などの条件について事細かに記されている。ここでは建築条件などについてその概要を紹介する。

通訳ブースの配置:まず各ブースから議事の進行や発言者が示す映写スクリーン、また音響調整室などが見渡せるような位置(高さ)とすべきであるとしている。音響調整室のオペレータは、参加国が多い場合、発言者の言葉を英語に訳す通訳に送り、同時にその音声をその他の各国語の通訳に送り、各国の言葉に訳された音声を各出席者に送る。したがって、議事の進行に支障のないように通訳とオペレータとの意志の疎通が必要になるが、音声での相互のやりとりがし難いためアクシデントがあった場合のために視覚的な合図や、互いの行き来を容易にする配置が重要になる。

同時通訳ブースの推奨仕様
ブースの建築的条件:ブースの大きさや机、窓等の必要寸法を図に示す。ブースの最低寸法は2吊入室の場合、幅2.5m、奥行き2.4m、高さ2.3m、長い会議の行われるような会議場では3人の通訳が入ることもあるため、その場合には幅3.2m以上確保する。 窓は正面と側方に設け、その寸法は図に示す通りで、コーナー部分のサッシの方立てを避け議場内を見渡せるようにする。ガラスは無反射光ガラスとするか、作業灯の写り込みを防ぐために若干傾ける。扉は防音性を考慮し、20×22cmの覗き窓を設ける。内装材は基本的に吸音材とし、作業環境として適当な色彩で艶消しとする。作業机は窓の幅いっぱいに設置し、机上での雑音をマイクで拾わないように、緩衝材で覆う。資料棚は通訳の背後の壁などに設け、机の下に置かない。キャスター付きラックも推奨できる。通訳の椅子については、5本脚、高さ自由調整、バックレスト、アームレスト、雑音のないキャスター、熱をためない材質の布貼りなどの条件が望ましい。

ブース内の建築設備:換気回数は7回 / 1時間、吸気は100%新鮮空気とし、CO2濃度0.1%以下、室温は18~24℃、湿度45~65%を保つ。吹出口、吸込口の位置は通訳にドラフトを感じさせないように配慮し、吹出し風速は0.2m/sを越えてはならない。空調設備系統は会議場や他の諸室と分ける。照明は机の作業灯と一般照明の2通りが必要で、作業灯には蛍光灯でない自由に動かせるテーブルランプを用いる。調光スイッチは通訳の位置から手の届く所に設け、100 lxから350 lxまでの調光とする。さもなければ、100 lx~200 lxの照明と300~350 lxの照明の2通りを用意する。調光トランスなどからの雑音を出してはならない。会議場への光漏れを避けるために、電球とその反射板の遮光の範囲に配慮する。

ブースの音響条件:遮音性能についてはブース→会議場間でR'w=48dB、ブース相互間R'w=43dB、ブース→通路間R'w=41dBを標準とする。このR'wはISO717-1に示された評価基準だが、おおむね中音域の遮音性能と見れば良い。ブース→会議場間は、ほぼ窓の遮音性能で決まるためこの数値はかなり厳しい値といえる。ケーブルダクトはブース間を渡るため、間仕切りの貫通部による遮音性能の低下を防ぐために充填材を詰める。残響時間については125Hz~4KHzのオクターブバンドで0.3s~0.5s(空室)を目安とする。

通訳のための施設:通訳室は、資料の勉強、注意事項のお知らせ等の掲示、休憩のための室で、通訳ブースに近いことが望ましい。そこには次のような機器家具が必要である。楽な椅子、テーブル、コートラック、ロッカー、電話・FAX、コピー機、掲示板等。

通訳ブースにおける音響機器:これらの全ての仕様はIEC 60914に示されており、音響機器およびその性能については最新のIEC 60914に従うようにとしている。(小野 朗記)

【移動型通訳ブース】移動型ブースに対してはISO/FDIS 4043 FINAL DRAFTでその標準仕様を示している。その内容は固定型ブースの仕様であるISO 2603をベースにブースの分解、組み立て、運搬と取扱上の条件を満たすようにしたもので、概要は以下のとおりである。

ブース設置場所、寸法等:視界を確保するためにブース床は会議室の床上から最低でも30cm上げるべきとしている。また、ブースからの音声によって会議参加者に迷惑がかからないように少なくとも2mの離隔距離が必要である。ブースの寸法は標準型で幅1.6m (2人以下)、2.4m (3人)、3.2m (4人)、奥行き1.6m、高さ2.0mである。しかし、この標準寸法が採用できない例外条件においては小型のものを規定しており、最小寸法は1.5m×1.5m×1.9mである。入口扉は静かに作動することが重要で、外開き、鍵は上要である。引き違い扉とカーテンは遮音性から上適当である。ケーブルの引込口はブース側面または正面パネル面に、使用機器のケーブル本数に対し十分に、かつ最小寸法とする。

ブースの換気設備:換気用ファンは天井に設置し、換気回数は固定ブースと同様に少なくとも毎時7回必要である。空気取入口は通訳者の足へのドラフトを避けるためブース後壁パネルの低い位置とすべきとしている。換気騒音については40dB(A)以下である。

ブースの音響条件:遮音性能についてはブース→ホール間15dB(500Hz)以上、ブース→ブース間21dB(500Hz)以上必要としている。残響時間の条件は固定ブースと同様であるが、吸音を高めるためにカーペット敷きの床上に設置すべきとしている。(浪花克治記)


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